第22話

目的の鎧は期待外れだったが、実在していたという事実を収穫に、モブータたち五人の一行はグラン・ネーヴェの城門をくぐり広場まで帰還した。


「あー、初めての冒険だったからすげぇ疲れた気がする…」


洞窟の探索に魔物との戦闘。慣れない事だらけでモブータは肩に重りが乗っているような疲労感に深く息を吐く。


「ゼル…!」


そんな時、先頭を歩いていたゼルに、パンイチ姿を隠す為に厚手の布を纏う剣士が名前を呼び掛けた。


「なんだ?」

「俺…お前の事、すごい勘違いしてた…。だから!昨日あんな事言って…ごめんっ!」


昨日の昼間と同じ場所。今は陽光が朱色掛かっているが、この前とは違う状況が生まれていた。


「…いいよ、気にしてねぇから」


──言葉足らずだねぇ。


言い方に棘は感じないが、もう少し気の利いた事を言えないものかと、モブータはゼルの言葉にそう思った。


「あと!」


剣士から顔を逸らそうとしたゼルを、その一言が引き止める。


「俺、お前みたいな強い戦士になりたい…!なってみせる!」


強い決意を秘めたその目に、ゼルはこう言った。


「…それじゃ、俺はもうお役御免だな」


そして、少しだけ笑みを浮かべてこう続けた。


「がんばれよ」


それだけ言うと、ゼルは下街から繁華街へと続く方へと歩き出した。


思いを伝える事ができ、励ましの言葉も貰ったのが嬉しかったのか、これから戦士を目指す剣士の彼は少し涙ぐみながら仲間の二人に決意を誓うのであった。


それを目の当たりにしたモブータは、自分からも励ます一言を伝えると、彼らに別れを告げ帰路に立った。




「いやー、我ながら凄い目に遭った」


装備を宿に置いてくると、モブータは馴染みの酒場へとすぐに足を運んだのであった。


「それで冒険者の恰好のままでここに来たってのか?」

「おう。様になってるか?」

「いつもの採掘帰りの姿の方が似合ってるなぁ」


エールを飲みながらいつもの面子に今日の出来事を話したが、彼らは皆モブータが冒険者をやった事に「似合わない」だの「オッサンが無理するな」だの笑われたが、自身もそう思っていたので違いないと一緒に笑っていた。


談笑を楽しんでる時、酒場の入口が開き、来客を知らせるベルがカランと軽快な音を立てた。


酒場の衆は聞き慣れないベルの鳴り方に、入口へとその目を光らせて向けるのだった。


「聞いた通り、ちゃんとここに居たな」


荒くれ者みたいな顔立ちの酒場の常連たちは、皆表情を凍らせた。


「なんだ、ゼルじゃねぇか?」

「オッサン、特徴無さすぎて探すの手間取ったぞ」


城下街の酒場に、ゼルがやってきたのだった。


彼の悪評は酒場でも兼ね兼ね噂になっており、実際に絡みに行ったら返り討ちに遭った人間もそこそこいる。


だからこそ、酒場の衆たちは見て見ぬ振りをして、ゼルから目を逸らして樽のジョッキに入ったエールをちびちびと飲むのだった。


ゼルがモブータの向かい側の席に座ると、店員の女性が直ぐ様注文を取りに来た。


「お客さん、ご注文は?」

「そうだな…ミルク」

「おっ?」


モブータはこの前の出来事を思い出し、少し顔をニヤけさせた。


しかし、先程から静まり返っている店内。いつもなら皆が大笑いをしてバカにし始めるのだが、その気配が一向に無かった。


その状況に、逆にモブータは動揺して周りを見渡す。


「…おいどうした?」

「どうしたのはお前の方だよ、モブ太郎」


ゼルに不思議な呼ばれ方をされ、モブータは少し間を置いた後に聞き直した。


「モブ太郎って…俺の事言ってる?」

「こんなオッサンだらけの所でオッサンって呼んでも区別付かねぇだろ。だから名前で呼んだんだ」


確かに一理あるが、昨日から通してみて、名前で呼ばれたのは初めてだったので、モブータはどこか嬉しい様なむず痒い気持ちになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る