第11話
モブータとゼルがグラン・ネーヴェの城門をくぐって城下街の玄関口の大広場に着いた頃には既に日の入りの時間になっており、街のあちらこちらに灯りが点いていた。
「なぁオッサン、あの剣以外に噂になってる武具の在り処…知ってるか?」
「え…?いや、知らないっすネ……」
「その反応、情報持ってんな?ほら、ジャンプしてみジャンプ?」
「またこのやり取りかよ!」
モブータはまた上下に跳ねさせられるが、硬貨が鳴る音と二十二世紀にありそうな秘密道具がポロポロと出てくるだけだった。
「まぁいい。今日は遅いから見逃してやる」
「え?じゃ、俺はこの辺で…」
「ただ…」
そそくさと退散しようとするモブータを制止するように、ゼルは言葉を続ける。
「明日は朝から付き合ってもらうぜ。ここを集合場所にするから逃げんなよ?」
「嘘だろ……」
一難去ったらまた一難が全速力で背中を追いかけてくるような感覚に、モブータは思わずゼルの目の前で頭を抱えてしまった。
「なんだよ、オレが付いてやるんだから多少の危険は平気だぜ?」
「いや、そうじゃなくて…」
一緒にいるのが嫌だ。なんて言葉は相手がいかに怖がられている人物であろうと、人を傷つける事になりかねないからモブータは静かに飲み込んだ。
「とにかくだ。報酬は今日のも含めて用意しとくから、オレからの依頼として受け取れ」
強引に話を進めると、ゼルはようやくモブータを解放するように一人で歩き出した。
「っと、そういや名乗って無かったな」
と思ったら振り返ってゼルはそう言った。
──知ってるけどね…。
だが黙ってる方が吉と見たモブータは、ちゃんと向こうから言葉を切り出すのを待つ。
「オレはゼル。オッサンは?」
「…モブータだ」
「モブ?ふっ…」
名前を聞いて、ゼルは一度鼻で笑った。
「オッサンっぽい名前だな」
「そりゃどーも」
「それじゃ、また明日な」
今度こそモブータと別れるように街の中へと歩き出したゼルを、その小さな背丈が人の流れに消えていくのを見送ってからモブータは大きくため息を吐いた。
「面倒な事になったなぁ…」
片手で頭をくしゃくしゃと撫でるモブータは、嫌そうな顔をしながら帰路へと立つ。
だが、その時何か引っ掛かる思いがして、モブータはゼルが消えていった雑踏の方へと向き直した。
「あいつ、”モブ”って言葉に反応してたか…?」
今日の事を宿屋の自室で纏めて日記に綴っていた。この異世界に来て初めて愚痴を詰め込んだような内容になってしまったが、モブータは致し方なしと割り切るしかなかった。
「はぁ…明日もその災難が続くのか…」
何せ同行するのが酒場で良い噂を一度も聞かない”暴れん坊のゼル”だ。おまけに暴力現場と印象が良くない脅すような場面を見てしまっているから尚更だ。
「なんか変に気疲れしたな…」
日記帳を閉じると、モブータはベッドに寝転がる。疲れからか体に重しが乗っている様な感覚を覚える。
「…何事も無ければ…いや、何事も起こらないでくれ」
明日の不安を吐露するが、どうしてもそれは拭い切れず、モブータは結局寝付きがいつもより悪いまま次の日を迎えるのであった。
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