第38話 試合に負けて勝負に勝った……?
ティーンズラブをご存知だろうか?TLと略されることが多いこれは、女性向けのちょっと大人なジャンルだ。
TL漫画は少女向けの雑誌に載っていると平井が言っていた。つまり、少女向け雑誌を見ている女子は、(おそらく)男子より大人なことに詳しい。もちろん、伏字の意味も知っている。
(男子より知識豊富なくせに、男子を変態呼わばりしやっがて……!男子より変態なくせに……!)
尾田は、女子への風評被害を加速させていた。理不尽極まりないが、こうなったのには訳がある。
「尾田さんだけが頼りなんです!解読を手伝ってください!お願いします!」
相川が、伏字の解読を頼んでいるのだ。大声で。そのせいで、女子の視線が冷ややかだ。明日には虐められるんじゃないか、ってぐらい冷ややかだ。
歴戦のオタクの尾田は陰口なら笑い飛ばすが、イジメは怖い。イジメは嫌だ。
伏字は、書いてはいけないことを書く場合に使われるのだ。教室で解読するのが企業名とかなら良いが、エッチなワードはアウト。
おそらく女子達は、エッチなワードの解読をしようとしてると思っているのだろう。男子というイメージだけでそう決めつけている。尾田は、そう判断した。
(たしかに、エッチなワードだけど……!男子でオタクってだけで決めつけられるのは納得いかない……!)
決めつけているとは、誰も言っていない。尾田が勝手に思っているだけだ。
理由は色々あるだろうが、尾田の怒りは被害妄想。女子がどう思っているかは、本人にしか分からない。
女子で非オタというだけで決めつけている尾田も大概である。
まあ、他人の考えなんて、妄想で補うしかないから仕方ないのだが……。
「相川氏、落ち着くでやんす。ゲームの伏字は、特に意味が無いことも多いでやんす。とにかくヤバイことを言った、という事実でキャラを強めるのが目的でやんすな。最初っから意味なんてないでやんす」
「では、この伏字も……?」
「意味なんて無いと思うでやんす」
「そうでしたか……。さすが、尾田さん物知りですね」
上手く騙されてくれたようで良かった。尾田は胸を撫で下ろした。
「ところで、ゲームは順調でやんすか?行き詰まってないでやんすか?」
「あー……実は、昨日聖戦でこっぴどくやられまして……とりあえず、リヴァイアを仲間にしようと思うんですが……女神やスキルのレベルも上げないといけないですし……今夜の聖戦には間に合いそうにありません……」
はあ……と、相川はため息をつく。
女神の強化は大変だ。純粋にレベル上げるだけでも大量の経験値アイテムが必要な上に限界突破がある。
そして、限界突破アイテムは曜日クエストでしか手に入らない。今日中にどうにかできるのは、女神一体が限界だろう。
そして、スキルの育成はもっと難しい。大量の経験値アイテムが必要なのは同様。プラスで、限界突破には、同じランクの同じスキルを合成する必要がある。
しかもこのスキル、作成が大変。メインクエストで、低確率ドロップの『スキルの欠片』を集めて作成しないといけないのだ。
ただでさえ経験値アイテムを手に入れるのにスタミナがいるのに、材料収集にも大量のスタミナが必要なのだ。
そして、スキル合成も大変。
最低ランクは星1。星1ランクのレベルMAXスキル2つで星2に出来る。そして、星3にするには星2のレベルMAXスキルが二つ必要、というシステム。
星3にするには、星1スキルが8個必要なのだ。一つ作るのに、大量のスタミナを消費するのに、それを8個。
しかも、ランクが上がる度に必要経験値が上がる。それを補うためにサブクエストを巡回して……。
「スタミナが……圧倒的に足りない……」
相川は、手で顔を覆った。あまりの鬼畜要素に精神が耐えきれなかったもよう。
ちなみに、スキルの最高ランクは星5だ。星1スキルが32個必要。……鬼畜だ。
「ま、まあ、聖戦のポイントで、スタミナポーションとか限界突破アイテムとか交換できるでやんすから、元気出すでやんす」
「ですが、昨日は敵を一人も倒せなくて……全滅して……死ぬと分かってて妹達を突撃させて……私は……お兄ちゃん失格です……」
「いやいやいや……あえて死なせるのも作戦の1つでやんすよ」
「何を言ってるんですか!?それでもお兄ちゃんですか!?」
「ワイは一人っ子でやんす」
「そういう話ではありません!」
「はあ……」
何か知らんが、相川が熱くなっている。まさにオタクだ。オタクがドン引きするオタクだ。
尾田は、ドン引きしながらも話に付き合う。
「いいですか?ブイリトをやっている人は、皆お兄ちゃんなんです。妹である、ブイリトのキャラクターを愛し、守らなくてはいけません」
「メインストーリーちゃんと見たでやんすか?確実に、お兄ちゃんは守られる側でやんすよ。妹たちから……」
お兄ちゃんの扱いが酷いのだ。妹たちから守られて
「だからって……殺すなんて……尾田さんは酷いです!」
「はあ……ゲームで何をそんなにムキになってるでやんすか?本当に死ぬわけでも無いのに……」
「本当に死なない?だとしても、あの子たちは苦しんでいるんですよ!?」
本当に、なんでゲームにそこまで熱くなっているのだろう?勝ち負けではなく、キャラの苦しみ(妄想)で……。
面倒になった尾田は、オタク持ち前の語彙力で言いくるめることにした。
「そんな訳無いでやんしょ……。聖戦は試合でやんす。柔道とか剣道みたいなもの。そんな苦しみに満ちた試合をしてる分けないでやんす」
「ですが、HPが無くなって、死んでました……」
「死んだんじゃないでやんす。控え席に戻っただけでやんす。ヒットポイントっいう保有点数を全部使い切った感じでやんすな」
「じゃ、じゃあ、死んでない……?」
「死んでないでやんす」
「よかった〜……!」
愛する妹を死なせた罪悪感が無くなった相川と、妄言野郎を言いくるめた尾田は、ホッと胸を撫で下ろした。
「話を戻すでやんすが、ギルドポイントはどのくらい溜まったでやんす?」
「一回も勝てなかったので、全くないと思います」
「それはありえないでやんす。参加報酬は貰えるでやんす。あと、一週間のギルド順位による報酬は……無いでやんすね。月曜配布でやんすから」
相川がギルドに入ったのは今週。先週未所属だったのだから、貰えるはずがない。
「えっと……どこで確認するんですか?」
「聖戦の画面で確認できるでやんす」
相川は、聖戦のアイコンを押す。
「あれ?勝ってます……」
聖戦画面には、大きく『YOU WIN!』と表示されている。
「スコア35で勝ってる人初めて見るでやんす」
普通は、桁がおかしいぐらい数字が並ぶものだ。
「これ、どういうことですか?確かに負けたはずなんですけど……」
「相手の不戦敗でやんすな」
『YOU WIN!』の下に、敵と自分のギルドの、獲得スコアや出撃回数が表示されている。
敵スコアが0、味方スコアが35。敵出撃回数が0、見方出撃回数が2。
「見方も、相川氏しか参加してないから、最高スコア報酬、MVP報酬、出撃回数報酬、総取りでやんすね」
勝利報酬はギルド全員固定だが、最高スコア報酬、MVP報酬、出撃回数報酬は、それぞれギルド内一位だけが貰える。
「35で最高スコア報酬貰えるのは草でやんす。でも、それで三つの報酬を総取りできるのは、弱小ギルドの特権でやんすよね……」
意欲の少ないギルドが集う、最下層レベルの聖戦。初心者や、全く参加しないプレイヤーだらけで、勝つのが簡単。自分一人のギルドなら、報酬を独り占めできる。
「でも、ランキング報酬は上の方が破格でやんすし、今のギルドのままで良いでやんすな」
ギルド内で見れば報酬は大きく減るが、ランクの低いギルドよりも確実に多い。
損得を考えれば、ガチ勢のギルドに入ったがいいだろう。
「あ、あの、待ってください。状況がよくわかりません」
「何がわからないでやんすか?」
ゲーム慣れしている尾田には、初心者の考えていることがよく分からない。
「私は1勝もできませんでした。なのに勝ちました。負けたのに勝ったってどういうことですか?」
「そのままの意味でやんす」
「え?つまり、試合に負けて勝負に勝った、ということですか?」
「それは、意味が違うでやんすな……」
この後、獲得スコアを競う競技だと説明して、なんとか理解を得られた。
まさか、「試合に負けて勝負に勝った」という、発想をするとは……。初心者の考えていることは分からない。
説明の後、思い出して笑ってしまう尾田だった。
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