私の太陽とあなたの星
雨野 天遊
高校2年生
第1話 分岐
死にたいと何度か思ったことがある。
学校の授業をサボっては、屋上で飛び降りる真似をした。度胸のない私はいつも決心がつかずに、結局、そのまま屋上で授業をサボる。
空は残酷なまでに綺麗だ。
雲ひとつない。
そんな空に対して妬みに近い感情が沸きあがる。
もっと淀んでればいいのに……。
生きることがめんどくさい。そう思うようになったのはいつからだろう。
私(
新学期が始まり、クラスも変わり、教室も変わった。教室が一階上に上がったので、窓から見える校庭が遠く見える。前は近すぎて、体育の音がうるさくて授業中にイライラしていたのでちょうどいい距離になった。
変わらないことといえば、一年生の頃に仲良くなった、
昼休みに舞が近くにやってきていつものテンションで私に話しかけてきた。
「星空、一限目またサボったでしょ? どこ行ってたの? 私も今度一緒にサボりたい!」
彼女は軽くそんなことを言っている。いつも長い髪をお団子にして頭の上に乗せていて、見た目は明るく、性格もガサツでお調子者だと思う。一緒じゃなくてもサボっていそうな性格だ。
「ちょっと、体調悪くて休んでた」
私はめんどくさいと思いつつ、相手が嫌な気持ちにならない言葉を選ぶ。
「一年生の頃からサボりがちだから今日もかと思った」
たしかに、一年生の頃からをサボる日が多々ある。理由は簡単で、飛び降りれそうな気分の時に屋上に行く。
この気持ちは、誰にも打ち明けたことはない。
私が授業をサボっても先生から怒られないのは成績が学年で一番だからだ。
前に、成績が良くて、妬んでくる人達に1回いじめを受けたことがある。
***
「滝沢さんさぁ、ちょっと偉そうじゃない? みんな真面目に授業受けてるのに平気で戻ってきて何してるわけ?」
「もしかして、誰かとあってるとか! 学校の先生とイケナイ恋とか好きそうな顔してるもんね」
「わかるぅ! 大人しそうな顔して男遊び酷そう」
今考えればただの八つ当たりだったのだと思う。三人くらいに囲まれて居た。同じ学年の子だろうし、私がサボっているのがわかるから同じクラスかもしれない。
興味は全くなく、早くこの時間が終わればいいと思っていた。
「ちょっとなんか言ったら?! もしかして、否定しないってことはほんとなのかな。先生たちにバラしたら学校退学とかになるかもね」
キャッキャと喜ぶ声が聞こえる。
正直、めんどくさい。嵐が過ぎ去るのを黙って待つのは慣れているが、とにかくこの状況が早く終わって欲しいと思っていた。
「――あなたたち何してるの?」
聞いたことのない声が聞こえる。顔を上げて声のする方向を見ると、同じ学年の
人に興味のない私がなぜこの人のことを覚えているかというと、遠藤さんは学年の中で美人と有名だからだ。前に舞が遠藤さんと通り過ぎた時に小声で教えてくれた。
人に興味のない私でも、一回見ただけで忘れられないくらい綺麗だった。
校則に違反しない程度の茶髪の長い髪、整った眉毛、綺麗な二重、雪が降れば雪が乗っかりそうなほど長いまつ毛、高い鼻、薄くも厚くもないキリッとした唇。
本の世界から出てきたのかと思うくらい整った顔をしていた。
しかし、今はそんなことを言っている場合ではない。そんな有名な人を仲間に取り入れられたら、さすがの私も学校に居ずらくなる。
まいったなぁ……と頭を抱えたくなるこの状況にもっと頭を抱えたくなることが起こった。
「私の友達に酷いことしないで」
は……?
ただでさえもこの状況に頭がついて行かないのに、私はもっと遠いところに置かれてしまう。
次の瞬間、私は腕を掴まれて引っ張られ、そのままその場を離れた。彼女の勢いに何も言えずその場を立ち去ると、私を囲んでいた人たちの顔色が若干悪く見えた気がした。
その人たちのことはどうでもいいが、この状況はよく分からない。
「あの……」
私は動揺を悟られないように話しかけた。
「あっ、ごめんね。痛かった?」
私を掴む腕が離れ、圧迫されていた部分が解放される。なぜ助けたのかと聞きたいが、微妙な空気が流れ話しかけにくくなっていた。
「――滝沢さん、だよね?」
彼女に苗字を呼ばれ、ドキッとした。なぜ学校で有名な遠藤さんにいじめの現場を目撃され、助けられ、私の苗字が呼ばれるのだろうか。
「覚えてないよね……」
覚えてない……?
誰かと勘違いしているのでは? いや確かに彼女は私の苗字を呼んだ。滝沢なんて学校にはほかにも居そうだけど……と考えていると遠藤さんが少し低いトーンで話てきた。
「あーいうことする人たちってほんと最低! 見てられなかったからつい声掛けちゃった。ごめんね? 余計なお世話だったね」
私は首を左右に振り「大丈夫」とだけ伝えた。話は聞いているが人の顔を見ない癖がついていて、下を俯いたまま答えてしまう。
そんな私に彼女がぐっと距離を詰めてきて、「ほんとに?」と顔を覗いて聞いてきた。
助けてくれたのに今の態度は良くないなと思い顔を上げる。上手くできるか分からないけど、お礼くらいは言わければいけないと思ったから行動するだけだ。
「ありがと……」
言葉を発しながら彼女を見た。彼女を見て声が出なくなってしまう。
太陽の光が当たって明るすぎる茶髪に、健康的な肌の色、目は茶色でとても綺麗な色だ。唇は少しメイクしているのかピンクのリップクリームが塗られている。
制服は規定のブラウスに赤いネクタイが縛られていた。こっちも校則にギリギリ反しない程度に緩められ、第一ボタンは止めていない。少し短めの紺色のスカートに指定の白の靴下と黒の靴。
改めて近くで見ると色々とすごい人だと驚いてみていると、「そんなおびえなくてもいいのに……」と少し悲しそうな顔で告げられる。
彼女はじゃあと私に笑顔を向けてその場を離れてしまった。
「――ありがとう」
いつもと変わらない学校の雑音に私の声はかき消された。
***
そんなことを思い出していると舞の声が聞こえて現実に引き戻される。
「ねえねえ。放課後、パフェ食べに行かない?」
すごく自慢げにスマホの画面を顔の前に持ってこられる。私は顔に近すぎるスマホから顔を少し遠ざけて画面を見た。
「ここ写真映えで有名なカフェ! 彩りも飾りも何からなにまでかわいいし綺麗なの」
舞がすごく嬉しそうに見せてくるが、私は興味がなくてどういう顔をすればいいかわからなかった。
舞にはすごく感謝をしている。大した取り柄のない私のそばにいつも居てくれる。
仲良くなったきっかけは、たまたま舞の隣の席だった私が宿題を見せてくれと言われて見せたのがきっかけだったと思う。
私だから仲良くなったと言うよりは、ただ席が近くて仲良くなっただけだ。私でなくても舞は仲良くなっていた。しかし、それから彼女は私に懐いてくれている。
ただ、何をしても楽しくない私はあまり彼女のしたいことに興味がいつも湧かない。
「ちょっと今日は体調悪いから」と嘘をついてしまった。
「あ、そうだよねごめん。また誘うね!」
舞は優しい子だ。多分、内心はすごく悲しんでいるし、行きたかったんだと思う。そんなことを表に出さず私に接してくれる。
私がこんな性格じゃなかったら、舞ともっと仲良くできたのかもしれいないと思うことがある。お買い物やご飯を食べに行こうと誘われるので、行きはするが、関心がなくていつもぼーっと過ごしてしまう。
結局、私は教室に居るのが嫌になり、午後の授業も屋上に居た。
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