第5話 やる気の無い悪役令嬢、未来に興味を持ちます

 悪役令嬢だが、彼女はその優位性に気付いていない。

 どうして転生者なのにネット小説の常識を知らないのか。


「悪役令嬢も知らないとか、いつの時代の人間なんだよ」


「1990年ですが?」


「え?」


「え?」


 声が重なった。

 1990年だと?

 俺は……重大な勘違いをしていたかもしれない。


「え? なに? 君もそうなんでしょ? 享年1990年?」


「いや……ああ、そうか。そういう事か!」


 分かったぞ。


 


 つまり30年以上前の時代の人間だ。

 それなら、悪役令嬢など知っているわけがない。


 悪役令嬢が流行るのはもっと先の話だ。

 その部分から説明しないといけないわけだ。


「聞いてくれ。俺は2025年から来たんだ」


「え? なに? 未来人なの?」


「あんたから見ると、そうなるな」


「おお! 未来人!」


 一転して彼女の顔が好奇心に満ち溢れてきた。

 よし、いいぞ。

 興味を持ってもらえたらしい。

 

「へえ~。そっか。未来……か。2000年の人なんだ」


「そうだ。なんか聞きたい事はあるか?」


「そうだね。車とか、空を飛んでるの?」


「飛ばない」


「タイムマシンは完成した?」


「そんなものは無い」


「どこで〇ドアは? というか、ドラ〇もんはいるの?」


「それはまだ先の時代だよ」


 2025年は22世紀ではありません。


「でも、ドラ〇もんのアニメはまだやってるぞ。しかも人気だ。毎年映画も上映されている」


「おお、すげえ!! そんな未来でもまだやってるんだ!」


「ただ、声優さんは変わった」


「ええ!? って、そりゃそうだよね~」


 新鮮な反応である。

 1990年の人に聞かせると、こうなるんだな。


「それでだな。ここからが本題なんだが……」


「うん」


 目をキラキラを輝かせている悪役令嬢さん。

 未来人であることを明かしたのは正解だったかもな。



「未来では、悪役令嬢が主人公の小説が大流行する」



「はああ? なんで? 悪者でしょ。主人公と言えば、お姫様とかじゃないの?」


 なるほど。それが1990年の常識か。


「悪者が主人公とか、そんなの読んで面白いの??」


「どうだろうな。だが、考えてみろ。成功が保証されている良い子ちゃんよりも、きつい環境の中、悪者が頑張って破滅の未来を回避する物語の方がワクワクしないか?」


「む?」


 目の前のJK(1990年代)は言われてみれば……という表情になる。


「ちなみに勇者じゃなくて、魔王が主人公の物語の方が流行る」


「噓でしょ? みんな魔王になりたがるの?」


「世の中ってのは『エセ正義の押し付け』が最もくだらないって考え方もある」


「な、なるほど」


「勇者とか、お姫様とか、生まれた階級で幸せなれるとか、そんなのは不公平だ。だから、魔王とか悪役令嬢とか、勝手に悪のレッテルを張られた人間の方を応援したくなる、って心理かもな」


「う、ううむ。未来はそんなのが流行るんだ。でも、確かに未来っぽいかも」


 30年前では考えられない常識かもな。

 確かに30年で娯楽小説の世界は大きく変わったものだ。

 逆に言えば30年後。

 現在の俺たちから見れば、信じられないような物語が流行っているのかもしれないな。

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