第3話 時代は悪役令嬢!……のはずだったのですが?

 

『嫌われ者の悪役令嬢、婚約破棄されたので自由に生きて幸せになります』


 逆境まみれの悪役令嬢であるルビアは周りから悪魔の女として忌み嫌われていた。

 そして、エセの正論を振りかざすクソみたいな王子から婚約破棄をされ、国を追放される。

 だが、それでも逆境に負けず追放先で頑張った結果、最高のイケメン男性と結ばれて最後には幸せになる。


 確かこんな感じのシナリオだった気がする。


 ちなみに主人公と結ばれたイケメン男性は、実は隠居していたとんでもない権力を持つ王族という事が判明して、主人公を捨てたクソ王子は、制裁を受けて没落してしまうというざまぁ要素も含まれている。


 そんな主人公、ルビアが何故かこの『ゆうざま』の世界に出現しているらしいのだ。

 どうして世界観の全く違う『悪役令嬢』がこの世界に紛れ込んだのかは不明だ。


 だが、これは俺にとってチャンスかもしれない。

 なぜなら、俺が置かれた状況はどちらかと言えば『悪役令嬢』と似ているのだ。


 言ってしまえば、将来は殺されてしまう未来が待っているが成立している状態だ。

 そんな俺が生き残る唯一の方法。



 もし、悪役令嬢と『協力』ができたら、助かる可能性もあるのではないか?



 直感で分かる。

 悪役令嬢も同じ異世界転生者に違いない。

 よし、行こう!

 最強の悪役令嬢。なんとしても、味方につけてやる!


 俺は情報をもとにルビアがいる城へとたどり着いた。

 ルビアの部屋と思われる場所へ到着。

 そして、扉をノックした。


「……ごくり」


 嫌でも緊張してしまう。最初が肝心だ。

 上手く交渉できるだろうか?


 くそ、生前での営業の知識と経験をこんなところで使う事になるとは……。

 もう仕事の話はたくさんだったのに。


 生前の仕事では失敗ばかりだった。

 俺は会社にとっても世界にとっても価値のない人間だった。

 だが、今度ばかりはそういうわけにはいかない。


「どうぞ」


 透明感のある綺麗な声が聞こえてきた。

 勝手な思い込みだが、非常に悪役令嬢らしい声だと思った。

 ルビアの声は作中で最も美しいとされていたが、実際にこの耳で聞くことになるとは思わなかった。


「……失礼する」


 ちょっとだけかしこまって部屋に入ってみた。

 別にそんな事をする必要も無いのだが、相手が令嬢なので自然とそんな態度となってしまう。


「あら、勇者様ではありませんか」


 少し高飛車の印象を持つルビア。

 目つきが鋭く、怖い印象だ。

 燃えるような深紅の長髪。

 現実離れしているほど完璧でグラマラスなスタイルで、美人ではあるが、確かに第一印象からして『悪魔の女』がしっくりくる容姿ではある。


 実際に見てみると、実に納得できる話だ。

 やはり、悪役令嬢のルビアだ。

 俺の予感は間違っていなかった。

 よし、さっそく『本題』に入ろう。

 

「一つ聞いてもいいか?」


「はい、なんでしょう」


「あんた、『転生者』だろ?」


「っ!?」


 ルビアの目が見開いた。よし、予想通りだ。

 彼女も転生者だった。この世界に紛れ込んだ異物。


 つまり、俺と一緒だ。

 これで確実に興味は持ってもらえるだろう。

 少なくとも話が通じない、なんて事は無いはずだ。


「なぜ私が転生者だと分かったのですか?」


「落ち着いてくれ。俺も転生者だ」


「……そうですか」


 いいぞ。この調子だ。

 ここから協力できるよう更に交渉するんだ。


「だから、お互いに協力して、この破滅フラグを回避……」



「はあ~~~」



 俺が喋っている途中で、いきなりルビアが大きなため息をついた。


「な、なんだ? 急にどうしたんだ?」


「いやまあ、バレたんなら、もういいや」


 そのままベッドに倒れこむルビア。

 ぐで~っとだらけた体制に入る。

 まるでスライムである。

 そこに悪役令嬢らしさは微塵も無かった。

 スタイルがいいだけに、余計に違和感が目立つ。

 あれ? 悪役令嬢さん、いつの間にスライムになってしまったの??


「え? お、おい。なにをやっている??」


「なにって、寝るんですけど?」


「なんで寝る!?!?」


「だって、めんどくさくなってきたし」


「はあ? めんどくさくなってきたぁ~?」


「そうだよ~。こういう時は、寝るに限る」


 な、なんだ?

 明らかに様子がおかしいぞ??


「いや、あんた悪役令嬢だろ? 頑張って、破滅フラグを回避しろよ!」


「え~」


「返事にやる気が無さすぎる!?」


「うん。だって、やる気ないもん。それより、あたしはゴロゴロしていたい」


「な、な、な、な……」


 なんだこのはぁぁぁぁ!?!?

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