本作は、SFらしい硬質な世界観に、どこか温かさを感じさせるユーモアと詩情が交差する、静かな感動を誘う物語です。
舞台は、人類が地球を捨て、宇宙船「ノア」に乗って移住した惑星。そこで人々は、自らに組み込まれた生物の遺伝子情報を提供し、その情報を元に新たなクローン体を生み出すというライフサイクルを送っています。だが、なぜか「ペンギンの遺伝子」を持つ者だけが、その情報提供を拒み続けている――。この設定が本作の核心であり、物語の鍵を握る大きな謎でもあります。
ハードボイルドな雰囲気漂うSF設定の中にあって、ペンギンの存在はまるで不協和音のように愛らしく、それでいて不可解です。だが読み進めるにつれ、ペンギンが果たす役割や、その存在が象徴するものが、ただのマスコット的なアクセントにとどまらないことに気づかされます。
人類が高度な技術を手に入れた代償に、何を失ってしまったのか――本作は、問いかける言葉を多く持たずとも、行間にその想いを織り込んでいます。
クローン技術、遺伝子改変、移民船、AIといった、SF好きにはたまらない要素がしっかりと練り込まれつつ、未来を描きながら、しっかりペンギンを活躍させる手腕をご堪能あれ。