六十話 近づく儀式の日

 翌日から、コノが求める関係性探しやホノカの告白の手伝い、そしてぬいぐるみ作りの協力など儀式の日までそんな日々を駆け抜けた。


「そんじゃ今日の授業は魔法の詠唱の速度の上げ方だ。よしヒカゲくんに魔法をぶつける想定でやるか」

「へ? 何故僕を……めちゃめちゃ怖いんですけど」

「暇してそうだからいいだろ。それに、もし俺にやらかしたら教える奴がいなくなるからな」

「待ってください、僕にも命があるんですけど……」

「冗談だよ、そんな事起きるはずないだろ。安心して実験台になってくれ」


 もちろん普段通りに学び舎にも付いていって授業を聞いたり、たまにサグルさんに頼まれて協力して、実験台にされたりもした。定期的に恐ろしい気持ちにさせられるけど、毎日通っていると室内にも愛着が湧いてくるし、サグルさんにホノカ、コノがいるこの空間ちも長くいたくなってしまう。

 放課後での特訓も短縮をしているけれど、欠かさず行っていた。


「よし、また勝てた」

「……はぁ、まさかここまでやるようになるとはなー」

「凄いです、ユウワさん! ほとんど勝ってます!」


 先に棒を当てるちょっとした戦いのゲームではあるものの、九割の確率で僕の勝利になっていた。理由は、何度も戦って慣れていったのが一つ。もう一つは、ギュララさんの能力を身にまとった時戦闘の感覚が高まっていて、それを思い出しながら身体を動かせているから。ある種、自分の中に戦いを指南してくれる師匠がいるみたいだ。


「……ユウワ、強くなってるのはオレも嬉しいんだけどよ、少しはいい格好もさせてくれないか」

「そ、そうだったね。ごめん気が回らなくて」

「いや、いいんだけどな。そうだ、おばさんがぬいぐるみ作りの件でオレと一緒に来てくれって言ってたぞ」

「わかった」


 短縮しているのは、ホノカのぬいぐるみ作りと僕のぬいぐるみを完成させるためお店の方に顔を出す必要があるためだ。ホノカに関してはサプライズのため秘密にして、同時にコノからも極力離れないようにするために、まずホノカのぬいぐるみ作り練習をしてもらってから、入れ替わりで僕が優羽ぬいぐるみのチェックをしていた。


「そろそろ完璧に近い出来じゃないかしら」

「そうですね。凄い似てます」

「ええ。これなら儀式に間に合うわね。ホノカももうすぐプレゼントも出来上がりそうだし良かったわ」


 毎日通っていて、順調に目標達成に近づくと同時に僕は南側にいる村の人との交流も増えていて、頻繁に話しかけられるようになった。


「ヒカゲくん、余り物なんだけどちょっと食べてくかい?」

「はい、ありがとうございます。……美味しいです」

「ねぇヒカゲさん、儀式成功のために頑張ってくれてありがとうね。お礼に食材を持っていっていっぱい食べてね」

「ありがとうございます、これからも頑張ります」


 そんな風に着実に前に進んでる部分もあるけれど、反対に滞っている問題もあって。それはやはりコノとの関係性の事で。


「……わからない」


 もう儀式の日まで残り二日だというのに候補すら浮かんでいなかった。ただ、他にも色々考え事があり片手間ではあって。ようやくコノへ集中できるようになってもいるから、まだ絶望的という訳でもない。僕はオボロさんの部屋で一人で頭をひねっていた。


「……そういえば」


 まだコノに借りた特別編は読んでいない事を思いだした。三巻はもう読み終えている。一旦頭を休める目的で本を開いて文字を追った。

 話はコノに聞いていた通り勇者と姫のラブコメみたいな内容だった。頭を空っぽにして笑えて少しキュンとしたりもして、時間を忘れてページをめくった。

 終盤は油断していた勇者が姫を連れ去られるというシリアスなムードとなり、結局助け出すのだがその失敗に反省した勇者は改めて姫を守るという決意持ち、神の像の前で約束をして物語が締めくくられた。


「勇者……勇者……か」


 何か引っかかりを覚えて、勇者という単語を元に記憶を遡った。そして一番奥であり、最初のその言葉を聞いた時の思い出が蘇って。


「ま、まさかこれ……?」


 確かな手応えがそこにはあった。何度別の可能性を模索しても、それが解答だと言わんばかりにそれしか考えられなくて。


「……」


 それはあまりに重く、ハードルが高くて簡単に決断できるものじゃなかった。

 ――僕はコノの勇者になんてなれるのだろうか。

 現れた一択の選択肢の先はすぐには選べそうになかった。

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