四十九話 マギア解放隊

「あなたはグリフォドールに……」

「ああ、あいつに巣まで運ばれた。けど何とか脱出したのさ。俺には使命があるからな」


 そう言ってギロリとコノを睨みつけた。それを受けて、さらに呼吸が乱れ震えも止まらなくなってしまう。


「ふざけんじゃねぇ。お前らのわがままで何でコノハが殺されなきゃならないんだよ!」

「そうです、そんな強引にやらず、難しくても話し合いで……」

「黙れぇ!」


 怒りに満ちた叫びに遮られる。感情を抑えられないかのように、力のこもった身体が震えていて。


「そんな悠長に待っていられるわけねぇだろ!」

「どうしてそんな……」

「ふん、お前らは知らないだろうから教えてやるよ。俺らがマギアを求めるのはな、仲間が死ぬのを減らして、死んじまってもすぐにそいつを見つけられるようにしたいからだ!」


 両方向にいるウルフェンの人達はまだ襲ってくる様子はなく、警戒は緩めずも耳を傾けた。


「マギアがあれば、生活水準も高くなって魔獣からも身を守れるようになる。それに、迷いの森は今でも見つかってない仲間の遺体があって、それすらも見つけられるだろう。だから、もう長ったらしく議論してる時間はねぇんだよ!」

「遺体……」


 そういえば、グリフォドールに始めて出会した時、そいつはウルフェンの死体を持っていた。結果的にそれは見つけられてアオが送ったけれど、確かにあの森の深さだと捜索は困難だ。まさしく、目の前の彼らが捕まっていないのがその証明でもあって。


「お前らがそいつの命を大切にするように、俺らもこっちの命のためにやってるんだ」

「……」

「わかったら、部外者のお前は引っ込んでろ」


 彼らがこんな事をしている理由はわかったし、同情できる部分もある。でも、だからといって認めることはできない。もうホノカとレイアちゃんが手にかけられたのだから。


「邪魔する気なようだな。それならもう一つ教えてやるよ」

「もう一つ?」

「ああ……俺達はもう死んでるんだよ」


 静かに告げられたその言葉で衝撃が走り視界が揺れた。


「そこにいる奴らと俺は未練を持つ亡霊だ。もちろん仲間には生者もいるがな」

「ちっ……魔獣はびこる森の方から侵入できたのはそれが理由かよ」


 亡霊になれば簡単には倒せない強さが得られる。前に戦った時に手応えが薄かったのもそれが理由だったんだ。


「ロストソードの使い手は霊の未練を解決するんだよなぁ!?」

「その未練って」

「当然、その祈り手を消してマギアを解禁させ俺の親友、そして仲間が安心して生きれるようにすることだ」

「……っ」


 僕個人としても、与えられた役目としても未練解決したい。だけど、コノ手を出させる訳にはいかないし、そんなことをすれば今度はホノカ達の未練が解決できずに終わってしまう。


「だから役目を全うするためだ、さっさとここから去って貰おうか」

「ヒカゲ、さん」

 隣にいるコノが不安そうに僕を見つめていた。ウルフェン達の事を気にもせずじっと。


 論理的に考えれば矛盾と葛藤が生じてしまうだろう。でも、行動しなければ大切なものを失うことも知っていて。


「……悪いけど、それはできない」


 僕は感情に従うことにした。


「ヒカゲさん!」

「だよな、ヒカゲ!」


 コノは安心したように胸に手を当てる。もう、顔色の青さも改善していて身体の震えも止まっていた。


「そうかよ。なら……お前らやっちまえ!」


 その命令の言葉を受けて、対峙していた相手が駆け出した。


「ギュララさん、力借ります」


 瞬時に剣先を自分に向けて藍色に輝くのを確認し、腹部に突き刺した。

 強大な力を感じると共に腕と手がデスベアーのものに変化する。頭の上にも角が生えたからか重さが増えて。


「「オラァァァァ!」」

「はあっ!」


 変身後、すぐに同時に鋭い爪を見せて襲いかかってくる。両腕でそれを受け止め、軽い痛みは無視して二人を弾き飛ばした。


「バーニング!」

「「ぐぉぉぉ!」」

「シ流雨ノミス激イ水ヲリウ海カ……」


 背後からは魔法を唱える声やホノカとウルフェンとの戦闘音が聞こえていて、どうやら優勢のようで目の前とまだ動いていないウルフェンに意識を集中させた。


「話の通りか……でもやるっきゃねぇ!」


 右にいたウルフェンが口の中にある凶器的な歯をちらつかせ距離を詰めてくると、大きく開けながら飛びかかってきた。


「せいっ!」

「ぶごほぉ!?」


 顎に軽くアッパーで口を閉ざさせてから、腹にストレートを打ち込み後方へと吹き飛ばした。


「ウガァァァ!」


 休む間もなく次にもう一人が再び爪で引き裂こうと向かってくる。


「デスクロー」

「ふぎゃぁぁ!?」


 振りかぶられる攻撃は左手で軽くいなして、赤黒く光った右手の爪で斜め上に切り裂いた。おもちゃみたいにぶっ飛ばし、もう片方のウルフェンにぶつけた。高い威力故か剣で斬った時よりも圧倒的な手応えがそこにはあって。


「ぐっ……!?」


 技を放った反動からか心臓に刺されたような痛みが走った。


「ひ、ヒカゲさん!」

「シルバぁぁぁクロぉぉぉ!」


 自分自身の事に気を逸らしていて、コノに呼びかけられた時、既に跳躍し銀色に光った爪が首へと迫っていた。


「終わりだ!」

「まずい……」

「コノだって役に立つんだ! ウェーブ!」


 彼女の両手から激流が放たれ、迫っていたウルフェンを流して後退させてる。


「な、なにぃ?」

「やりました!」

「ありがとうコノ。助かったよ」


 呪文を呟いていたのはホノカだけじゃなかった。それに、さっきの魔法は多分、最近覚えた水の上級魔法だろう。


「おい、大丈夫か!」

「こ、こんなことって」


 少し離れた所にいる二人のウルフェンを見ると、デスクローを受けた方が立ち上がれずにいて、身体には爪痕がついて黒く色づいていて全体的に薄くなっている。


「霊状態でもあんな傷を……」


 彼らの姿を見て、自分のやったことに血の気が引いてくる。霊の殺人そんな言葉が脳裏によぎって自分の力が怖くなった。


「この野郎ぉぉぉぉ!」

「……っ」


 毛が水に濡れているウルフェンが感情のままにこちらに接近してきた。


「はぁっ!」

「ぬぐぉぉぉぉ!?」


 相手の行動読んで最小の動きで回避。カウンターにデスクローは打てず、拳を握りアッパー。簡単に上空へと飛ばした。


「ピャーー!」


 そして、地面に落ちる前にグリフォドールがやって来て捕まえてしまう。


「ま、またお前かよ! 覚えてろよぉぉぉ!」

「リーダーが! お前らここは撤退だ!」

「「「おお!」」」


 そのままグリフォドールに南の方へと連れ去られてしまう。それによって、他のウルフェンは尻尾を巻いて逃げ出した。


「終わった……」


 僕は変身を解除して一度深呼吸する。空を見上げると夕日が一日の終りを感じさせるオレンジ色に世界を染めていた。

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