月明かりの灯る頃、ここにいる君へ

ナカヤ 賢

第1章

第1話 曖昧

人生とは尊いものだ

人はそう云う。


それがすべての人に当てはまるのであれば、

僕も尊いと感じることができたのかも知れない。

運命には逆らえない。

いくら善意を働いても、どんなに神に祈りをささげても、

逆らえないものには勝てない。


もう5年が経った。

懐かしくも、未だに受け入れられない。


学校を出て左手。

駅に向かう通学路とは反対に進んだ先にある。

通りがかると、わんぱくな少年たちが占拠するブランコ。

にぎやかに遊ぶ声で愉しい 小さな公園。


ここで過ごした日々は、


青春


そう心に刻まれるだろう。そんな居心地の良い公園。


夜が更け、あれだけ騒いでいた少年たちも床に就く。

いつも僕と「彼女」が共に時を過ごす、別の意味での「青春」の時が流れる。


「ねぇ、私たちってどういう関係なんだと思う?」


ふと「彼女」は語りかけた。

夜風にそよいだ 木々を見ていた僕は、


「どういうって・・・どういう・・・?」

「何そのぼんやりした返事。何も考えてないんでしょ。」

「いや、そうじゃないって。ただ、単純にきれいだったから見てただけだって・・・。」

「ふ~ん。それは褒めてるの?」

「褒めじゃなかったら何なんだ。」

「あんた・・・いつもそんなんだから・・・。」

「はいはい。君と僕の関係でしょ。」

「なんだ、聞こえていたんだ。」


僕はふと考えた。

隣には、いつも寄り添ってくれる優しい「彼女」がいる。

長年のつきあいから生まれた相性。気の通づるところは、誰にも負ける自信はない。


「そうだな・・・まだわからないかも。」

「また回答がぼんやりしてるんだけど。ちょっとぐらいはっきり答えて。」

「君は僕に正解を求めているわけじゃないんでしょ・・・。だったら、急ぐこともない・・・。」

「そうやって、はぐらかすんだ。時みたいに・・・。」

「それは・・・どうしたらいいのか全く分からなかったんだよ・・・。」


「彼女」が大きく吐いたため息が、僕の前をビュンと通り過ぎていった。


あれから全く変われない・・・僕も「彼女」も・・・

ここに囚われているままでは・・・



5年前

この公園で「彼女」は亡くなった


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