第5話 新たな繋がり
M&YカンパニーのCTOジェネラルの前でスベルが
「申し訳ありません」
と、頭を下げていた。
CTOジェネラルは顔色を変えずに
「ある程度の暴露は覚悟しているし、想定もしている。それに…ドライバー達も守秘義務に応じるとしている」
スベルが頭を上げて
「しかし、これでは計画に妨げになる可能性が…」
CTOジェネラルは淡々と
「我々の計画の核は何だと思うかね?」
スベルが渋い顔で
「技術開発でしょうか?」
CTOジェネラルは頷き
「その通りだ。我々が現在、研究中のナノマシン装甲システムの研究の為に、今回のGCー1レースを活用している。この程度の事、それから見れば些細な事だが…」
スベルが
「些細な事ですが…何か?」
CTOジェネラルの
「操縦者の状態が気になる。今回のマシン、ゼクロスに使われている演算装置、AIシステム…いや、DIという新たな真の人工知性体を作り出すシステムは、ゼクロスの操縦者である彼とリンクしている。その彼が不安定になれば…」
スベルが鋭い顔をして
「システムが異常を来して…」
CTOジェネラルが
「彼…堂本 トオルのメンタルのチェックは欠かす事はしないでくれ」
スベルが頷き
「勿論です。もし、負担になるようでしたら…直ぐに…」
CTOジェネラルが
「頼む」
◇◇◇◇◇
トオルは、とある宴会場にいた。
トオルを囲むように大人数が座席について
「ええ…それでは、本日のメインゲストであります。ゼクロスのドライバーを交えて」
と、ミハエルが音頭を取って
「乾杯」
『乾杯』
と、集まっているGC-1ドライバー達がグラスを掲げる。
それにトオルも合わせて掲げる。
トオルの右には当然の如く桃香が座り、左には桃香と年齢が同じ綾と美香がいる。
美香が
「おっさん! あの変形機構ってどうなっているんだ?」
綾が
「アタシ達、守秘義務にサインしたから教えて!」
桃香が
「美香ちゃん、綾ちゃん、トオルさんが困っているから…」
ミハエルが来て、トオルのグラスに飲み物を注いで
「アルコールがダメなら、ノンアルコールもある遠慮しないでくれ」
トオルが
「じゃあ、ノンアルコールで…」
ミハエルが
「ほい、きた」
と、ノンアルコールの飲み物をトオルのグラスに注ぐ。
更に人が集まる。
「ねぇ…どういう風にドライバーになったの?」
と、アレシアが語りかける。
「ドライバーテクニックは、どこで磨いたの?」
と、アレシアの同僚であるブリジットも来る。
美玲と月花も来て
「ねぇねぇ、どうやってあんな慣性に耐えているの?」
と、美玲が
「何か、特別な訓練をしているの?」
と、月花が
トオルは苦笑いをする。
端から見れば、麗しい花に囲まれて羨ましい限りだろうが。
トオルには、全くそんな気は無い。
「まずは、最初の人から答えるけど…いいですか?」
美香が手を上げて
「やったーー」
トオルが
「あの変形機構はナノマシンを使った特殊装甲で、まだ開発途中だから詳しく言えない」
次にトオルが
「自分の経歴は、元LFVの操縦者で…LFVを元にした操縦系統をしている。LFVの経歴には守秘義務があるから…答えられない」
最後に
「あと、システムからもたらされる慣性のGは特殊な操縦席のシステムと、日頃からGに対する訓練と共に…」
と、自分の右手を挙げて
「肉体にナノマシンの処置をされている」
電子回路のような光模様が手の平から全身に広がる。
「それで、慣性を何とかしているが…予測不能な事には弱い」
『おおおお』
と、質問した女の子達全員は、納得する声を出す。
桃香が
「みんな、トオルさんに負担をかけちゃあダメだよ!」
と、トオルの腕に抱き付く
桃香のトオルがお気に入りの状態に美香が
「なんだよ桃香…トオルさんの事、好きなのか!」
桃香が顔を赤らめ
「バカ! 美香のバカ!」
キャキャの黄色い声が響き渡る。
トオルは状況に飲まれて固まるしかない。
トオルに質問攻めをする女性陣に、サラとアレシアが来て
「ほら、未成年達…もう時間でしょう」
と、サラが宴会場にある時計を示すと21時だ。
美香がブーブーと
「いいじゃんか! ココには大人もいるんだから、まだ、話しても良いだろう!」
サラが
「確かにみんな、親御さんから離れて暮らしているけど、生活を見守っているチームの保護者に心配をかける訳には行かないでしょう」
桃香が助けを求めるように左隣にいるトオルを見るが、トオルは
「そうだね。未成年は帰る必要がある。心配をかけてはダメだよ」
と、優しい口調で語る。
桃香が膨れるも
「分かった」
サラが手を叩き
「さあ、みんな…帰りましょう」
未成年および女性陣がサラと共に帰って行く。
桃香が去り際に
「また、明日ね。トオルさん」
「はいよ」
と、トオルは手を振る。
桃香を含めた女性陣が帰って行くと、トオルの回りに男性のドライバー達が集まる。
「お疲れ様」
と、労るようにミハエルがノンアルコールを注ぐ
トオルはそれで喉を潤して
「色々と質問攻めで疲れたよ」
それにミハエル、藤治郎、道賢、賢宇が微笑む。
藤治郎が
「しかし、元LFVの操縦者から…とは」
トオルが
「システムが選んだ。自分にまさか…レースの才能があるとは思わなかった」
道賢が
「ゼクロスのシステムは、GC-1レースの規定にある技術共有化で…」
トオルが頷き
「いずれは、全員に提供されるだろう。量子重力ジャイロがな…」
ミハエルが
「そんな装置…いつ作っていたんだ?」
トオルが渋い顔で
「軍用のLFVからだ」
トオル以外の四人が視線を交差させて、ミハエルが
「その話、大丈夫か?」
トオルがノンアルコールを飲みながら
「提供されば、自ずと出自元も分かってしまう。軍用のLFVの推力であり質量兵器から身を守るエネルギーシールドの技術が元だ」
賢宇が
「軍用の技術がレースにか…」
トオルが
「いずれ、GC-1レースでの有用性実験の結果の後に、民間へ下ろされて交通事故による衝突から車体と人を守る装置として…」
道賢が
「けっこう、大きく動くなぁ…」
トオルが
「だから、全員に量子重力ジャイロが行き渡る頃に、ゼクロスの完成形も登場できるだろう」
ミハエルが
「まだ、進化するのか…」
トオルは頷き
「それで完成する。そういう事だ」
藤治郎が
「じゃあ、残りのレース。楽しもうじゃないか…今のゼクロスが消える前に」
トオルが全員を見て
「正直、ここまで歓迎されるとは思ってもいなかった。もっと…バチバチと争っていると…」
ミハエルが
「確かにレースでは、バチバチに争っているが…それ以外は、自分達はGC-1レースを盛り上げる仲間だぞ」
トオルが
「そうか。分かった。自分も仲間としてレースを盛り上げる」
ミハエルが
「もし、何か…悩みがあるなら、相談してくれ。何時でも待っているから」
トオルが微笑み
「ありがとう」
◇◇◇◇◇
次の日、トオルのゼクロスがあるトラックへ桃香が来て
「トオルさん!!!」
と、トラックのドアを叩くとスベルが顔を出して
「今、準備中だ」
トオルが脇から顔を見せて
「ああ…桃香くんか…」
桃香が手を振って
「今日もいいレースにしましょう!」
そこへ、美香と綾が来て
「おっさん! 今日こそは勝つぜ!」
綾が
「ぴったり後ろをマークする!」
トオルは苦笑いをして
「お手柔らかに頼むよ」
三人の挨拶を終えて
トオルはゼクロスの準備に入る。
スベルが
「他のドライバー達との交流には口を出さない。だが…」
トオルがコクピットへ座り後頭部にあるブレインディバイスに接続端子が繋がり
「ああ…一線は保っている」
と、トオルは告げてコクピットへ寝そべるように座るとコクピットが閉じてLFV溶液が満たしていく。
トオルは
「このLFV溶液とも今日で最後か…」
そう、今日のレースの後、ゼクロスは完成となる。
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