しらたえくん ①
記憶は遡る。
小学三年生の秋。四歳離れた兄が中学に進学し、寂しさを抱えていた私もすっかりとクラスに馴染み、遊びに全力を費やしていた頃だった。
当時はというと、まだ世間ではスマートフォンが発達し始めた頃だった。故に、特別そういったデバイスに詳しい人を除いて、ネットリテラシーのカケラもない人々が大数を占めていたのだ。結果、オカルトに盲信的な民衆は、今ならすぐに判別できるようなフェイク動画に騙されてばかりだった。心霊やUFOを主として取り上げる番組のレギュラー放送までもが始まるほどである。
加えて、この頃の子供達がオカルトを娯楽と捉え始めた要因はもう一つある。ただ、これは私の憶測でしかないのだが。
この頃、社会現象までも巻き起こしたひとつの作品があった。多くは語るまい、その作品のモチーフが「妖怪」だった。当然、子供達はその熱狂の渦に巻き込まれ、ありとあらゆるメディアがそれらを取り上げてテレビに映す。もはや、当時は某作のマスコットを見ない日など無かったのではないだろうか。
かくいう私も、兄と共にホビーを買い漁り、新作ゲームが出ようものなら寝る間も惜しんでストーリーを進め、布団の中で母親の目を盗みプレイしていた。前者のメディアも、このブームに乗っかった結果生まれた番組や企画だったのだろう。
少し話がズレてしまったようだが、当時はまあそういった感じだったのだ。図書室の未確認生物図鑑みたいな本を借りるのに予約待ちがかなり居た事を覚えている。
そんな時代に生まれ育った私がH小学校に通っていた頃、やはり当然のように『不可思議目録』を知る。情報は上の学年から受け継がれていくような流れで知れ渡っていくようで、兄がいた私は周りよりも先に『不可思議目録』に相当するものを知っていた。
H小学校のどこかに『不可思議目録』という本がある。そこにはH小学校の重大な秘密が記されており、読んだ人間は謎の消失を遂げてしまう。未だ『不可思議目録』は見つかることなく、H小学校の何処かに眠っている。
私がこの話を兄から聞いたのは入学して間もないような時期だった。この頃の私はその話に唆られることは無かったのだが、先ほど書いた某作のブームによって「誰も見つけたことがない」「読んだ人が消える」「なんかかっこいい名前」その他諸々の要素への興味関心が覚醒した。小学一年生の間で浸透していなかった不可思議目録のウワサが、進級するにつれて学年内に拡大していった事も大きな要因だろう。もし自分が不可思議目録を見つけたら、一躍ヒーローとして讃えられるのではと期待していたのだ。
不可思議目録を俺たちが見つけようぜ、と。
息巻く少年が、三人いた。いわゆるお調子者というやつか。クラスで何か催し物があるたびに、適当な事を喋って笑ってもらうような立ち位置の者たちである。
全く流行ってないカードゲームを何故かずっと集めていた事が印象的な、
この三人は、不可思議目録の在処を示すヒントになっているのでは、と、先駆者が残した都市伝説を探した。それが本当にあると、信じていたらしい。
ひとつ目のターゲットは『しらたえくん』という都市伝説だった。
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