第二十七話


 ばけつが協会支部に向かったあと、残されたデス花達。

 心の内に秘めていたものをすべて吐き出すその姿を見て、三人は呆気に取られ動けずにいた。

 未だ廃ビル前で佇み少し弱くなった雨に打たれたまま。けれど、彼女らの間にあった暗い空気は無くなっていた。

「あんなこと言われたの、初めてだった……」

 滅子とぺポに背を向けながら、デス花は呟く。

「守るだの助けるだの、オレ達のことを屑だと言った奴は殺すだの……」

「知り合って一週間ぐらいの、チョロっと過去を聞いたぐらいの相手に言えることじゃないよね」

「でも、あいつにああ言われて嬉しかった」

 振り返り、そこで見せたのは困ったような笑み。目元は赤く腫れていて、泣いた跡はきっちり残っていた。けれど、さっきまでの陰りは失せている。

「オレ達のこと、そんな大切に思ってくれる奴は今までいなかったから。何だか心の奥の奥が温かくなるのを感じたよ」

 親から愛情を受けながら大きくなっていくのが普通。しかし三人は家族などいなく、大切にされたことなどなかった。

 だからこそばけつの言葉がより響いた。

「それに、気付いたんだ……人間ってそういうモンなんだって。一人で何でもできるやつなんていねえ、誰もが支え合って生きている。弱くてもいい、あいつが支えてくれるから」

 004号との約束からデス花は強くなれなかったと自分を責めていたが、ばけつの言葉により後悔は晴れた。

 彼女が選んだのは弱さを克服することではなく、弱さを受け入れる道。

 そして前を向けるようになったのはデス花だけではない。

 二人が続けて言う。

「なんでかな……ばけちーにああ言われてから、心のモヤモヤが一気に消えた」

「『過去は変えられないけれど、未来は変えられる』。当たり前ですが、大事なこと。ぺポはもうこれ以上、何を失いたくありません」

「ああ、オレも同じ気持ちだ。なんか馬鹿らしくなんてきたな、こんなとこで俯いてたの」

 デス花は両サイドを纏める髪留めを一度外し、ツインテールから元のロングヘアーに。雨によって濡れた髪と服の水気を鬱陶しそうに払う。

「あんな雨の中こんな場所に居続けるんじゃなかった。おかげで全身べしょべしょだ。服は魔法装束に着替えるからいいとして……髪もどうにかしねえと。お前らステッキ持って来てねえだろ? アジトに戻るついでに直しとくか。あとで滅子、髪纏めてくれ」

「ん、了解っ!」

「全く、おかげでぺポ達まで濡れてしまいました。今度から泣くなら別の場所で泣きやがれ下さい」

「そ、それは……雨降ってんのに傘持ってこないお前らにもちょっとは非があるだろ? つーか、泣いてるとこ見られちまったんだった……お前らだけには涙なんざ見せたくなかったんだがなぁ」

 苦笑しつつ、滅子にヘアゴムを渡すデス花。

「ずぶ濡れになったし泣いていたこともバレた。馬鹿みたいだったが……無駄ではなかったよ。弱くてもいいんだって思えた、これからやるべきことも見えた」

 これからやるべきこと。そう、ばけつの背を追い、その背中を支えること。

 そして、すべてに決着を付けること。

「さっさと準備しようぜ。あいつのこと、オレらで支えてやんねえとな」

 デス花の言葉に頷く二人。彼女達の表情から迷いだとかは少しも見られなかった。

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