第3話

 一戦を終え翔は足下に転がる敵が使用した箱を見つけ拾いあげる。

 男の死体は見当たらず翔は急ぎ神鳴の様子を確認する。


「神鳴!大丈夫か?!」


 神鳴は呻きながら顔を上げて翔の顔を見るとホッとしたのかまた気を失う。

 翔は神鳴が大事に抱える玉藻前の魔石を確認してから携帯を取り出して黒鴉に二度目の通話を試みもやはり繋がらず困った顔をして頭を掻く。


(仕方ない黒姫に事情を伝えるか…)


 そう思った所で黒鴉から通話が掛かる。


『何度も何よ!時間無いから要件は早く』


 イライラした様子の黒鴉に翔は手短に事を伝える。


「敵が出た、詳細はメッセージで送る、うちの実家に車寄越してくれないか?神鳴達が負傷した」


 黒鴉は何か言い返そうとするが思ったより深刻な話と気付き車の承諾をする。


『私の仕事終わったらまた連絡するわ、あんたも運無いわね』


 同情の言葉を残して通話を切られる。

 黒鴉から依頼を受けた使いっ走りにされた黒鴉の部下の荻原おぎわらから車で迎えに行くと連絡が入る。


「明日の朝アパート来てくれ」


『…アパート?…明日の朝ぁ?…わーったよ』


 翔は両親への迷惑を掛けるわけにはいかないと考え直して神鳴を連れて黒姫の待つアパートに向かい翌日合流することにする。


 自宅に着くとすっかり主婦な装いが似合う相変わらず黒く長い前髪に三つ編みの神藤黒姫しんどう くろひめが出迎え、傷付いた神鳴をおぶっている翔に驚きながらもすぐに神鳴を寝かせる布団の用意をする。


「先にお風呂に入ってください、何があったかは後で聞きますから」


 神鳴を寝かせて食事の準備を黒姫は進め、翔は浴室に向かう。

 浴槽に浸かりながら翔は敵の事を思い返す。


(奴の話から分かるのは奴は尖兵でまだ戦いは始まったばかり…ってことか、しかしあの結界みたいなの…まるで竜司さんがやった世界転移?)


 分からないことだらけで考えを改めるように顔にお湯をかけて頭を振る。


(あの箱を調べれば分かることだな)


 体も洗いさっぱりとして風呂を上がるとちゃぶ台に料理が並んで黒姫ににこやかに迎えられる。

 何から話を切り出そうかと翔が迷いながら座り二人で食前の挨拶をして箸を手に取る。言葉を待たずに黒姫が先に声を出す。


「突発的な魔物…とは違いますよね?」


 他の神の管理する異世界からイレギュラーに地球に侵入してくる魔物と呼ばれる存在の退治も行う役柄な翔達だったがそれとは事情が違うと黒姫から指摘されて翔は肯定する。


「ああ、新しい敵だ…上位世界からの刺客って所だ」


 上位世界に共に行ったことのある黒姫は大体を把握して小さな声で「そうですか」と呟く。

 翔と黒姫は向こうに残した自分達の分身を気に掛け少し重たい空気になる。沈黙が嫌で翔は敵が話していた内容を説明すると黒姫が気になった点を尋ねる。


「コード“キ”…箱と空間…もしかして神姫の能力の事じゃないでしょうか?」


 翔もハッとして思った事を言葉に出す。


「キって姫の字の事か!確か箱庭サイズの世界を生み出すんだったよな?」


 黒姫は小さく頷く。

 翔達の声で目が覚めたのか神鳴が襖を開けて二人に声をかける。


「ここは?…どうして二人が?」


 フラフラしている神鳴を黒姫がすぐに支え神鳴の懐からゴトンと玉藻前の魔石が転がる。


「無理しないで今日は寝ましょう」


「うちの実家には後で言っとくからゆっくりしてけ」


 優しく声を掛けられて神鳴を布団に戻す。

 転がった魔石も丁寧に扱い神鳴の横に置く。


「明確な敵意ですか…明日私も父さんと話をしようと思います」


 黒姫は覚悟を決めたように声を出して笑顔に戻す。


「早く食べちゃいましょう、明日も早いですよ?」


 久しぶりの怒る黒姫に翔は苦笑いになりながら食事を済ます。

 テレビの放送では翔達の友達のタレントとして活動する黒鴉とコンビを組む周防美奈すおうみなが映し出され翔はメッセージし忘れていることに気付き怒られる前にと黒鴉にメッセージを送るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る