最後に向けて最初にやること

 宍中ししなか御天みあめが去ってから、赤泉院せきせんいんめどぎは泉から完全に体を引き抜いた。

 水面すいめんに顔を出した直後と比べ、呼吸はだいぶ落ち着いている。


 泉の近くに構えてある屋敷で、れた衣装を取り替える。

 そして手紙を書き始めた。


 めどぎ刃域じんいき宙宇ちゅううという巫女ふじょに向けて手紙をしたためる。

 内容の一部いちぶ抜粋ばっすいすると次のとおりになる。


* *


 ――それで宙宇ちゅうう

 次で御天みあめの仕事が本当に終わるみたいだから、に出ていってほしい。


 わたしからの指示はふたつ。

 一、御天みあめの仕事が最後をむかえたあと、実際に世界が平和になったか確認すること。

 二、この手紙につつんであるもうひとつの手紙を世界一せかいいちえらいやつに――。


* *


 書き終えた手紙にふうをして、めどぎは大きな声を発した。


「きみー、いるー?」

「なにかな、お姉ちゃん!」


 反応が即座そくざに返ってきた。

 返事をしたのは赤泉院せきせんいんの次女、岐美きみ

 めどぎの妹のひとりである。だが姿はみえない。彼女は遠くから大声を返したのだ。


 大きな返事から時を経ずして、岐美きみめどぎの部屋に入ってきた。


「どうしたの、めどぎちゃ……お姉ちゃん。さっき御天みあめちゃんが来てたみたいだけど」

「それについて、宙宇ちゅううにこの手紙届けてもらえる?」

「……いいよ、仕事だもの」


 赤泉院せきせんいん岐美きみは服のなかに手紙をしまう。そして姉に背を向け、屋敷から出ていく。



 その際、ある言葉をくちにする。


めどぎちゃんをよろしく」


 だれに言ったのか。玄関げんかんのすぐそとに正座していた人影ひとかげに言ったのだ。


 その影の持ち主も、岐美きみめどぎと同じく巫女ふじょであった。

 名は、桃西社ももにしゃ鯨歯げいは


 めどぎは玄関まで見送りに来なかった。にぶく小さい岐美きみの声を、ひとり鯨歯げいはが聞いていた。


 岐美きみの後ろ姿がみえなくなった。それを確認し、ゆっくりと桃西社ももにしゃ鯨歯げいはが立ち上がる。


 彼女は地面へと正座していた。だからふたつのに多くの小石がり付いていた。

 歩くたび、小石がひとつずつ落ちる。その都度、薄赤いくぼみが現れる。


 鯨歯げいは赤泉院せきせんいんの屋敷の庭を歩いてめどぎを探す。


 とはいえ本人はすぐに見つかった。

 赤泉院せきせんいんめどぎがいた場所は、彼女自身がもぐっていた泉のそばであった。


「筆頭。次女さんからよろしくって言われたから来たんですけど、なんかお手伝いでもしましょうか」

鯨歯げいはか。ありがと……だったら遠慮えんりょなく。これからすべらを探しにいくから同行をたのもうか。ちょっと重大なことが起こりつつあってな。それについて筆頭蠱女ひっとうこじょには、筆頭巫女ひっとうふじょのわたしから伝えたいと思う」

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