好きな子の妹とのラブコメが始まった〜何故か脈ナシだった姉とのラブコメも始まりそうで……?〜
不管稜太
第1章
第1話 ラブコメが始まりそう
「ずっとずっと、あなたの事が好きでした! 付き合ってください!」
夕焼けが照らす校舎に響く真っ直ぐな声。
「……ご、ごめんなさい!」
細くか弱い声と共に、駆け出す女子生徒。
好きな人の好きな人になることは、難しい。恋愛のお互いの矢印が向かい合うことなんて、普通に考えればどんな奇跡だよって思う。
でも、『好き』という強い気持ちは、そんな奇跡を起こしてしまうんだろう。
○
「どうすれば及川さんに振り向いてもらえるんだぁーー!」
俺――
俺には好きな人がいる。
同じクラスの
恋に落ちたのは高一の春、忘れもしない最初のホームルーム。
高校の初登校日。
俺は不安と期待を胸に、自分の教室に入った。
少し早めに学校に来ていたので、教室の席はぽつぽつと埋まっているくらいだった。
黒板に貼られていた座席表を確認して……あれ?
座席表と机で、何度も視線を反復横跳びさせても……おかしいよな。
俺の席であると思われる席に、人が座っている。
……まじか。
高校生活しょっぱなから、非常事態が発生していた。
しかも俺の席(多分)に座ってるの女子生徒だし。
でも……話しかけてみるしかないよな。よし、勇気を出そう。
俺は心を決めて、座っている女子生徒に話し掛けた。
「あの、そこ俺の席だと思うんだけと……」
――この時、体に電流が走った。
しなやかに流れる黒のロングヘアーから覗く、透き通った麗しい瞳。その瞳を直視できず、俺は思わず目を逸らす。
『……え……あ、ごめんなさい!』
彼女――のちに及川さんだと知る――は、顔を赤くして下を向きながら恥ずかしそうに笑みを浮かべた。
制服からちらりと見える白い肌。お淑やかな雰囲気で、急いで自分の荷物を片付ける健気な姿。触ったら壊れてしまいそうで、まだ世界を知らないお姫様みたいな可憐さが俺の心の鼓動を加速させる。
綺麗、だった。こんな言葉に押し込めないほどに。
この子と、話したい。この子と、仲良くなりたい。
高校に入学して一番、強くそう思った。
そして、この日から俺は及川さんにアピールを続けた。それはもう色々と。
だが……入学式から約一年、アピールは難航を極めている。
あの日以降、俺は及川さんとほとんど話せていない。話し掛けても、及川さんはこちらを見るとすぐ逃げてしまうのだ。なんならまともに顔すら合わせられていないレベル。
マゼランもびっくりの難航ぶりである。
正直、脈ナシと言わざるを得ない。
「でも好きなんだよなぁ……」
及川さんの顔、スタイル、声、性格まで全部が俺の理想で、この世で一番美しい人だと思っている。好きという気持ちは入学式のあの日から変わらない。
「誰がですか?」
「ギャーーー!!」
――ガッシャーン
驚きすぎて席から落ちてしまった。
振り返ると、そこにはどこかで見たことがある女子生徒が立っていた。
「……い、いつから、いました?」
「まあ、そんなことはどうでもいいじゃないですか!」
「いや極めて重要な問題だ!」
「それよりも先輩、下野一之進さんですよね?」
「そうだけど……っていうか、君は……
「はい!」
明るく応える彼女は、俺の好きな人である及川有澄さん――の妹の鞠亜さんだった。
姉よりも短いボブの髪に、満開の笑顔。大人しい姉の有澄さんとはまるで違って、活発な印象を受ける。
たまに有澄さんと一緒にいるところを見たことがあったので、妹の存在は知っていたが、今まで話したことはなかった。
「な、なんでここに……?」
「それはですね、下野先輩に会ってみたかったからです」
「……どういうこと?」
「いや、お姉ちゃんに何度逃げられても話しかけ続けて、それどころか勝率ゼロパーなのに告白とかしちゃう人ってどんな人なのかなぁーって思って」
「グサッ!」
やめろ! 俺のライフはもうゼロだぞ!
いや確かにほとんど話したことない人に告白するなんておかしかったけど! どうすれば意識してくれるかなーって考えて告白しちゃったのは間違ってたけど!
「『好きなんだよなぁ』って、やっぱりお姉ちゃんのことですか?」
鞠亜さんは俺の顔を覗いて聞いてくる。
「……そ、そうだよ! 好きで悪いか!」
すると鞠亜さんはさっきまでの明るい様子を変え、急に真剣な顔をする。
「なんでそんなにお姉ちゃんのことが好きなんですか?」
……どういう状況だこれ! なんで好きな人の妹に詰められてんの?
「……入学式の日出会った時に、一目惚れした」
「いやでも、それだけでそんなに好きになります? 聞いた話だと、先輩とお姉ちゃんってまともに話したこともないんですよね?」
た、確かに!
「……ごもっともなんだが、しょうがねえじゃん。好きになっちゃったんだから」
「……?」
「確かに入学式以来まともに話したことはない。でも、俺にとってはこの世で一番好きな人だし、幸せにしたいって思う人なんだ」
「っ!」
鞠亜さんは意表を突かれたように息を吞む。
「なんでそんなに好きになったのかって言われるとよく分からないけど、有澄さんに振り向いてほしいから不思議と色んなことを頑張ろうって思えるし、毎日が楽しいし……」
「……や、やっぱり」
「多分、好きになったのに、理由なんてないんだ。片想いだし、相手にされてないかもしれないけど、本気で好きなんだ」
……なんか死ぬほどクサい事を言ってしまった気がする。しかも好きな人の妹に。黒歴史確定じゃん。
鞠亜さんはどこか顔を赤らめて、こちらを睨んでいる。
怒ってる!? いや、共感性羞恥ってやつか? まじでごめんなさい。
「ごめん、今の話は聞かなかったことに――」
「下野先輩!」
「は、はい?」
「お姉ちゃんのことがそんなに大好きなんですよね?」
「う、うん」
「じ、じゃあ!」
いつの間にか真っ赤になっている鞠亜さんは、叫ぶように言い放った。
「わたしじゃ、ダメですかっ!」
……なんかわけわからんけど、ラブコメが始まりそうだ!
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