32話 魔女(3)




「ロドリーとペリエッタは天上の雨漏りの修理、ラミは衣服の修繕、ミリュー!アンタは森エルフの特性を生かして森でうまそうなキノコ採ってきな!」


「そして、ドニヤと鹿!お前らの役目は重要だぞ?」


凛とした声で皆に指示を出すソアレ、その様子はさながら戦場で指示を出す上級将校そのものである。


やってる事は家の手伝いだが。


それで俺とドニヤに与えられた役目、それは・・・。

周辺の木々を適度の間引く。つまり、間伐である。



ドニヤが手ごろな木を斧で伐採し、それを丸太まで加工して積み上げていく。俺はそれによって出来た枝などを纏めてこれもまた一か所に集めていく。おやつがてらに木の青葉はいくらでも食べていいが、雑草は食べるなとの事。間伐によって降り注ぐ日光でこれらの草木を成長させたいらしい。小難しい事はよく知らないが土壌が良くなるのだろうか?にわか仕込みの自給自足とは違い、ソアレは割と勉強しているようだ。


そんなこんなで皆で色々とソアレの手伝いをしている内に辺りはすっかり暗くなり、俺達は例の如くまたソアレの家にお世話になる事にした。夕食はキノコとのシチューらしい。・・・俺は納屋に避難して枯れ草をもしゃもしゃし、頃合いになった所でまた戻ってくる。


「はー食った食った、こんな御馳走食ったのは久々だな」


「ホント、鹿肉おいしかった~」


「な?結構いけるだろ?多少臭みはあるけど」


「これぐらいなら全然、いくら食べても太りにくいってのは良いですね」


「こくこく」


「・・・その罠に掛かった鹿が俺の家族だったら、お前らはそれでもその鹿肉を食えるのかー!!」


「所詮この世は弱肉強食・・・もぐもぐ」


ロドリーよ、皿に残ったシチューをパンに絡めて悟ったように言うな。



それにしても食材になった仲間の料理の前でシュンとする皮肉の効いた共食いイラスト思い出したわ。


いや、食ってないし食いもしないが。


「よーし、今日は皆よく働いてくれた!まぁ聞きたい事は色々あるだろうけど・・・」


そう言うとソアレは徐に何かを取り出す。


「じゃじゃーん!その前にこれだろー!」


「おーワインかー!」

「いいわねぇー!」


「ただのワインじゃないんだな、こいつは貴腐ワインって奴さ、村の連中から貰った逸品よ」


「「「おー!」」」

「わ、私は飲めませんが、少しぐらいなら」


「こくこく」


・・・元がおっさんだから知りようも無いけど、女子会ってこういうノリなんだろうなぁ。


「でも、飲み潰れるまでは飲むなよ。こういうのは話を交えながらチビチビやっていくのが良いのさ、言うなりゃ話を肴にって訳だ」


「いいねぇ~ソアレさん分かってるじゃねぇか!」



そして・・・


「うっわ、このワインめっちゃあまーい!!」

「うーん、まぁこれはこれで悪くないけど、俺はもっと酒精が強いのがいいなぁ」

「でも、飲みやすいですね」

「酒ならなんだっていいよ!うまい!」

「こくこく」


食後の宴で女子会が始まる。

と言うかペリエは飲ませて大丈夫なのだろうか?


「さて、と、何を私から何を聞きたいのさ?」

「うーん、何だっけ?」

「馬鹿、皇帝の事だろ?」


「いや、魔族の事じゃない?」


「あーなんか頭が回らなくなってきたかも・・・とりあえず鹿君も飲め飲め」


「お、おい!勝手に口に入れるな!」


し、舌が焼ける!!!頭に血が上る!のぼせちゃうー!


「ぎゃはは!鹿君の顔ウケすぎ!!鹿に酒飲ませるとこんな顔するんだ、ぎゃはははは!!」


「ど、動物虐待ぃー!」



そう言えば、今さらだけどこいつら酒癖悪いんだった。

そんな連中が大人しくなるはずもなく・・・。


「いいぞー!ペリエッター!もっとやれー!!」


「ぎゃははは、鹿君、うけるー!腹痛い!!」



「やめてー!背中越しに持ち上げないでー!!」


そして、宴もたけなわ・・・。


「うーひっく・・・もう飲めないー・・・」

「すー・・・すー・・・」

「ぐがー!ぐがあー!」


結局、ソアレ自慢の貴腐ワインはすっかり飲み干され、ミリュー、ラミ、そしてロドリーの順で潰れ、残ったのは良い感じに酔いが回っているソアレ、ドニヤ、何故かピンピンのペリエッタとプルプルに衰弱している俺であった。



「・・・全く貴重な酒を水のようにガバガバ飲みやがって・・・」


「でもいいねぇ、こういうのはさ。魔族もくだらねぇ誇りなんか捨てて皆でこうして馬鹿騒ぎしてりゃ争いの種も無くなるんだけどねぇ」


「そういえば、ソアレはどうして魔族領から離れたんだ?」


「・・・うん、なんだかもう魔族としての自分である事が嫌になっちまったからかね」


グラスに残るワインを回しながら思い出すように語るソアレ。


「魔族ってのは生まれてすぐ暴力の毎日だ、殴られ続けてそれでも立ち上がった者だけが生き残っていく」


「そして、気が付けば、私はそれなりの地位まで昇り詰めていた。だが、ふとある感情が押し寄せてきた」


「それは・・・虚しさだ」


「自分よりも遥かに上位に君臨する格上からの重圧、均衡してる者同士での腹の探り合い、そして自分より下にいる連中の青ざめた顔ったらありゃしない・・・ついこの前まえ友達だと信じていたヤツの私を見る目、まるで化け物を見るように怯えていたよ」



「結局、魔族ってのはどこまでいっても・・・孤独だ」


「でも私はふと気づいたのさ「なんで私たちはこんな生きづらい生き方をしているんだろう?」って、もっと楽に生きても良いはずだってさ」


ソアレはグラスに残るワインを飲み干す。


「そして、今、私はここにいる。それで、ただのババアになってふと気づいたんだ、もしかすると私たち魔族は、そうなるべくして生まれた種族だったじゃないかってさ」


「・・・それは」


それは・・・。


「お前は元魔族だったね、じゃあ分かるだろう?私の言いたい事がさ」


「わざと争い合う為に、力を競わせる為に生まれた・・・」


馬鹿な・・・そんな事が出来るのは。


「そうだ。そして、そんな事が出来そうなやつだが・・・」


「私の中には二つの答えがある、一つは魔王ヒルデガルド、もう一つは・・・私の想像のはるか上を行く存在、神だ」


「もし、前者だとしたら魔王の目的って一体何だ?」


「そんなもん、こっちが知りたいぐらいだよ。でも、魔王は完全に魔族社会から独立している事は確かだ。毎日毎日城に籠って何かに没頭しているって言うのは有名な話さ」


「まぁどっちにしても、魔族はそう遠くない未来で滅ぶよ。自滅という不名誉な形でさ」


「・・・なあ、もし自滅じゃ無く、人間が魔族を滅ぼしたとしたらどうするんだ?」


ドニヤがソアレを見ながら言った。


「まるで人が語る夢物語だね、でも別にそれでもいいさ。もう私には関係ない事だ」


「なぁ、ドニヤ」


「もし、人類が魔族を滅ぼしたその時、私も一緒に殺すかい?」


「・・・・・」


「アンタは殺さないよ、そんな事したら美味しい酒もパンもここで楽しめないからね」


「そか・・・よーし、じゃあ今日はもう終いだ!全く、ドニヤ、そして鹿!それにペリエッタ!明日はこの酔いつぶれた3人を連れてさっさと出ていきな!独り身ババアの貴重な食糧事情で振舞えるのはここまでだからね!」


怒鳴りながらもソアレはどこか嬉しそうに笑っていた。



・・・いやいや、明日ちゃんと話を聞かねばっ!!!



ーーーーーーーーーーーーーーー


―翌日


「うー・・・頭痛すぎる・・・誰か水ちょうだい」

「・・・今、私の目の前でパンとか食べないでくだ・・・うぷっ」

「なんでぇ、情けねぇなーあれぐらいの量で」



無事二日酔い二名、豪快にいびきかいて寝てたくせにケロっとしている者一名。そして昨日の夜組の2名と一匹。再びソアレと朝食の机にて向かい合う。


「ほれ、それ食ったら帰れよ」


「いや、ソアレ。まだ話が・・・」


「はぁ?それはまた別の仕事の報酬・・・まぁいいか、一つだけ、皇帝については教えてやるよ」


朝食のコーヒーを飲みながらソアレが人差し指を上に差す。


「では、お前らに質問でーす。皇帝・・・あの300年前に失踪した皇帝アルテミシアは今も生存しているか、否か」


その質問はある意味ここにいる全員にショックを与えた。


伝説上では皇帝アルテミシアは今でも仙人となって生き続け、魔族と戦い続けていると謳われる。だが、それは伝説であり、実際蓋を開けば勇者アルテミシア、そして同一の皇帝アルテミシアは失踪したまま行方不明となっている。そして、人の常識、つまり、人間種の寿命として考えた場合、300年経った今でもアルテミシアが生きていると考えるのは無理がある。



だが・・・。


「『伝承』スキルによって新たな皇帝が誕生していないという事は、皇帝アルテミシアはまだ何処かで生きている・・・のか?」


「なるほど、悪くない着眼点だ。まぁ、答える前に少し遡ろうか」



「『伝承』を授かった最初の皇帝、オーレルアイゼンの事を」


※帳尻を合わせる為、12話に少し加筆しました。

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