魔法槍士 飛狛2
夜も遅い。寝ると秋星が言ったのをきっかけに、その場は解散した。
塔の中や出てすぐの中庭は自由にしていいと言われ、柊稀は見晴らしのいい場所から外を見ている。
「悩んでるみたいだね」
「…飛狛さん」
気配もなく、唐突に現れたのは魔法槍士。双子もそうだが、どうしてこうも簡単に気配を消せるのか。
「なにがあったかわからないけど、現実から逃げちゃダメだよ」
会ったばかりなのに、なぜこの人といいあの双子といい、自分を理解するのかと柊稀は思う。
「……幼馴染みが敵だった。受け入れられないのは逃げているのかな」
一人になった瞬間、頭から離れないのは朱華のこと。別人のように笑い、琅悸と戦う幼馴染み。
止めることも出来ず、理由も聞けない。知識がないからどうしたらいいかもわからない。
「今の現実は敵でも、今まで過ごしてきたものは偽りじゃない。そう思うなら、信じてあげたら」
なにも知らない過去の人。けれど、すべてを理解してくれてる人。なぜだかとても信頼できる人だと、そう思えた。
信じたい。けれど信じられない。ずっと交差していた感情が、少しずつ落ち着いていく。
柏羅が怯えないからと納得させた感情は揺らいだが、今は揺らがない。
人任せがいけなかったのかもしれない。今なら思える感情だった。
「俺は聞いた話でしかわからないけどさ。その幼馴染みをよく知る柊稀が、敵じゃないと思うならそうなんだよ」
もっと自分に自信を持て。穏やかに笑みを浮かべる青年は、柊稀を見ながら言う。
「自分に自信がないとさ、出来ることも出来ないよ」
「自分に自信……」
そう言われても、自信など持てない。琅悸や朱華のように強くなく、氷穂のように魔法が使えるわけでもない。
火竜族は戦闘能力が高いと言われるが、柊稀は自分にはないと思っていた。
「少し外へ行こうか」
「はい」
そんな柊稀を見て飛狛は外へ誘い出した。
「あれ、なにやってんだよ」
「さぁ? けど、面白いことになっていますよ」
外から感じる気配に目を覚まし、秋星がそちらを見れば、柊稀と飛狛の手合わせが見える。
見た目は、柊稀が完全に押されていた。当たり前だ。相手は黒竜族最強と言われる魔法槍士の肩書きを持つ者。
双子ですら勝つことができない強者であり、どうやら未来に名を残すらしいと双子は知ったばかり。
「ん?」
「気がつきましたか」
「あぁ……俺とやったときとは違うな。それに、あの目……」
飛狛の戦い方は誰よりも理解している。あの槍の厄介さを、身を持って体感しているのだ。
普通の目では、あの幻を打ち破ることは出来ない。普通ならば――――。
「剣を見るからに、彼は矢吹さんの子孫となるはずです」
「だろうな。精霊が関わる家系。未来も同じなのか」
どれが幻か正確に見抜く青年に、二人は笑みを浮かべた。
目の前で繰り広げられる手合わせは、間違いなく青年のなにかを呼び覚ますものである。
眠れる力を呼び覚ましているのか、闘争心を呼び覚ましているのか。
「さすが飛狛ですね」
「火竜には好戦的な本能がある。どんなに穏やかな奴でも、あいつでもな」
「えぇ。彼みたいに争いが嫌いなタイプでも、刺激されれば本能が働きます」
動きが鋭くなっていく。周りから見ていてもわかりやすいぐらい、柊稀の動きは変化し始めていた。
基礎は身体に叩き込まれているのだろう。彼の動きに雑さはなく、型がしっかりとしている。
「集中力も凄まじいな」
「そうでないと、飛狛相手じゃやられますからね」
自然と集中力も高まるわけで、そこも彼の狙いなのだろう。
楽しそうに見ていれば、飛狛が視線を投げ掛けてきた。言いたいことはそれだけでわかる。
「まったく……」
仕方ないですね、と呟きながら夜秋は要望に応えた。
張り詰めた神経。研ぎ澄まされていく感覚は、今までに感じたこともないものだった。
その感覚がなにかを関知し、剣で弾く。すると金属音が響き草むらに落ちた。
同時に槍が剣を弾く。地面へ柊稀の剣が突き刺さった。
「これぐらいにしようか」
「あっ…はい」
突き刺さった剣と自分の手を見て、柊稀は驚く。今のはなんだったのか、と考えるほどに。
自分の中で、今までになかったなにかが沸き上がった。一体なにが、と問いかけようにも、少しためらう。
「これからしばらく手合わせしようか。俺がダメなときは、夜秋か秋星がいるし」
「お願いします!」
毎日やれば、なにかがわかるかもしれない。柊稀と同じことを飛狛が思っていたなど、誰も気付かないこと。
(この目でも見えない、かぁ)
塔に戻る柊稀を見る飛狛の目は、闇夜でもわかるほど金色に輝いていた。
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