ミライ=トラス
AtNamlissen
001 前夜
7月上旬の蒸し暑い夜、どうにも寝付けず暇つぶしにコンビニに向かうと、店内に入る直前に後ろから鈴の鳴るような声が聞こえた。
「見つけた、適合者。」
適合者?僕のこととも思えないが周囲には僕以外誰もいない。もちろん声の主もいなかったはずだけど。
と疑問を感じながら後ろを振り返ると初代ウル◯ラマンの仮面を被った黒髪長ツインテールの少女がいた。身長140センチメートルくらいでセーラー服然とした紺色のワンピースを着ている少女は、深夜のコンビニの雰囲気とはあまりにかけ離れていて違和感がすごい。
「迷子……?」
「違う。君に会いに来たんだ。」
「なぜ?」
「これを見ろ。」
少女は金属製の万歩計のような見た目の機械を見せる。中央にある液晶画面には3017の文字が表示されている。
「ほら、ぎりぎり3000を超えている。」
「だから?」
「ゲームの参加権を持っているということだ。」
そもそも3017が何の数字かも分からないし、こんな奇妙な人間から与えられた権利なんていらない。
「だから今、ゲームの参加者として申請した。ボクのためと思って参加してくれ。」
「やだよ。」
「申請は取り消せない。それに申請後、300秒以内にゲームに参加しないと……」
「参加しないと……」
「君とボクは塵になって死ぬ。」
やばい奴と絡んでしまった。というか、絡まれたというか。
そんな簡単に人間が塵になるわけが無い。そんな技術が開発されていたら既にニュースになっているか、その前に世界が滅びているはずだ。
「悪いけどゲームには参加しないよ。」
少女は僕の顔を見上げる。
「疑っている目だ。」
こんな状況で、いきなり塵になって死ぬとか言われて信じるやつがいるか。
「証拠を見せる。」
少女は車止めのコンクリートブロックを指差す。それが何だというのだろうか。
「それはコンクリートブロックか?」
「そうだろうね。」
「本当にコンクリートブロックかよく確認してみろ。」
どういうことだ?ここにボクを塵にする装置でも入っているのだろうか。
そう思って叩いてみたり転がしてみたり、持ち上げてみても変なところはない。どう見てもただのコンクリートブロックだ。
「少し離れて。」
少女は指で銃のような形を作り、コンクリートブロックに向ける。そして
「バンッ」
と声を発すると、目の前のコンクリートブロックが塵になって風に流されていった。
なるほど、宇宙人か未来人かは知らないが、僕を殺そうと思えば簡単に殺せる文明を持っていることはよく分かった。
「仕方ない。従うよ。で、ゲームっていうのはどういうものなんだ?」
「異世界の生物を捕まえてゲーム用の町に放り込むんだ。でもって、放り込んだ人は馬主のような感じで、中の生物が稼いだポイントの一部を収益として貰う。っていう賭け事の一種だ。
ボクらが中の状態を確認することは出来ず、干渉もできない。だから不正は出来ず、しかし馬主はゲームが終わったあとなら自分の所有する生物の一生を見れるから、それもまた楽しいってことで結構人気のある賭け事なんだ。」
「なるほど、じゃあ僕はどうにかしてポイントを稼げば良い訳か。で、ポイントはどうやって稼ぐんだ?」
「それは分からない。ゲームによって違うんだ。殺し合いかもしれないし、ゲーム内で何かしらの競技をして稼ぐのかもしれない。あるいは普通の社会と同じく仕事をして、儲けた利益をポイントと見なす場合もある。」
殺し合いだったら嫌だな。僕はすぐ殺されて終わりだろう。
「賭けはいつまで続くんだ?」
「それも分からない。生物全てが死ぬまでかもしれないし、誰かが一定のポイントを稼いだ時点で終わることもある。ただ、言えるのはどのゲームでも1億ポイントを手に入れた生物は元の世界に帰ることが許されるということだ。
生物たちにはポイントを稼いでもらわないと困るからね、報酬を用意しておくというわけだ。そしてボクからも1つ報酬を用意する。
君の願いを1つだけ、簡単なものなら叶えてあげよう。……簡単っていうのは、大きな城が欲しいとか、死ぬまで毎年1億円ずつ欲しいとかそういうのは可能だ。けど、誰かを蘇らせるとか、誰かの精神を操るとかそういうことは出来ないと思ってくれればいい。」
簡単とは言うが、ずいぶん良い報酬だ。がぜんやる気が出てきた。
「では、ボクの手を握ってくれ。それがゲームへ参加する合図になる。」
そう言いながら差し出された小さな手を握りしめる。
「あ、忘れてた。言っておかなくちゃいけないことがあった。もう一つ、全ゲームで決まっているルールがあった。
ポイントがゼロになると死ぬから、それだけは気を付けて。」
その言葉とともに視界が真っ暗になり、体が浮き上がるような感覚とともに僕は意識を失った。
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