四章 エルフの罪(4)

 シェリアは一人、通りを駆け抜けた。政殿の裏へまわり神殿へ通じる階段を駆け上がった。


 しばらくして叫び声とともに武器が激しく打ち交わす音が響いてきた。階段を駆け上がったところで、十人ほどの衛兵を相手に二人の賊が立ち回っているのを認めた。すでにその周囲には、かなりの数の衛兵が倒れていた。


 フードで顔を隠していたため二人の容貌は確認できなかったが、身体つきから片方は二十過ぎの女、もう片方は十代後半くらいの娘だと分かった。そんな二人が、衛兵を次々に倒していく姿にシェリアは戦慄した。


 シェリアは背負っていた弓を取り、走りながら矢を番えた。衛兵と斬り結んでいる女の背に矢を放った。ところが娘がその前に躍り出て、鉈のような幅広の剣の鎬で矢をはじいてしまった。軽く舌打ちしたシェリアは、駆けながらさらに二矢、三矢と放つが、相手はそれらを防いでしまう。


 そうしているうちに、女がほかの衛兵をすべて倒してしまった。シェリアの矢を防いでいた娘が女に言った。


「あいつは私が抑えるわ。あなたは行って」


 女は一瞬迷うが、娘に肩を押されてそのまま神殿の中に入って行った。


 シェリアは弓を投げ捨て、短剣を抜いた。残った娘も剣を脇に構えて駆け出した。そのまま激しく斬り結ぶ。


 しばらく鋭い斬撃を打ち交わし、やがてシェリアの短剣が娘のフードを裂いた。それで露になった娘の容貌に、シェリアは驚愕する。


 濃い紫色の髪に湾曲した角、尖った耳、肌は褐色――というより赤で、瞳は右が赤で左が緑のオッドアイ。よく見るとマントの中に隠れて細長い尻尾まで生えていた。


「あ、あなた……。なんで、魔族が……」


 彼女は答える代わりに鋭くシェリアを睨んだ。剣を右手に持ち、さらに左手で錐状の細い短剣を取り出して、神殿の入り口をふさぐように構えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る