第3話 ご近所さんだったようです
「開山中出身の立花タカシです、短距離が得意です、宜しくお願いします」
「ベストタイムは?」
「100mフリーで59秒12です」
「へぇ、なかなかだね」
「そうですか?」
「この部では全国出場レベルは彼女ぐらいだよ」
「そうなんですか?」
「県大会に出てれば有望だよ」
俺は水泳部に所属した。
中学校時代には部活は水泳部に所属していた。生徒会との両立は大変だったけれど、高校では生徒会に入るつもりが無いので水泳部に専念出来る。
中学校の時に水泳部に所属したのには理由があった。
実は俺の前世での死因は溺死の可能性が高い。海岸を散歩していた時に波打ち際で綺麗な石を見つけ拾おうと屈んだ時に、ザバンと言う音と共に波に飲まれたのが最後の記憶だからだ。
苦しかったという思い出は無いため水恐怖症にはならなかったけれど、産まれ変わった時に、波に飲まれても溺れないようにしたいとは思っていて、幼稚園の時から両親にねだって週一で近所のスイミングクラブに通っていた。
小2の時に電気工であった親父が仕事中に事故死し、その時がきっかけでスイミング通いは辞めていた。しかし中学校の部活決めの時に水泳部を選び夏場の放課後は泳ぎまくって、冬場は陸上部にまじって走り込みをしたりして過ごした。
生徒会の活動と両立しながら2年の夏から体が急成長した事をきっかけに記録が急に伸びて、3年の夏には100m自由形と100m×4リレーと100m×4メドレーリレーで県大会出場も果たす事が出来た。
新入部員の中にはゲームのヒロインがいた。部長が全国レベルだと言う水辺オルカの事だ。
ゲームでは髪の色が青くツンツンした髪型だったけれど、普通の黒髪ベリーショートで多少くせ毛っぽいけれどツンツン飛び跳ねた髪型では無かった。
水辺オルカは中学校時代は3年連続400mと800mの自由形で全国大会で優勝し、オリンピック代表候補にもなっていた。現在大学生である国内記録を持つライバル選手がいなければ、水辺は中学生でありながらオリンピック代表になっていたと言われている。
同世代では超有名な選手という事もあったし、3年の県大会では彼女を見かけはしたけれど、俺が彼女をゲームの中のキャラと知っているだけだし、他校の生徒でもあるので特に目線を合わせる事も無く大会の決勝を一緒に出場していた部の仲間と客席から見ていた。
水辺も県大会で予選敗退した選手である俺の事なんて覚えていないようで、部の自己紹介でも完全に初対面という反応をしていた。
初日に水泳部に入って来た1年生は6人で男子2名で女子4名だった。
水辺以外の女子は地区ブロック大会出場止まりだったらしい。しかし男子の方は2人とも県大会出場の実績があった。
もう一人の男子である坂城ケンジとは別の学校だったけれど、顔はお互いに良く知っていた。坂城は400m自由形を得意とする中距離選手で3年の時に400mと200m自由形で県大会に出場していた。
俺も地区ブロック大会で200m自由形に出場していて予選では隣のコースを泳いだ。 俺は坂城に0.02秒差というタッチの差で負け、坂城は200mでも県大会に出場出来たけれど、俺は出場出来なかった。
「部活は放課後の1時間と土曜日の午後。それ以外は放校時間内は自主メニュー時間にしている。 但しこの学校は文武両道なので中間と期末試験で3科目以上赤点の場合は退部をしてもらっている。これは水辺でも同じだから学業は疎かにしないように」
「「「はい!」」」
3年生は男子5名女子3名の8人で2年生は男子3名女子2名の5人いたけれど、幽霊部員が3年で3名、2年で2名居るらしい。学業を疎かにしなければ退部にはならないらしく、そのへんは緩い様だった。
「冬場は月水金の放課後2時間と日曜日の8時から12時までスイミングクラブでコースを借りている、火木土は自主参加だけど校舎やグラウンドで体力作りをしてるから参加してくれ」
「「「はい!」」
「GW中に部員で学校のプール掃除をする。そのあと水張りしたらこっちの練習に移る」
「「「はい!」」」
この学校のプールは屋外にある長水路と言われる50mプールだ。5月の中旬から10月の中旬ぐらいまではそちらを使うけれど、それ以外は凍えてしまうので学校の近くにあるスイミングクラブで数コース借りて練習をするらしい。
中学校の時は冬場は個人的にスイミングクラブに行かなければ泳ぐ練習が出来なかったので、それに比べたら恵まれているようだった。
「君と同じ高校だったんだね」
「俺は1組だが坂城は何組なんだ?」
「5組だよ」
「離れてて気が付かなかったんだな」
「だね」
同じ市内の選手である坂城とは何度も水泳大会で顔を合わせているためにお互いに認識はしていた。ただし別の学校の選手だったこともあり、会話をした事は無く、しかも大会中なので水着かウィンドブレーカー姿だったため、こうやって制服姿で話をしているのは新鮮だった。
「坂城は高校でも中距離をやるのか?」
「そのつもり、立花君は?」
「俺は完全に短距離型だからなぁ、中学引退直前にバタの記録が急激に伸びていたから、200フリーから100バタに変えるかもな」
「立花君は先行逃げ切りタイプだもんね」
「ターンの度に差が縮まって最後はタッチの差で負けたからなぁ」
それは中学3年生の県大会に向けた予選となる県のブロック大会の時の200m自由形予選の事だ。俺は0.01秒差というタッチの差で県大会出場を逃したのだが、予選で俺より0.01秒差で先着したのが予選で隣を泳いでいた坂城だったのだ。
「立花君に追いついてやる~って泳いでたらベスト更新だよ」
「俺も追いつかれてたまるか~って泳いで200のベストタイムだしてたんだぞ」
「あはは、決勝は立花君が隣にいなかったからあのときより1.52秒も遅かったよ」
「俺は市の大会より2.24秒も早かったから、元々200は坂城の方が早いんだろうな」
「そうなんだね」
俺と坂城は昔話をしながら校門まで一緒に帰った。俺は徒歩通学だが坂城は家が遠いらしくバス通だったからだ。
「じゃあまた明日」
「部活でな」
女子たちも2名は坂城と同じバス通のようだが駅前方向のようだ。徒歩は俺と水辺ともう1人の女子だが、1名の女子は俺と水辺とは家が反対方向のようだった。
同じ方向に歩くのに無視するのも変なので俺は水辺に声をかける事にした。
「水辺って成美中だったよな?バス通じゃないのか?」
「今はお婆ちゃんの家から通ってるんだよ」
「へぇ……、婆ちゃんちはどこなんだ?」
「みずほ公園の前にある駄菓子屋分かる?」
「あぁ家のすぐ近くだな」
「その駄菓子屋が婆ちゃんちだよ」
「めちゃくちゃご近所さんだな!」
「そうなの?」
「右3軒隣だな」
「グレーの四角い感じの家?」
「それ」
水辺は驚いた顔をして俺の顔をジロジロ見てから俺に意外な事を聞いてきた。
「もしかして立花君ってユイの新しいお兄ちゃん?」
「えっ?ユイを知ってるの?」
「公園でバスケの相手を良くしていたよ」
「そうなの?」
公園にはストリートバスケ用のコートがあった。前世では公園にそういったものがあるのを見かけた事はなかったけれど、日本は前世と外国との付き合い方が違うようで、さらにこの街が国際貿易が活発な港町で、国際空港にも近い事から、こういった文化の流入が多い。
「3年ぐらい前まではお婆ちゃんの家で暮らしてたんだよ」
「3年前?」
「父さんがアメリカで仕事してたからね」
「なるほど……」
どうやら水辺は俺があの家に引っ越して来る直前まで近所で暮らしていて、ユイとは友達だったようだ。
「ユイは元気?」
「元気だぞ、俺もユイと公園で1on1している時があるし、昔のように遊んであげてよ」
「良いの?」
「問題あるのか?」
「ユイから新しいお兄ちゃん出来るって聞いたとき喧嘩しちゃったんだよ」
「喧嘩?」
「私が羨ましいって言ったら、ユイが泣きながら怒り出したんだ~」
「えっ!?ユイが!?」
それは意外だ、俺とユイは初対面の頃から仲が良かった。水辺に泣きながら怒る理由が分からない。
「新しいお兄ちゃんが嫌な奴だったのかと思ったんだけど……」
「なんだよ……」
「……」
それ以降は水辺は喋らず、婆ちゃんちでもある駄菓子屋の前まで無言で歩く事になった。
「ユイが会っても良いって言うなら遊びに行くから」
「分かった」
「じゃあ明日部活でね」
「あぁ」
少し気まずい感じで水辺とは別れた。
もしかしてユイって俺の事を嫌ってたのか?
それともお袋達の再婚に反対していたんだろうか?ユイとは初対面の時から仲良く出来てた気がしてたのは勘違い?
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