第16話 選ばれし者

フィーレは絶叫した。涙を流すことしかできなかった。

フレネルを守れなかった。彼に追いつくことができなかった。


──私は弱い。

「……フィーレ」

横たわったアーテルがハンカチをこちらへ投げた。

「彼を止血しなさい」

止血……この出血量では焼け石に水だろう。悪魔へ血を捧げるために彼は自ら剣を引き抜いた。もう助からないのは明白だ。

「大丈夫!?」

その時、背後から声が聞こえた。振り向くと、一人の少女が立っていた。白髪に白を基調とした服に銀のプレートと、ハルバードを装備している。聖騎士……?

「すぐに治癒魔法を掛けるわ!」

彼女はハルバードを地面に突き刺し、両手から治癒の光を放った。

すると、彼の腹部から流れる血は止まり、みるみる内に顔色も回復していく。

「あなたは……一体……?」

「あたし? あたしはルアン、勇者ルアンだよ」

勇者……? この少女が……?

ルアンと名乗る少女は治癒を続けながら話を続けた。

「神聖魔法を見るのは初めて?」

私は頭を縦に振ることしかできなかった。

「だよね。初対面だし!」

それってどういう……意味と聞こうとしたところ、いつの間にかアーテルがこちらへ歩いてきていた。どうやら私の気づかない内にアーテルも治して貰っていたらしい。

「まさか神聖魔法を直に見れるとはね……」

「アーテル、知ってるの?」

アーテルはかぶりを振って答えた。

「歴代の勇者しか使えない魔法よ。私も初めて見たし、詳しくは知らないわ」

そうこう話している内に、彼は意識を取り戻したようだ。

「おっ、ギリ間に合ったね~! うんうん、ナイスガイじゃないか!」

「俺は……助かったのか……?」

頭が痛い、口の中も血の味が酷い。何が起こっているんだ。

「いやー、よかったよかった! 無事で何より!」

目の前の少女は頭をぶんぶん振っている。どうやら彼女が助けてくれたらしい。

「ああ、あんたが治療してくれたのか。ありがとう。助かったよ」


「いいっていいって! それよりさっきのバトルはかっこよかったね~! 色んな動物召喚するんだねぇ~!」

「じゃ、あたしそろそろ行かなきゃ! またね~!」

そう言って彼女は大地を蹴り上げると、空中に飛び上がった。

「セイント~! ウィーング!」

そう唱えた後、背中に天使の羽を生やした彼女は、流れ星のように瞬く間に飛び去って行った。

俺たちはその後ろ姿を眺めることしかできなかった。


「あれが……勇者……」

「圧倒的な力と機動力、そして回復力か……」

「確かに彼女なら魔王を倒すことも叶うだろうね」


俺は──弱いな。暗黒魔法という借り物の力を過信した。その結果がこのざまだ。

今日、俺は死ぬはずだった。だが奇跡的に助かってしまった。今後の身の振り方について考え直す必要があるな。

「……とりあえずコテージへ戻ろう。」

「まあ、一応魔族は倒した訳だしね。流石にもう疲れたよー」

俺は魔力回復ポーションを一飲みし、スレイプニルを召喚した。


──自然保護局にて

「おい、あいつ戻ってきたぞ……」

「ど、どうする……あいつ……だよな?」

俺たちはボロボロの身体を引きずりながらも、なんとか自然保護局のコテージにたどり着いた。

「皆さん、もう大丈夫ですよ。魔族は討伐しました。」

俺は精一杯の力を振り絞って職員にそう伝えた。だが、職員達の反応は無常だった。

「化け物!」

「えっ……?」

「あ、あたし達、見たのよ! あんたの戦いを……!」

見ると職員達の手には望遠鏡が握られていた。

「あ、あ、あんたが、気持ち悪い魔族を召喚したのは知っているのよ」

「ちがっ、あれは悪魔です!」

「同じことじゃない!」

俺が一歩前に出ると、職員達は怯え、震え、阿鼻叫喚の様相を呈した。

「近寄るなっ!!!!」

「こっちへ来ないでっ!!!」

「どうせマッチポンプだろ!!!」

なんということだ。まさかここまで言われるとは……


「──おいてめえら、いい加減にしろよ」

まずい、またしてもフィーレは激昂している。

「うちのボスはてめえらの為に命を賭けたんだぞ。それをなにか、化け物呼ばわりか」

「だまれ魔族が! 俺たちを騙そうとしているんだろうが!」

フィーレは大鎌を構えた。本当はフィーレを止めなければならないのだろう。だが、果たして俺は止めるべきなのだろうか。の為に……?

「お前の心が魔族だ!」

フィーレは大鎌を先頭に立っている男に振り下ろした。

「うわあああああああああああああ」

鈍い金属音が鳴った。

──俺はフィーレに相対し、ウルツァイト宝剣の棟で大鎌の攻撃を止めた。

「……フレネル、お前は優しすぎるぜ。少しは怒ったらどうだ。」

「俺は、礼を言われたり、見返りを貰うためにこの人たちを助けた訳ではない」

職員達の声はしんと止んだ。

「俺はただ、助けたかった。だからもう何も言うまい」

「フレネル、悲しいこと言わないでよ……」

「行こう。こんなところに長居する理由はない。」

フィーレとアーテルは渋々ながらも承諾してくれた。

俺たちは歩き始めた。俺たちとの距離が遠ざかったころ、一人の男が何か声を掛けようとしていた。

「おい……お前たち……」

俺は職員達に言ってやった。

「じゃあなども」


俺たちは無言で馬車に揺られながら、進み続けた。

ほとんど敗北に近い勝負だった。俺たちは甘かった。

「世界は……広いな……」

「……そうだね」

「死ななかったのは運がよかったよ。」

「俺たちがもっと強ければ、ああはならなかったのかな……」

「……どうだろうね、今はまだわからないな。私たちもっと強くなれるのかな」

揺られながら、俺たちは目を瞑り、考えた。もっと強くなる方法、よりしなやかに戦える方法、俺たちは本当に冒険者をやりたいのか? 他に戦える方法があるのではないか?

「……そうだ、あの水色の魔族の研究設備なんかを持ってきていたんだった。アーテル、これで魔法の研究とかできないかな?」

「……できると思うけど、何をするつもりなの?」

「……うん、さっきの戦闘で分かったんだ。俺たちはまだまだだ。今のまま他の魔族と戦っても、手も足も出ずにやられると思う。」

「……だねー、あの勇者様が来てくれなきゃ死んでたわ~」

「そこで次の地方、廃都市ガーランドに入ったら、しばらく修行と魔法の研究に集中しようと思うんだ。」

「その間の生活費は……?」

最もな質問だ。だがその心配はない。

「大丈夫だ。廃都市ガーランドは無法地帯だ。どこに住んでもただなのさ」

「へぇー、それならなんとかなりそうね。」

「えぇ……無法地帯に住むの……?」

俺たちは持ってきたポーションやパンをかじりながら、今後の計画について考え始めた。


──廃都市ガーランド

「ここが廃都市ガーランド……なかなか趣のあるところじゃないか」

廃都市ガーランド、かつては栄えた都市だったが、ある日を境に超高層のビル型ダンジョンが乱立し、ダンジョンブレイクを起こした都市だ。住人は次々に脱出し、今や無法者の都市となっている。

俺たちの眼前には、ダンジョンブレイクにより崩壊した超高層ビル型ダンジョン群が幾重にも建っていた。

「──俺たちは弱い。もっと力をつける必要がある」

「まず、水色髪の魔族が遺した研究を解読し、自分たちの魔法を強化すること」

アーテル、フィーレともに頷いている。

「幸いにも研究設備が残されたまま放置されている建物もある。まずはそこを拠点としよう」

俺たちは寂れたビル群を巡り、魔族が遺した研究設備を充分に活用できるフロアを探した。

「おっ、ここなんかいいんじゃないか?」

「……うん、換気もできるし、電気も通っている。ここなら魔法の研究に問題なさそう」

色々見て回ったが、7階建ての雑居ビルの7階に研究所を立ち上げることにした。

「よし、掃除して、研究できるようにするぞ」

「「ラジャー」」

この煤と埃にまみれた雑居ビルから、俺たちフラクタルの再出発が始まる。

3人は新たな門出に胸を躍らせながら、フロアの掃除を始めた。


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暗黒魔法使いの逆襲~四属性魔法に適正がなかった俺は暗黒魔法を極めて世界を救うことにしました~ @RyuAquaLooso

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