第38話
そして連絡船の中では
「それでドアーはロックされたので
全ての装置を作動させる事が出来る」
(今の時間だと、この方向でいいだろう……)
濱中に分からないように目標を定めた新一朗は
操縦席に有るスロットルを全開にして
宇宙船を急浮上させた。
外で宇宙船を見ていた吉本と永木は
「あっ!宇宙船が消えた!」
と、宇宙船が突然消えてしまった事に驚くが
連絡船はワープが出来なくて
ただ急浮上しただけだ。
「あっ!いつの間にか天井に穴が!!!」
と同時に吉本と永木は空を見上げ、
一瞬の出来事に
腰を抜かすほど驚いているが
(ん!佐藤様は濱中に
操縦を教えると言っていたので
何処かへ飛んで行ったのか……)
戸田は、こうなる事は
解かっていたかのように
落ち着いている。
しかし宇宙船の中では重力制御が働き
動いていることを全く体感出来ず濱中は
宇宙船が既に宇宙に飛び出していることに
全く気付いていない。
新一朗は何も気付いていない濱中を見て
ニヤリとしながら、左上部にある
小さなモニターに映されている星を目指して
操縦桿を微調整している。
「さて、これから操縦に必要な
色々なレバーやボタンについての
説明をしていこう」
そう言うと新一朗は濱中に計器盤にある
操縦レバーや色々なスイッチの
説明をしていく事にするが
動かされては困る物は適当に教え
それ以外の物は本当の事を教えて行く。
新一朗は計器盤上に有るレバーや
ボタンの説明や宇宙船の操縦方法を
色々と説明し2時間が経った頃
「レーザー砲など攻撃用の物は無いのか?」
「この宇宙船は連絡用の船なので
そう言う攻撃的な物は無いが
バリアを張ったまま体当たりをしまくれば
通過した所を跡形もなく
消し去ることが可能だ……」
新一朗は淡々と語る。
「なに!そうなのか!
これは凄い!この宇宙船が有れば
何も怖いものなしだ!世界征服どころか
宇宙を支配する事も夢ではないな!……」
濱中は、この宇宙船で飛び回り
世界中の軍艦や軍事施設を
消し去っている光景に思わず
独り言を言い、笑みを浮かべた。
独り言を言いながら
ニヤリと笑みを浮かべた濱中に新一朗は
(やはりこの男は
この船で国を守るなどと言う事ではなく
己の自己満足の為に
この船が欲しいだけなのだな……
この様な者は
生きている値打ちなど無い……)
「さて、これで全ての説明は終わった。
君はもう完全に、この宇宙船を操縦できる。
君は地球人類史上初の宇宙船乗りだな……」
「おう!そう言う事だな……
では、この宇宙船から降りて貰おうか」
濱中はニヤリと笑みを浮かべている。
「その前に、
もうこれで私の知っていることは全て教えた。
サキさんを執拗に追いかけたり
私を監禁などせずに家へ帰して頂けますよね」
「そう言う訳には行かない。
宇宙人が地球に居ると分かったら大変だ。
暫くは此処に居て貰おう」
濱中は静かに笑っている。
「それは、約束が違いませんか……」
勿論、新一朗は濱中が
素直に言う事を聞くとは思っていない。
「誰も直ぐに
開放するなどと言ってはいない。
ドアーを開けるんだ!」
「いえ、約束して頂けるまでは
開けません……」
新一朗は落ち着いている。
それを聞いた濱中は、
ドアーロックだと言われたボタンを押し
ドアーを開ける事が出来るようにするが
しかし、それを見た新一朗はすかさず
操縦桿に有る、あのボタンを押し続ける。
「ドアーの開け方を教えろ!」
「いえ、私を解放してくれると
約束をしてくれるまでは
ドアーの開け方を教える訳には行かない」
「これを見ても
ドアーを開けないと言えるのか!」
そう言って濱中は
笑みを浮かべ拳銃を取り出す。
「この俺が何も持たずに
何が起こるか判らない
宇宙船の中に入ると思うか!
ドアーを開ける方法を教えろ!
お前が教えなくても
外から開けられるのだぞ!」
「仕方が無い。言い忘れていたが
船内の照明度調節だと言った
そのダイヤルを上に引き上げ
左へ、ゆっくりと回しなさい」
新一朗は観念したような目で指図する。
「これだったな……」
「そうだ……」
濱中がダイヤルを一段引き上げ
ゆっくりと左へ回すと
操縦席の前と左右に有る大きな窓と
大きな天井が段々と透明になって行き
外の景色が見えるようになった。
「あっ!何だ!これは!」
濱中は窓の外で
眩しい程に白く輝く光に驚いている。
「これは太陽の光ですよ……
もう既に太陽の引力に引かれ
更にスピードアップしていて
間もなく太陽の傍へ着く」
新一朗はそう言うと
ニヤリと笑みを浮かべた。
「何だと!
動いた気配は全く感じなかったが!?」
濱中は、まだ地表に居ると思っていて
本当に太陽の傍に来ているとは
思えないが、
目の前で輝く光景に恐怖を感じ
「ま、待て!
太陽などどうでもいい!
引き返そう」
濱中は慌てて操縦をしようと
目の前にある操縦桿を動かすが
主権は操縦席に移っているので
いくら目の前の操縦桿を動かしても
窓の外の景色は何も変化しない。
「何を言っているのです……
地球人で初めて宇宙船に乗り
太陽まで来たのです。
さあ!もう既に
太陽の中に突入しましたよ……」
新一朗は落ち着き払っていて
笑顔のままだ。
「やめろ!焼け死ぬぞ!」
濱中は気が狂った様に叫ぶが
「落ち着きなさい……
焼け死んだりはしません。
このまま突き進んで行けば
太陽を通り抜ける事だって出来る。
あ!そうそう、
君はこの操縦桿に有るこのボタンが
何のボタンなのか
知りたかったのだよね」
「あ、ああ……」
「このボタンは宇宙船を守るために
バリアを張る為のスイッチだ」
「解った!
それは解ったから早く引き返せ!」
濱中はそれどころではないと震えている。
「落ち着きなさい。
何のためにバリアを張っているのですか。
バリアを張っている限り
太陽ごときの重力や
温度では何ともない。
その証拠に、
もう太陽の中に入っているのに
何ともないでしようが」
新一朗は優しく笑顔で静かに言う。
確かに、新一朗の言う様に
もう太陽に中に
入ってしまっているのだが何ともない。
「そ、そのようだな……凄いものだ!」
濱中は冷や汗をかきながらも安心するが
「バリアを張っていれば
太陽の中に入っても何ともないのですよ。
このボタンを押して
バリアを張っている間はね……」
「なに!」
その異様な新一朗の笑みに
濱中はゾッとする。
「君の様な人間は人として失格だ。
生きている資格などは無い。
君に責任は無いが、
そう産み育てた親を恨みなさい。
だからと言って私は
君を許すことは出来ない。
君は私と一緒に
地獄へ行かなければならない」
濱中を見つめながら
静かにそう言うと新一朗は
バリアスイッチから親指を離した。
「やめろ!うわぁ~!!!」
そして濱中は断末魔の叫びをあげた。
その頃、戸田は
一向に帰って来ない宇宙船に
(やはり帰って来ないか……)
戸田は新一朗の
“私は、芽のうちに
摘み取っておきたいのです”
と、言った言葉が強く耳に残り
この事を理解し始めている。
そしてその頃サキは、連絡船の中で
地球で出会った
色々な人達の事を振り返っている。
(お世話になった人たちへの
お礼の言葉も言わずに
ジブ星へ帰っても良いのだろうか……)
サキは自問自答している。
(でも帰ったら
濱中さんに捕まえられるかもしれない。
そうなると戸田さんやおじいさんに
迷惑が掛かると言う事になる……
やはり私は此処に居てはいけない)
サキはそう思い
暗くなった地球を飛び出し
輸送船の中へ戻り
(この部品を此処に付けて
ネジもちゃんと締めたし、これでいいわね)
サキは予定通りワープリングの
部品の取り付けを終了し安堵するが
(問題はジブ星まで
ワープ出来るのかどうかよね……)
サキがサブパワーを切り離すと
輸送船の計器上などの全ての照明が消え
自動で点いた
非常用照明のみが光輝いている。
パワーリング及びエンジン回路の
テスト回路を切り替え
全てのスイッチが
オフになっていることを確認して
メーンスイッチを入れると
船内の照明や
計器周りの照明などが点き、
全てが待機状態になった。
そして画面に表示されている
異常個所を全て修理済みと変えて
(さて……
問題はワープ先よね……)
サキがワープ先を入力すると
“ジブ星を確認しました”と出た。
(あっ!やった~!
ちゃんと覚えているじゃ~ないの!)
サキは、これでジブ星に
帰る事が出来ると安堵するが
いざ帰れるとなると
地球での色々な思い出が蘇える。
(本当にこれで
ジブ星へ帰ってしまって良いの?……)
サキはジブ星へ帰ると言う事に
踏ん切りがつかなくて
床に座り込み両足を抱え込み
頭を膝に付け目を閉じ考え込んでしまう。
(もうジブ星へ帰って
お父さんやお母さんに会えると言うのに
何故心がこんなに重いの?……)
もうワープのスイッチを入れるだけなのに
今まで出会って優しくしてくれた人たちを
思い出していた。
「あっ!そうだわ!この輸送船のリモコンを
おじいさんの所へ持って行って
改造して貰えばいいじゃない!
おじいさんは整備士だと言っていたから
何とかしてくれるかも」
サキはいいアイデアだと思い
リモコンを探すが
(いくら探しても
リモコンが無いわ!?……
あ!そう言えば
リモコン信号を確認できないって
言っていたわね……
リモコンがなければ
どうしようも無いわ……)
サキは再び考え込む。
(一度ジブ星へ帰って
リモコンを持って来るしかないわね……
ルール違反なのだけど、
何万人もの人を救うのだから
許される筈よね……
リモコンだけだとそんなに高くないと思うし
おじいさんなら何とか
他の船でも使えるようにしてくれると思う。
一度ジブ星へ帰ってリモコンを持って来よう)
サキはそう決めてエンジンを掛け
ワープのスイッチを入れるが
“ジブ星への航路が有りません“
“パワーバランスが取れていません。
交換した部品は品番が合っていますか?
もう一度、品番を確認してください“
とのアナウンスとモニターへの表示が出た。
「えっ!航路が無い?……
パワーバランスが取れていない!?
そんな筈はないわ!おじいさんの輸送船では
ちゃんと動いたのにどうして駄目なの!?」
サキは問うが
“航路が有りません”
“もう一度、交換した部品の
品番を確認してください”
とのアナウンスと表示しかない。
(なぜなの!?……
こちらの輸送船の部品は
おじいさんの輸送船に使えるけれど
おじいさんの輸送船の部品は
こちらに使う事が出来ない?
つまり互換性が無いと言う事なの?……
それとジブ星への航路が無い?……
ジブ星を認識しているのに何故なの?……
どうしよう……
これではジブ星へ帰る事も
皆を救う事も出来ない……)
サキは予備回路も確認するが
同じ答えしか返って来ない。
サキは全ての手段を失い悲しくて泣き崩れた。
(そうだ!もう一度地球へ戻って
どうすればいいのか
おじいさんに相談をしよう)
そう考えたサキは地球の夜を待ち
再び連絡船を別荘の裏山に潜り込ませ
朝まで待って新一朗の家へ帰った。
「おじいさん、ただいま~」
おじいさんを呼ぶが返事が無い。
「おじいさん!どこに居るの?」
サキは家中や近所を探すが
新一朗は何処にも居ない。
(おかしいわねぇ~?……
足の悪いおじいさんは
何処へも行けない筈だけど?……
あ!もしかして、
濱中と言う人がやって来て
おじいさんを
連れて行ったのかもしれない……)
サキは直ぐに助けに行く事を決め
サイクル銃をバッグに入れて駅へと向かう。
そしてサキは電車の中で
どの様にしておじいさんを
救い出すのかを考えている。
(おじいさんを見つける為には
濱中と言う人に捕まるしかない。
そして、濱中と言う人に捕まって
おじいさんを見つけたら
サイクル銃で部屋に穴をあけ
二人で直ぐに連絡船に乗って
何処か人目に届かない遠くに行こう)
サキは、お世話になった人たちと
もう会えないと思うと涙が出るが、
それは仕方のない事だと覚悟した。
続く
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