第25話
★
イルミネさんの鍛造が失敗すれば、強力な魔物が召喚される。 召喚される魔物は鍛造に使用したアイテムのレア度に比例しているため、超希少な神聖鉄を使用した鍛造では途轍もないモンスターが召喚されるのだ。
先日召喚されたドラゴンは
そして鍛造の成功率も使用するアイテムのレア度に反比例する。 希少なアイテムほど鍛造の失敗率は跳ね上がるらしい。
「占えました! この鍛造ではフェンリルが出てきます」
「りょ」
メルっちの占星術のおかげで鍛造に失敗した際出てくるモンスターが判明する。 おかげで出てくる前に完璧な対応をすることが可能になっていた。
「あの、ちょっといいですかティーケルさん」
「デートのお誘いですか?」
「天と地がひっくり返ってもそんな罰ゲームにはお誘いしません。 じゃなくて」
「ノリツッコミが今日もキレキレですねレアーナさん。 デートしましょうか」
「息をするようにナンパするなこのナルシストが!」
「ティーケル様、デートなら私がしてあげるのです」
「ユティさん、ダメな男に執着するのはよくないですよ、相手はちゃんと選びませんと」
自作の寝そべり椅子に座りながら両手を枕にして寝っ転がる俺の周囲には旅に出た時のメンバーが揃っている。 みんな呑気にお菓子を頬張ったり俺が呪歌で自作したキャンプセットでくつろいでいるときた。
俺の隣でずっと立ってるユティたんと、パラソルの下にシートを敷いて寝そべるレアーナさん、自立式ハンモックでゆらゆら揺れてるメルっち。
ちなみに、ここは地下のため太陽光など刺さない。 レアーナさんが指しているパラソルは雰囲気づくりである。
「わあ大変だ! さあ龍殺しの王子様! 運命に導かれるままにか弱きこのボクを救っておくれ!」
「助かりたけりゃー全力で逃げろ」
「つれない王子様だね! ボクのことは好きにしていいから許してくれといったじゃないか!」
「よし許してやる、だからそのフェンリルから十分間逃げ延びろ!」
「好きにしていいとはいったけどそういうのはちょっと遠慮したいかな?」
今イルミネさんが召喚したフェンリルはドラゴン並みに凶悪な魔物である。 主な攻撃手段は周囲の水蒸気を駆使して氷の刃を生成して攻撃。
氷を駆使した呪歌が得意らしく、周囲を極寒の地に変えてしまうため、長時間戦えば凍傷で死んでしまうらしい。 短期決戦が好ましいが、奴自身大気中の温度差を利用した幻影を巧みに駆使するらしく、攻撃を直撃させることすら難しい。
その上皮膚の硬さも
そんな強敵が召喚されたにも関わらず、俺がくつろいでいるのは他でもない。 なぜならくつろぐ俺たちの目の前には巨大なショーケースが置かれているからである。
ショーケースの大きさは先日ドラゴンと戦った空洞内でも存在感を表すほど大きく、ドラゴンとの戦闘でも十分な広さがある。
このショーケースは俺が呪歌を駆使して生成した特殊ガラスを使用しており、破壊するにはドラゴンのブレス並みの威力が必要。 まあ、直接攻撃されたらヒビが入ってしまうが、ショーケースの中で戦闘をしていれば魔物たちにそんな暇はないだろう。
俺はチューチューとオレンジジュースを吸いながら呪歌を駆使して砂による攻撃を仕掛けている。 もちろんイルミネさんはショーケースの中で必死の形相を浮かべながらフェンリルから逃げ回っている始末。
どうやらイルミネさん、鍛造に失敗した時のために戦う呪歌は一切練習せずに逃げたり身を守るための呪歌を極めたらしい。 先日のドラゴン戦の時、俺は戦うのに必死で全く気がつかなかったが、イルミネさんは俺を置き去りにして真っ先に逃走したのだとか。
だから罰として今はショーケースの中で凶悪な魔物と追いかけっこをさせている。 まあ、俺も鬼ではない。
危険なら助けてやるつもりだが、危険じゃない限りはイルミネさんの必死の逃走を見物しながらデザートを嗜むつもりだ。
これでイルミネさんも懲りるだろう。 危険モンスターが出るにも関わらず、隙あらば鍛造したがるという変態思考をこうして矯正しているのだ。
「ほんっとーに趣味悪いですよね」
「とか言いながらレアーナさんもくつろいでんじゃん」
「それはまあ、このシート寝心地がいいですからね」
「そうだろうそうだろう、クッション性に優れた素材をシートの下に使っていてな……」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 助けて! 龍殺しの王子様!」
呑気にしゃべっていたらイルミネさんの頬スレスレを氷の槍が掠めていた。 イルミネさんは涙目で助けを求めている。
俺は小さくため息をつきながら呪歌を使用し、ショーケースの中で砂嵐を発動させる。
砂なら冷気とか関係なしに攻撃ができる貯め便利だ。 ドラゴン相手だと砂だと火力不足だったりブレスで溶かされてしまうが、フェンリルなら砂での攻撃がもっとも効率がいい。
砂嵐で生じた空気の揺れを利用してイルミネさんをショーケースの外に放り投げ、砂嵐の勢いを強めた。
ドラゴンには効かないがフェンリル相手だとこの砂嵐は有効で、ショーケース内は俺が選別したサラサラの砂を満たしてある。 この砂嵐によって砂を上空に巻き上げて、それをフェンリルの体表に付着させていき、生き埋めにすることが可能なのだ。
もちろんフェンリルはドラゴンよりも動きが素早くそう簡単には捕まらないが、足止めは砂の槍やら俺が作った水銀の刃で切り刻めば十分。
そう、俺は接近戦の弱点を補完するために水銀を大量に発掘してもらったのだ! 水銀は自然界にも存在しているため、水銀が発掘できる鉱山では防毒マスクなどが使用され、常温でも液体上の水銀は噴水のように噴き出すこともあったんだとか。
とある作品に影響されていた俺はこのことを知っていたため、ギルマスやマルーカさんに頼んで水銀の収集をお願いしていた。 集まった水銀は五リットル弱。
水銀は常温で液体になるにも関わらず、密度は水の約十三倍。 とんでもない質量を誇る上に温度計などにも使用される上に、液体のため空気中の振動も過敏に読み取ることができる。
つまり熱探知と振動による探知が可能。 探知性能ならレーダーほどではないが最高クラスに高いだろう。
おまけに呪歌によって自由自在に変形する水銀は刃にもなるし盾にもなる。 俺は文字通り突っ立ったまま最強になれる武器を手にしたというわけだ。
そんなわけで数分後、生き埋めになったフェンリルが霧散して神聖鉄が死体の中から出現。 鍛造に失敗して召喚された魔物は死んだら霧散してしまうらしく、霧散した死体の中に使用したアイテムが出現するようだ。
ゲームのドロップアイテムに似た感じだろう。 自然に発生したモンスターはこんなふうに霧散したりしないため見分けるのは簡単だ。
先日ドラゴンとの戦闘で死んでしまった
それはともかく、
「これで十三回目の失敗じゃないか、お前成功させる気ある?」
「ぜぇ、ぜぇ。 誰が好き好んでこんな地獄を味わいたいと思うんだい? もう、こんな死に物狂いで鍛造させられるくらいなら、さっさと成功させてレアアイテムを手に入れたいさ」
「よし、そろそろ反省しただろうから次は五分にしてあげよう」
「いや、五分も十分も変わらないんだが……」
「そうか……じゃあ前と変わらず十分で」
「あの、そういうわけではなくてだね。 ……五分でお願いできないでしょうか?」
先日ひどい目に遭わされた仕返しを果たしつつも、俺は課題だった近距離戦の対策も得ることができた。 問題点としては水銀はクソほど重いと言うくらいだったが、呪歌を使用すれば水銀を宙に浮かせて移動させることもできる。
窒素の鎧構築と水銀操作の両方を常に展開し続ける訓練としては申し分ないが、どうしても常に想像力を働かせているせいか脳の疲労は尋常じゃない。
よって睡眠時間が元いた世界よりも長くなってしまったのだが、ひとまずはイルミネさんの鍛造が成功するまではこのポホーラに滞在するつもりなので、今のところは問題ないだろう。
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