玄関前のメリークリスマス
第14話 推理を終えて
麦酒のおかわりを取りに自室へ戻り、廊下へと帰ってくると、ギャルが遠慮のない口調で電話口へと
「だーかーらー、家の鍵を確認してくれって言ってんの。え? 今はそれどころじゃない? そんなことは分かってて電話してんのよ、こっちは──」
それを横目に眺めつつコタツにもぐり込む。
「俺んちの鍵じゃなかった? ほら見たことかっ──」
ギャルはチラリとこちらに視線を送ってくるが、微かにフッと笑みを見せるだけで、そのまま通話へと集中していた。
「あーもー、私もアンタたちの邪魔したいわけじゃないし、後のことはメッセージ送っとくから、ちゃんと見ときなさいよ、いいね?」
そして彼女は通話を切る
「んー? なんで私がお取り込み中だと知っているかってー?」
ニンマリと
「私にはなんでもお見通しなんよ。なに、簡単なことさワトソンくん」
彼女は自慢げな様子でグッと身をそらしていた。
楽しそうでなによりだが……なんだろう?
ちょっとだけ
「いい? サブロー。あんたサッちゃんのこと傷つけたらマジ許さないかんね」
ギャルは最後に
──生まれて初めて出来た彼女と、いざイチャイチャしようとしたならば、急に女友達から電話がかかってきて
向こうの状況を想像してみると、中々に
サブローくんには是非、強く生きてもらいたい。
俺がそのように
「マジでサブローとサッちゃんが一緒にいたんですけど?」
「そうか、そりゃ良かった」
推理が合っていたのなら、少なくとも俺は『妄想を
「家の鍵はどうするの?」
「んー、サブローの鍵は実家に帰る前に郵便受箱に入れとくとして……私の家の鍵は年始にでも渡してもらうしかないよね」
彼女は「今から持ってこいとか、そんな
それもそうだ。
そして彼女は
やがてギャルが不思議そうな顔をして尋ねてくる。
「お兄さんってさ、じつは何者?」
「何者って……ただのサラリーマンだけど?」
新しい麦酒のプルタブを開けながら答えた。
「
「いや? そうでもないと思うよ」
「お兄さんは見た目も大人だけど、頭脳も大人!」
「それは
二人でたわいない会話を続ける。騒ぎ立てると御近所迷惑になる時間帯だから、ひっそりとしたやり取りで、高らかな笑いなどはないが、それでも賑やかだった。
ギャルが手に持っていた麦酒をあおる。
そして「ぷはっ!」と景気の良い吐息をついた。
「でも本当に良かったよ。こんなにめでたいことがあったんなら、家から閉め出されて良かったと思えちゃう」
彼女は友人たちの幸せを心から喜んでいるようだった。自身にちょっとした不幸が降りかかったとしても、それは大したことじゃないと言い切っている。その豪気さがなんとも気持ちいい。
「その心持ちは見習いたいね。俺だったら恨み
もし俺が友人のせいで一晩中、外に閉め出されるハメになったのなら、きっと文句の一つや二つ言うだろう。そう思って呟くと、彼女は「あはは、まぁ、でもさ──」と笑って言った。
「こうしてコタツでぬくぬくできて、ビール飲んで、美味しいケーキも食べて──うん、悪くないよ」
「悪くないか……そう言ってくれると嬉しいね」
「っていうか、むしろ良くない? これはサッちゃんには感謝しなきゃなぁ」
「感謝?」
なにを感謝することがあるのだろう。
そう問い返すと彼女は「うん、だって──」と笑いながら言う。
「おかげで、お兄さんとも会えたんだしっ!」
そう言って嬉しそうな笑顔を咲かせる彼女に、つい
相手は大学生のギャルである。
勘違いはいけない。
俺は必死になって自制すると、先ほどのやり取りを
すると「もちろん欲しーい!」という元気の良い声がする。
それを受けて俺は再び自室に戻ろうと腰を上げかける。
だがそれは鳴り響く着信音によって中断させられた。
ギャルのスマホから甲高いメロディが聞こえてくる。
「もしもし、あ──はーい」
彼女はスマホを耳にかざすと、それだけを言って電話を切った。
そして俺の方を向いて言う。
「お母さんからマンションに着いたから降りてこいって言われた」
「お、そっか……」
ついにお迎えが到着したらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます