第9話 謎はすべて解けた……
未だ不明瞭な点はあるが
「うーん……あと一歩なんだけどなぁ」
しかし頭をどれだけ
そうとなれば違った視点からの情報が必要となる。
俺はギャルへと向き直る。さらに質問を重ねるためである。
けれど彼女の方は、嬉しそうな顔をしながら、みかんに麦酒とクリスマスケーキという節操のない食い合わせを楽しんでいた。その
彼女は麦酒をクイッと傾けつつ外の雪を堪能していた。
その横顔を見ながらに思った。
──本当に
均整のとれた顔立ちに健康的なプロポーション。
格好こそ派手であるが似合っている。
くたびれた社会人の身ではとてもではないが太刀打ちができそうにない娘だった。加えて性格も明るくて
「──そういえば今日ってクリスマスイブなんだっけ」
そんなボヤキを聞きつけて彼女が言う。
「そうだよー。誰もが大切な人と大切な時間を過ごす、聖なる夜だよ」
「はは。そんな聖なる夜にこんなサラリーマンにつき合わせて悪かったね……って──」
途端に思考が活発になる。
「……いま『大切な人と過ごす』って言った?」
「へ? あ、うん。言ったけど」
「そうか、そういやクリスマスってそんな日だったな」
一年の中で最も『愛』という概念を意識させられる日。
それを理解すると、まるで霧が晴れ渡るかのような
──そういえば、話を聞いていて不思議に思ったことがある。
当初こそ気にせずに流していたソレが、とても重大な要素であったことを理解する。よくよく考えてみると、いかにソレが不可解な出来事であるかが分かってきた。
そのときふと、俺の頭の中に一つの仮説が浮かび上がった。その仮説は、今回の件について、全てに説明をつけることができるものである。
──あとは確証が欲しい。
俺はグルグルと回る思考のままギャルに尋ねた。
「ねえ、彼氏とか彼女っているのかな?」
「ふぁ?」
すると彼女はこれまでになかった反応を見せる。しばらくキョトンと目を丸くしていたかと思うと、急に慌てたように答えを返してきた。
「だっだから、私は彼氏募集中だって言ったじゃん。な、なになに? 突然真剣な顔して迫ってきちゃって、もしかして今から私と──」
「あ、ごめん。君の彼氏のことじゃなくて、今日遊園地に行った友人たちの恋人事情が知りたい」
「ていっ!」
「あいたっ!」
手刀を受けて
それなりに痛かった。
「何するの?」
「お兄さんは
その後、やけにぷりぷりと不機嫌になるギャルをようやく
「ミカは彼氏と別れたばっかりで、サブローは彼女いない歴イコール年齢な男子。ジュンペーだけは彼女がいるけど遠距離恋愛で年末になるまで会えないって言ってた。そしてサッちゃんはずっと片想いの男の子がいるって聞いてたけど告白したって話は聞かないね」
ふむ。
「そうなると、今日は誰も恋人との
「うん、そうだね。今頃みんな、自分の家でのんびりやってると思うよ。元々今日はクリスマスぼっちだけで集まって遊園地に行ってたからね、言ってて悲しくなっちゃったけど」
「なるほど。それは確かに悲しい」
「もっかい殴るよ、お兄さん」
にこやかな笑顔を向けられて、両手をあげて降伏の姿勢を示す。
すると彼女はようやく怒気をおさめてくれた。
「うん、なるほどね」
「いったい何が『なるほど』なんだか」
俺が満足したように納得すると
「それで、今ので何が分かったの? そろそろ何を考えているのか教えてくれても良くない?」
「ん、ああ。ごめんごめん」
そういえばずっと熟考していたので彼女にはなんの経過報告もしていないことに気づいた。それはさぞ
「これで全部分かったよ」
「へ……全部ってどういうこと?」
「ん──君の
「マジで!?」
驚くような声を受けて、少々得意げな気持ちになってしまう。
しかし同時に不安な気持ちも抱いてしまった。『全部分かった』などと
──推理小説の探偵役って、どうしてあんなに自信満々なんだろう? 見ようによってはただの
「まあ、たとえピエロになったしても、酒の席ならご愛嬌」
自身に言い聞かせるように呟く。聖夜の
俺はついに覚悟を決めて口を開いた。
「謎はすべて解けた……かもしれない」
踏ん切りをつけきれないのも、またなんとも俺らしい。
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次回より解決編となります。
主人公が導き出すのは──
『ギャルの家の鍵を誰が持っているのか?』
『どのような経緯で鍵の取り違えが発生したのか?』
の二点です。
解決編に向かう前に推理してみるなどしてお楽しみください。
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