第8話 転生したらラスボスだったけど、幼馴染みが負けず嫌い?

 馬車通学の特権だろうか、本を読見ながら体が揺れるというのは、前世で電車に乗って本を読んでいる時と大差ないので、当時に戻ったようで感慨深いものがある。


 馬車は石で造られた大橋に差し掛かり揺れがより一層大きくなる。外には太陽(?)の光を反射して輝く川と、美しい町並みと……


 「はぁ、はぁ…… 」


 僕が乗っている馬車に荷物だけ乗せて一人で走っているユーリがいた。


「なぁユーリ、遠慮しなくても車箱しゃばこには乗せてやるからさ……」


 ユーリは頭脳明晰で性格も問題ないので、両親からは対等に接しても構わない(本来、貴族は子供を一般庶民に近付けたくない)と言われている。馬車に乗せるぐらい今さらどうという事もないだろう。


「いや! こうでもしないとリアムに競争で勝てないから……」


 なるほど、ユーリは負けず嫌いだったのか。


「俺も一緒に走ろうか?」


 一人だけ走らせるのは申し訳ないし、何だか無性に走りたくなってしまった。そう思うのは、前世で趣味としてランニングをしていた、というのも一因かも知れない。


「それはダメ!リアムがもっと速くなっちゃう!」


「えぇー」


 確かにそうだな……というより、前世でランニングをやっていた人間が、知識のない素人相手に長距離競走(ちなみに、町一周はおそらく3㎞くらい)というのも大人気おとなげなかった気がしてきた……


────────────────────────────────────────────


 暫くして馬車が止まる。外を見ると、ず視界に入ってきたのはレンガ造りの低い壁だ。


 焦点を上に持っていくと、半木骨造ハーフティンバー様式の校舎が見える。魔法はあるけど技術はそれほど無いのだろうか、それとも魔法があるからだろうか……建物は平らで広くどこも2階までだ。


 ここの世界での生活が長すぎた弊害だろうか、それとも前世の学校と校舎の見た目が異なりすぎているからだろうか、学校に対する懐かしさが一切感じられない。


「着いたぞー、ユーリ」


「……ウン」


 途中で力尽きて馬車の上でうつ伏せになっていたユーリがか細い返事をする。入学初日から大丈夫だろうか……


 本を鞄に仕舞い、車箱から降りる。地面に勢い良く着地すると、靴底を貫いて衝撃がかかとに伝わる……痛い……靴は改良の余地があるななどと思いつつ、正門と思われる所までは少し距離があるので歩いていく。


 レンガ造りの壁を伝って歩いていくと、その壁を挟んで校舎側の敷地に並べられた新緑から、木漏れ日が地面を幻想的に照らして、視覚的に"初夏"を感じさせる。


 正門(仮)に着くと、『第八十三回トラピラト学園入学式』の立て看板がある。


「入学式か……」


 周りを見渡すとおそらく1年生だろう入学式に期待と希望に満ちた表情で向かう新入生たちは全員揃って僕よりも背がだいたい20㎝は高い。なにせ周りは12才で俺自身は9才なのだ、子供の成長期とは人間の神秘(?)なのだろう。


 昇降口につく、前世とは違い靴のまま校舎に上がるため、下駄箱はなく、ここが前世とは違う世界なんだなと思い知らされる。


 昇降口を過ぎてすぐ、この学校の教員が立っている。黒いローブに高いとんがり帽子を被った先生まじょの姿はこの学校が……いや、この世界のほぼ全ての学校が魔法を教える為にあるのだと示す。


「おはようございます」


 少しだけ会釈をしながら挨拶をする。


「おはようございます」


 笑顔を含んだ表情で返してくれる。会釈をしないのは、とんがり帽子があるせいか、それとも会釈はユースティア地方のみの文化なのか、その辺も学園で学べたらいい。


 廊下を進むと、"体育館"に相当するホールに着く。まばらだが、既に多くの生徒がいる。事前に言い渡されていた席の場所へ向かう。まだ隣の席の人は来ていない。


 ここから学園生活が始まるのだということを肌身をもって実感させられ、先ほど校門あたりで見た少年少女たちと同じような眼差しになった。

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転生したらラスボスだったけど、幼馴染みが主人公(最強)なせいで全然目立てません ヨイクロ @yoikuro

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