七話
処刑される霊媒師
次に意識を取り戻したのは檻付きの馬車の中であった。手首は綱で拘束されて動かせない。後頭部はまだズキズキと痛い。
外を見ると聖都から連れ出されて近くの丘に向かっている様だ。ガタガタとした揺れは舗装されていない道を走っているからだった。
この辺の地理は少し調べた事はある。あの丘は処刑場だ。まさか直ぐに処刑場送りにするとは恐れ入った。
あーくそ、アコナイトの奴にハメられた。アイツは全てを俺のせいにして事態の収束を図るつもりだ。
最後の記憶を思い出すとトライソーンは殺されたのだろう。そしてそれを実行したのは魔物の操った俺になっている。
それもあの天秤のお墨付きだ。ここからいくらアコナイトが魔物を操ったと言っても誰も信用しないだろう。
奴は都合の悪い証人と邪魔者の俺を同時に始末する事が出来る。倫理や道徳を無視したなんて素晴らしい作戦なんだ。惚れ惚れするね。
俺も何処か現実の事じゃ無いと思っていたのだろう。いくら口では暗殺やら処刑なんて言っても所詮はふざけた世界の出来事。そう思っていた。
だがこれは紛れもない現実。奴は簡単に人殺しをするし、冤罪を仕立て上げてる事も気にしない。これまで詐欺師は見てきたが人殺しは初めてだ見たよ。
こちらは情報も手札もそして覚悟も何もかも足りなかったんだ。教会の不正を暴くなんて元々無理のある作戦だった。どうした俺、この世界に来て英雄にでもなったつもりか?上手い事悪霊共を言いくるめて調子に乗ってたのか?
こんな事ならさっさとこの国を出て知らない国で再出発すれば良かった。あー今更そんな事を考えても遅いのは分かっているが後悔が尽きない。
俺がただただ後悔に苛まれていると馬車が急に止まった。中に乗っている犯罪者にはお構いなしか。
「降りろ!」
そう騎士から命令され素直に馬車から降りると丘の麓に下ろされた。
「歩け!」
その命令にも渋々従い騎士に言われるがまま丘を上がっていく。
木々も草も生えていない石ころだらけの丘をタラタラ上がって行き頂上に着くとデカい石で出来た祭壇が鎮座されていた。祭壇の真ん中は不自然に凹んでおり、何か叩きつけられた跡がある。
あー、あそこで処刑されるのか。
祭壇の前に着くと騎士に無理やり座らされ上半身を祭壇に押し付けられた。痛いから!言われればちゃんとするから。
俺の顔に影が被り、顔を上げるとアコナイトが俺を見下していた。
「罪人ウンスイはその悪行を暴かんとするトライソーン騎士団長をあろう事か異端審問の場で手にかけた。公衆の面前で行われたその凶行は誰が見ても死罪に相応しいものと言える」
何をコイツは言ってんだか。いけしゃあしゃあと。
「トライソーン騎士団長は最後にウンスイが魔物を操る力があると我々に命を持って伝えてくれた。名誉ある騎士団長の死に女神の祝福があらんことを」
周りの騎士達は整列してトライソーンの死を悼んでいる。それが形式的にやっているか、本心なのかは分からないが。
「処刑人、前へ」
アコナイトが処刑人を呼ぶと、頭巾で顔を覆った奴が現れた。怖っ、しかもなんかハンマー持ってるし。えっ?もしかして処刑って撲殺なの?
「処刑人が持っているその鎚は女神ロト様の祝福を受けており。打ち砕かれた者はその邪悪なる肉体も魂も浄化される」
マジか!やっぱり撲殺じゃん!それ一瞬で済むの!
「さあ!最後に女神ロト様へ祈りを捧げよう」
やばい、刑が執行される。
「目を瞑れ!」
騎士に命令され俺は目を瞑った。別に女神に祈るつもりはない。
周りが静かになった。この感覚は覚えがある。俺は大きなため息を吐きながら目を開けた。
そこは処刑場ではなく、何もない真っ白な空間であった。そして目の前には女神が立っていた。
「何の用だ?俺を笑いに来たのか?」
「相変わらず減らず口だな。どうだ人を騙し続けたお前が最後に謀れ処刑される気分は」
悪趣味な奴だ。そんな事の為に出てきたのか。
「最悪な気分だな。特に最後に拝む面がお前なのが特に」
「この期に及んでまだそんな事を言うか。今なら己の行いを振り返り悔いる事も出来るのだぞ」
「はっ!懺悔の為にわざわざ処刑前に時間を作ったのか?ならお気の毒だな、俺は今まで自分がやってきた事に後悔は無い」
「お前に騙された人間の事を何も思わないのか?」
「奴らは幸せそうにしていた何も問題はない。それはお前ら神でも出来なかった事だ。お前ら神が救えなかった弱者を俺が代わりに救っただけだ」
「それはお前を置いて出て行った母親の事か?」
「気安く俺の過去を語るな」
「それが今のお前の出発点なのだろ」
「ちっ、別に今は何とも思っちゃいない。カルト宗教にハマって金持って出て行った。何処にでもある話だ。その宗教団体も今は崩壊して無くなり、母親も死んだ。それだけだ」
「ならお前が霊媒師を今だに名乗っているのは何故だ?」
「何が言いたい?まさか俺が怪しい宗教にハマりそうな奴を救い出してる聖人だと思ってるのか?」
「お前の心の内はどうなのだ」
「全く違うね。俺はこういう生き方しか出来ないだけだ。学も身分も無え貧乏人が成り上がるにはこれしかないんだよ。母親も何も関係無い」
「それがお前の答えならもう何も言うまい。だが覚えておけ自らの行いは必ず自分自身に帰ってくる事を」
「はあ?だから今処刑されるんだろ?今更何を言って、っておい!勝手に消えるな!」
白い空間が消えるとやっぱり処刑場であった。
勝手に呼び出して喧嘩売って好き放題言って帰って行った。ふざけやがる。死んだ真っ先にアイツをぶん殴りに行こう。
「さあ、最後に贖罪の言葉あるか?」
アコナイトは偉そうに言ってきた。無ぇよそんなもん。
「女神様から必ず裁きが下りますよ」
「下るのはそなたの方だ」
俺の言葉を軽く受け流したアコナイトは処刑人に合図を送った。
処刑人が隣でハンマーの試し打ちをしている。ハンマーが岩に向かって振り下ろされると光り輝き岩は粉々になった。
俺もあんな感じで処刑されるのか。目の前で見せられると血の気が引いてきた。
「女神ロトの名の下、刑を執行せよ」
アコナイトの宣言し処刑人がハンマーを振り上げた。
これで俺も終わりか。果たしてここで死んでも日本に帰れるかどうか……
「その処刑!!待ったーーーーー!!」
何処からか馬鹿でかい声がした。周りの人間もキョロキョロし声の主を探している。
ドスンと鈍い音が近くでした。音のした方を見る生首が転がっている。
「無事か!ウンスイ殿!」
知り合いの生首であった。グラジオラスだ。上を見るとリリーらしき人影が遥かに上空にいる。リリーがここまで持ってきて落としたのか。
突然の出来事に騎士も処刑人もアコナイトも固まって動けない。
「久しぶりですね、アコナイト卿」
グラジオラスはアコナイトを向き転がりながら挨拶した。
「グラジオラス……トライソーンから聞いていたがまさか本当に……」
アコナイトの言葉に騎士達が動揺した。
「グラジオラスだって!」「伝説の騎士団長だ」「憧れの人だ、本当に?」
騎士達もその昔グラジオラスに会ったことがある奴もいるはずだ。その騎士団長様が生首で来たなら色んな意味で動揺するだろう。
「アコナイト卿よ、話は全てトライソーンから聞いた。そしてメリアからも異端審問の状況を聞いた。それを踏まえれば貴方が魔物を操りトライソーンを殺した事は明白だ」
「何を馬鹿な事を言っている!騎士達!悪霊が出たぞ!早く浄化するのだ!」
アコナイトが必死で命令しているが騎士達の動きは鈍い。どうしたらいいのか分からないのだ。
「グラジオラス様!ご無事ですか!」
今度は遠くからメリアの声が聞こえた。メリアは馬に乗りこちらに向かって駆けて来ている。その後ろには首無しのグラジオラスが別の馬に跨り追っかけて来ている。グラジオラスの後ろにはカクタスが乗っており、事情を知らない人が見れば完全にメリアを追い回している図になる。
今度は俺の足元からスケルトンが出てきて俺を守るように前に立ってくれた。
こうなってしまえば騎士達も慌てて剣を構える。だが誰も動き出そうとしない。何が何だが分からず状況が混乱しているからだ。
メリアの馬が丘を駆け上がり俺の前まで到着した。
「まだしぶとく生きていたのだな」
メリアは憎まれ口を叩いた。
「そう言うお前も助けに来てくれたんだな」
「当たり前だ、ウンスイ。お前は私を助けてくれたからな」
メリアは恥ずかしげも無く言い切った。かっこいいじゃないか、照れるぞ。
遅れてきたグラジオラスの体も到着して転がっている頭を首置いた。
「ウンスイ殿には助けられたからな。ここで戦わねば騎士の名折れだ」
グラジオラスも実に真っ直ぐな事を言ってくれる。
「ワシもじゃよ。それにお前さんにはワシの罪滅ぼしを見てもらわないとな。勝手に死なれては困る」
「あっ!私もです!ウンスイ様に助けられました!だから助けにきました!」
カクタスもリリーも俺の前に立ってくれた。
ああ、そうか。女神の野郎、そう言うことか。自らの行いは自分に返ってくる、って。助けが来るならそう言えよ馬鹿野郎。
グラジオラスは剣で俺の手首を拘束している綱を切ってくれた。
「ありがとうな、みんな」
俺がお礼を言うと、
「礼はこの場を切り抜けてからだ」
メリアはこちらを見ずに答えた。
「そうだな。なんとか生き残ろう」
絶望的な状況であったが事態はひっくり返った。負ける気はしない。こんなヤベー奴等が味方してくれているからな。
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