第2話 「ぎこちない会話」

~過去~



「すみません!大丈夫でしたか?」



 新歓の日、ふとした彼女のドジから急に会話が始まった。おれの濡れた袖をおしぼりで拭く彼女の姿は最初はなんだこの女とも思った。


 とりあえずおれはさっさと会話を切り上げようとする。



「いえ、大丈夫ですよ。気にしないでください。」



 その人の見た目は確かにすごいかわいい今どきの女だ。髪もしっかりとサラサラで綺麗だ。少し薄暗いからか瞳も少し綺麗に見える。


 体も細すぎず太すぎずと言った健康的な体つき...。いや、それはやめとこう。



「もう、未紗ってばまたドジしちゃってるのー?」


 その人の隣の女の子が声をかける。名前は未紗さんっていうんだ。


「飲み物こぼすのはしょうがないじゃん朱音ちゃん。本人も大丈夫って言ってるからさー♪」


 その本人を目の前に大丈夫って自分で言ってるあたりドジだなこの子。そう思いながら透を見るとそのドジっ子のことを見つめていた。


 あー...これは一目惚れしてるなこいつと思いながら少し落ち着かせようとした。


 そんな中サークルの代表と美人の先輩がやってきた。



「あらら、大変だったじゃん。」


 翼先輩がおれにそう言ってきた。いや見てたならフォローしてくれよ。


「いえ、別に大丈夫ですよ。」


 とりあえずこの人は話しづらそうだ。隣の人はきっと翼先輩とおんなじタイプの人かも。


「まぁまぁ、私は香、あ、名前で呼んでね!」


 やっぱりこのサークル馴れ馴れしいやつらばっかじゃねぇか。こういうのは苦手なんだと何度も学生時代から思うんだ。



「ありがとうございます。」


 頼む、もういいからさっさと戻ってくれ。



「まぁぎこちないのもあれだし、よし!新歓ってことだし新入生には軽く自己紹介してもらうか!」



 おい、マジかよ。自己紹介大事だけどおれを見て言うなよ。



「よーし、じゃまずはそこの金髪のやつからだな!名前と出身と大学生活どんな感じに過ごしたいか一言ずつ!」



 そう言い切った翼先輩はドヤ顔でいる。なんだ、やっぱりナルシストっぽい人じゃねぇか。ただモテてそうなのは確かだなと感じてる。



      ーーーーーー



 そんなこんなで透から自己紹介となった。



「じゃまずはおれからですね!生まれも育ちも東京!桐島透です!!あとに自己紹介する隣にいる間宮陸とは高校からの友達です!大学生活ではたくさんの友達でいっぱい遊んだりイベントを共有したり、あとは彼女募集してます!よろしくお願いしまーす!」



 やっぱり初対面の人に自分を紹介するのも上手いな透は、あっという間にこの新歓を自分のものにしやがった。周りの女がヒソヒソと。


「ねぇ、今自己紹介してた人めっちゃかっこよかったよね!」


「え、あんなイケメンなのに彼女いないんだ!狙っちゃおうかな」


 って話してるのが聞こえた。もちろん男からもすごい話しかけられてる。


 こういうやつが周りから認められるんだなと改めて実感する。透の方を見ると、何故か納得がいってないような顔を浮かべてる。


 周りからたくさん拍手が送られると翼先輩がおれを見て。


「じゃ次は隣の陸くんね!」



 ああ、そうか。次はそりゃおれになるよな。いっそのことお笑い展開にでも持っていこうか考えたけどおれにそんなユーモアなんてない。


 だからつまらなくても最低限の自己紹介だけをする。




「間宮陸です。隣の透とは高校の友達です。出身も東京、よろしくお願いします。」



 あんまり拍手が起きなかった。冷たい印象を与えてしまったからなのか、いや元々おれはこんな人間だから素を見せられればそれでいい。



「透くんと比べてもなんか地味だよね。」

「今の今までいたこと気づかなかった。」「あんまり人に興味なさそう」



 そんな言葉がおれの耳に入ってる。そんなこと言われなくたってわかってんだこっちは。



 そう、昔からだ。昔からおれのことを自己紹介や態度で勝手に判断するような人間と仲良くなろうなんて思ってなかった。そうするのが最早デフォルトで、その方が楽で。



「へー間宮陸くんって言うんだ♪」


 突然前の席にいるさっき飲み物をこぼした人、未紗さんに話しかけられた。



「そうだよ、よろしく。」


「うん、よろしくね!」



 そう言って会話をわざと終わらせた。いきなりタメ口で話されるのにはあまり慣れてない。なんだろう、どことなく距離感が近い人だなと感じた。


 それから何人か自己紹介が終わり、次は前の席にいる未紗さんの自己紹介になった。



「水無月未紗です!隣の朱音ちゃんとは幼馴染です!趣味はオシャレなところにお出かけしたりいろんな美味しいご飯を食べたりしてます♪彼氏はいません!私も募集してまーす♪よろしくお願いします!」




 あーなるほど、透と相性良さそうだなこの子。とりあえず水無月未紗さんって名前なんだと覚えておく。


 周りからたくさんの拍手を受け、続けてとなりにいる金髪の朱音さんが自己紹介を始める。



「倉科朱音でーす!未紗とは幼馴染で私も素敵な彼氏募集してまーす☆好きなタイプは背が高くてカッコいい人です!いっぱい遊びたいのでよろしくお願いします!」




あー帰りたい、これあとどんくらい続くんだと。ここは合コン会場じゃねぇんだぞ。なんでみんなして彼氏彼女募集って伝えてるんだよ。


 そう冷めた目でしか見れないおれはやっぱり周りからしたらおかしいのかもしれない。




ーーーーーー


 自己紹介が終わり、より先輩後輩分け隔てなくいろんな会話が飛び交うようになった。

透や水無月さん、倉科さんは周りが食い気味に質問の嵐に耐えていた。


 それぞれが良いなと思った人でも見つけたのだろうか。あまり質問に答えたりしていなかった。


 え、ちなみにおれはだって?そりゃ今1人でまた静かに携帯をいじったり飲み物や出ている料理を食べたりする。いつのまにか席替えになったからおれは端っこに座ることにしている。


 それにしても翼先輩は店選びセンスいいな。確かにこの店の料理はみんな美味い。これならあとは適当に時間を潰しておけばいつのまにかこの会は終わる。耐えろ、耐えるんだおれ。そう思いながらひたすら食事に専念した...



       ーーーーーー


 あれから1時間ぐらい経ったんだろうか気がついたら少し距離ができていた。


 みんな絡みたい人にどんどん絡みに行ったり、ゲームしたり、先輩達は一気とか訳のわかんないノリを繰り広げていたりカオスだった。



 さすがにここまで参加すればそろそろ先に帰っても言われないよな...。


 そうふと思い、透に帰るって話しかけようとしても同級生や先輩やらいろいろ囲まれてるのを見ると改めて人気者も人気者で大変だなと感じる。倉科さんもいるな、あの人もやっぱり透か...



 改めて透はすごいやつだなと。それと同時に自分の無力感が湧いてくる。まぁテーブルの上に置いてある料理と飲み物を完食したら翼先輩か香先輩に先に出ると伝えよう。そう思いまた携帯を出していろいろとsnsを見ながら料理を食べていた。


 そういえば水無月さんはいなかったな。少し席を離れていたんだろうなと顔を上げた。



「あ、やっと見てくれた♪」


「うわっ!?」



 その勢いで思いっきり後ろに倒れてしまった。え、いつからいた?やっと見てくれたってことは少し前からおれの席の前にいたってこと?


 てかなんで?席替えしたんだからそれこそ透や翼先輩のとこ行けばいいじゃねぇか。



「わぁ、ビックリした笑」


「ビックリしたのはこっちのセリフだ!?え、いつからいたの?」


「え~内緒♪」



 なんなんだ一体...。



「ねぇ~なんでみんなと一緒に話さないの?」



「いきなり初対面で話すことなんてないだろ。」


 おれはそうぶっきらぼうに答える。周りから冷たい男って思われるだろうな。こんな場だから尚更。



「そうかな?それは君が勝手に決めつけてるだけなんじゃないかな?透くんと話してる時は普通なのに自己紹介とか先輩とかと話してるの聞いてたけどすごくぎこちなかったよ笑」



「あーそう。」



 そう言うと少しお互いに黙って飲み物や料理を食べたりする。その間視線を感じるのは気のせいにしておく。



 一体どうすりゃいいんだ?女子と話したりすることなんてまともになかったのになんて普通会話するんだ?


 てかなんで水無月さんおれんとこにいるんだよ。そんなことされると注目されんだろ。



「ねぇ、そろそろみんなも話したがってるから戻ったら?倉科さんも多分探してるんじゃない?」


そう、これでいい。これで何もかも解決。



「やだー♪」



 は?なんでそんなこと言うんだよ。



「朱音ちゃんは今取り込み中だし!先輩もいい人そうだしね!私にもいろんな話をしてきた!去年はこんなところへ行ったとかこんなご飯行ったとか!」


 へーそれはお楽しみできたことで。



「じゃあ尚更楽しく話せる人のとこで楽しい話した方が...」



だめだ、初めてだこんな人。ここまで引き下がらねぇ人がいるなんて。正直苦手って言われると思ったのに。



「私はあなたとお話したいの♪」



【ダメ、初めてだからこんな人。等身大の私を見て素直な意見を言ってくれる人がいるなんて】




   (気になるだろうが...)

【気になっちゃうじゃん♪】

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