第52話「ご馳走」

 転移門の利用予約を入れ宿に向かい、宿泊の手続きをする。

 そして、ギルドに向かった。


「依頼お疲れ様でした。買取の方はどうしますか?」

「受け取りと預けるのを半分で」

「承知しました」


 普段は省略されているやりとりだ。

 田舎の良い所である。お互いよく知っているので待つだけで終わってしまう。

 リィドは報酬、買取のお金を半分は現物でその場で受け取り、半分をギルドに預けている。

 リィドは家があるため、現金は手持ち以外は家に置くことになる。

 今までは一人だっため依頼で家を離れたときに盗難に遭えば全財産を失うことになる。

 逆に手持ち以外を全てギルドに預けている場合、緊急の時すぐ引き出せないなどで困るかもしれない。

 考えたくはないが、ギルドによる不祥事、トラブルで預けた金がなくなるかもしれないこと、両方を考え半分半分にしてる。

 金を無事に受け取る。


「フェイシスお待たせ」

「お腹ぺこぺこー」

「じゃ、行こうか」


 先ほど輸送車の中でウニュかおすすめのお店を教えてくれた。

 ゼルストス一行は各地を飛び回っているため各地のお店に詳しいそうだ。


「いらっしゃいませ」

「二名です」

「……案内します。こちらにどうぞ」


 やってきたのは肉料理が有名なお店。

 大衆の酒場などではなく、落ち着いた雰囲気の店だ。

 席に案内され着席する。


「落ち着かないねー」


 基本は家か、途中で買って家で食べるが基本だ。

 あまり店に行かない。

 そして、行くとしてもにぎやかかがやがやした店が多いからだ。


「ご注文はお決まりですか?」

「肉コースの特盛でお願いします」

「コースですと、お連れ様も同じ物になってしまいますがよろしいですか?」

「はい、大丈夫です」

「かしこまりました」


 コースと言ってもそこまで高級なものではない。

 リィドも行ったことはないが高級な店は普段着では入れない。

 当然魔獣駆除帰りで汚れていれば店の入れてもらえないだろう。

 一品の量が少なく、多品目多種類出される。

 腹を満たすのではなく、食を楽しむのが主な趣旨な傾向が多い。

 この店は高級な店の雰囲気を味わいつつ腹を満たせる店とのこと。

 ギルドが間近にあるため、普通の店より量が多く大食らい腹減りも満足できる。

 ギルドから近いは他にも利点があり、珍しい魔獣の肉が出たり、輸送費が少ないので値段も安いなどもある。

 ギルドへの報告帰りにご褒美として寄るのも多いらしい。


「お待たせしました。メルダウの舌のサララン包み焼きです」

「何これー」


 フェイシスは興味津々だ。


「どうやって食べるの?」

「こうやってだ」


 軽くテーブルマナーをレクチャーしながら食べ始める。

「美味しいー、それに変わった匂いするね」

「嫌いか?」

「ううん、お腹が減る匂い」


 サラランは香草の一種だ。

 熱を通すと鼻に突き抜ける匂いがする。

 メルダウの舌は弾力があり硬めである。

 サラランは匂いだけでなく、汁が肉を柔らかくするので肉料理によく使われる。


「きゅっとしてじゅっとするー」


 サラランにより、メルダウの舌が柔らかくなる。

 サラランから出るエキスと、メルダウの舌の脂が混じる。サラランのおかげくどさがなくなり、食感と味が楽しめる逸品だ。

 そして、地味に咀嚼回数が増えるためフェイシスにおすすめな品だとリィドは思った。


「ピグッグのレバー炒めです」


 ピグッグとはチック、メルダウと並ぶメジャーな家畜化された魔獣である。

 ピグッグを捨てるところはないと言われるほどありとあらゆる部位が食材として使われる。

 ピグッグは六本足で、うずまき状の尾が四本生えている。

 尾はバランスを取だけでなく、くるくると回すことで体温調節を行う。

 この尾の回す速度が速い程、肉が美味いとされている。


「これって内臓?」

「そうだな」


 内臓は普段あまり買わない。

 新鮮でないと腹を壊す可能性が高いから大事を取って避けていた。


「どくとくな味だね」

「苦手か?」

「ううん、美味しい」

「若チックの丸焼きになります」

「うわ、まんまるー」

「失礼します」


 丸々豪勢一体乗った皿が出された。

 店員はナイフを取りだし綺麗に六等分に切り分けた。

 骨や臓器は処理されており、全て綺麗に食べることができる。


「日替わりのスリューボンア揚げになります」


 スリューボンアとはボンアの一種である。

 スリューボンアは高温地帯に生息する。

 高温に適用した体になっており、体毛がなく皮膚が硬化している。

 ワイルドボンアは鎌のような鋭い大きな牙が特徴だがスリューボンアにはこれがない。

 その代わりスリューボンアは鼻の上に大きな角が生えている。スリューボンアはが全力で突進すると岩すら砕く。

 そのスリューボンアの肉に衣をつけて揚げた料理だ。

 リィドもスリューボンアの肉は初めて食べる。


「美味いな」

「おーいーしー。お家で作ってー」


 さくさくな衣に噛むたびに溢れだす肉汁。ほどよい噛み応え。実に美味だ。

 素材が入手できたら作ってもいい。


「こちらが最後の料理となります。ロダハイの煮込みスープです」


 ロダハイは雪山や雪原など寒い地域に生息する魔獣だ。

 もふもふな毛皮は服など装飾などに重宝される。

 特徴的なのは頭頂部から生えている二本の角である。

 雄にのみ生え、木の枝のように枝分かれし年月をかけ大きく伸びていく。

 ロダハイの肉を野菜と共にミルルで煮込んだスープだ。


「濃厚だな」

「うん、お肉すっごい柔らかいね」


 ロダハイは脂肪が多く、さらに煮込んでいるためプルプルになっている。


「かなりの量だったな……」


 満腹も満腹だ。最後のスープは少し無理して完食した。


「満足」


 満腹と言わないのは恐ろしいが満足してくれて何よりだ。


「とこでどれが一番美味しかった?」


 フェイシスに美味しいご飯を食べさせることがリィドの生きがいになりつつある。


「あげたやつー」

「そうか。スリューボンアは無理かもだけどワイルドボンア狩って揚げてみるか」

「うん、楽しみー」


 ワイルドボンアを入手した時は焼くか煮て食べていた。

 揚げ料理は油の処理が面倒なので頻繁にはしないからだ。

 支払いを済ませ宿に戻る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る