第2話:不死身の少年

「俺の名はハイブリッドキメラだ! そんなふざけた言葉で呼称すんじゃねぇよ、雑魚が!」

 自身をハイブリッドキメラと呼ぶ怪人は割れた車窓から飛び出て、彼を追った。

 彼は怪人の巨力に殴られたにも関わらず、

「いいや、お前はリストラ馬鹿だ。そう向きになるのがその証拠だ。」

「死に晒せ、糞餓鬼がぁ!」

 怪人は虎の腕を振り下ろそうとする。でも、その瞬間に怪人の身体に電撃が迸り、その発光がバスの中にいる私たちさえも見えるくらい輝いていた。

「あがががががが!?」

 更に、よく見れば、その人の両腕には銀色の楕円形のガントレット何か機械のような物を装着していた。

「こっちだぜ、リストラ馬鹿!」

「この野郎、今度こそ、ぶっ殺してやる!」

 怪人は再び、虎の爪を振り下ろす。でも、感電したせいなのか、動きが少し鈍くなったせいか、彼は怪人の猛攻を避けて、後ろへ下がる。

 私たちを遠ざけよう分かった時、苛立った怪人は鹿の角を頭突きの如く振り下ろした。

 その角は彼の肩を突き刺し、血が流れた。

「ぐっ!?」

「ほらほら、どうしたぁ! 肩に血が流れ出て、力が抜けたかぁ! ならぁ、死ねいぃ!」

 再び、虎の爪が振り下ろされる。その時、彼はある事を呟いた。

再構築rebuild

 その瞬間、彼の肩は白く眩く発光し、蒸気のような白い靄が吹き出す。光と靄が収束すると、

「貴様、超異能アビリティ覚醒者・ホルダーだったのか!?」

 超異能アビリティ、テレビではよく見るけど、魔法少女わたしたち以外の力を間近で見るのは初めてだった。

 怪人はその事に驚き、後ろへ避けようとするも道沿いの排水溝にある金物の蓋の穴に蹄が挟まり、身動きは取れなかった。

 彼はそれを見逃さず、怪人の頭に両手で鷲掴みにし、あの時の電撃よりも更に激しい放電を与え、激しく光った。

「あがががごがかがごごが!?」

 放電が終わった時は怪人の頭は黒く焦げ、突っ立っていた。

 それを見て、安心したのか私は居ても立っても居られず、感謝を述べようと、彼に向かって、走っていた。

 本来、戦わなきゃいけない私なんかのせいで傷付いた彼に謝りたいが為に。

(駄目ラブ! 今、近付いちゃ…)

 ラブるんの声さえも届かなかった私は彼の元へ駆け寄った。

 しかし、私に気付いた彼は血相を変えて、大声で言い放つ。

「おい、あんた!? こっちに来るな! 怪人はまだ…」

 彼は言い切ろうとした瞬間、怪人は立ち上がり、虎の爪は今度こそ彼に振り下ろされ、彼の顔右前面の肌を剥がれ落とし、右腕や右脚を両断した。

「いや、いやぁ…きゃっ!?」

 彼が凄惨な姿になるのを見た私は嘆きそうになるが、怪人に両腕を強く掴まれ、虎の爪を喉元に捉えられた。

「俺にはぁ…虎の腕力…馬の脚力…鹿の鋭利な得物つの…そして、栗鼠の知能と怪人の頑丈さがあるんだぜぇ…こうして生き延びて、人質を取ることで形成逆転だぁ!」

 怪人は余裕そうに装いつつ、目が泳いで、正気を感じられなかった。

「り…りび」

超異能アビリティを使うなぁ! この雌がどうなってもいいのか! 使った瞬間にこいつを細切れにすんぞ、ゴラァ!」

 彼は薄れゆく意識の中、超異能アビリティを使わず、荒い呼吸をして、命を取り止めることに徹した。

 今にも死にそうになる彼を見て、浅はかな行動をした私を責め、彼に懺悔した。

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、私のせいでごめんなさい…


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