第15話 証人喚問

     証人喚問


「あら? 角が消えた……」

 ユリファも気づく。倒れた魔族の頭から角が消えていく……。

「これは角じゃない」

 キョウは肩をすくめてそう言った。

「どういうことですか? これは一体……」

「彼らも角というけれど、これは魔力の供給をうける別の世界とのパス――。だからよく見ると、先端が揺らいでみえる。それによって莫大な魔力をえて、魔族は魔法をつかう」

「角は……別の世界とのパス? 別の世界って何ですか?」

「この世界だけがすべてじゃない。世界なんて無数にあり、魔力のたくさんある世界とつながっている……とだけ理解すればいいよ」

 キョウはそういって歩きだした。魔族二人を倒したのに、相変わらず飄々とした様子は変わらない。その態度に、ユリファも少しだけ安心した。


 ユリファたちはふたたび、イリミアのところにもどってきた。

「魔族を倒してきました」

 ユリファがそう告げると、イリミアは少し残念そうにする。それをみてユリファも気づく。

「まさか……。お姉様は死のうとしていたんですか?」

「死んでも構わない……とは思っていた。だって学校にも行けず、家柄にふさわしい伴侶もみつけられず、お母様に合わせる顔がない……」

 イリミアがそう考えていたことに、ユリファもショックをうけた。

 強くて、頭がよくて、何でもそつなくこなす……。それが姉であるイリミアに抱いていたイメージだからだ。

 今の化粧っ気もなく、後ろ向きな姉をみて、ユリファも意を決したように言った。

「領地にもどりましょう!」

 領地にもどれば、姉は元通りになってくれる。そんな思いだったが、侍女のハラが首を横にふった。

「実はそのことで、問題が起きているのです。ロイド様がお亡くなりになって、カラント家を今の領地から動かそうと……」

「えッ⁉」

「まだ噂の段階です。しかし勇猛と忠誠心を謳われたロイド様がいたからこそ、首都に近いあの地をカラント家は基盤としてきた。今回の、コリダリスへの魔族の侵入をうけて、改めて首都防衛が意識され、領地の大再編が行われようとしているのです」


 そうなったら、男系がおらず、血筋もよくない今のカラント家は、間違いなく首都から遠く離れた地へと移封されるだろう。

 母は領地経営に熱心で、領民からも慕われている。損得勘定がきっちりとした商人タイプだ。自分は母親ほどドライではないが、母親の血を濃く継いでいることはみとめている。

 そんなユリファでも考えるまでもない。これで首都から離れた領地となれば、益々婿に来てくれる人はいなくなり、母はやりがいを失い、カラント家は衰退していくだろう、と……。

 そのとき、ドアをノックする音が聞こえた。

 モリナが応対にでると、しばらくして困った顔でもどってくる。

「ヴァイオラ国の魔法部隊、隊長と名乗る方が……」

 ユリファは別の意味で、その顔を憶えていた。

 ウィロウ・タリリス――。高齢であるけれど、ヴァイオラ国の魔法第一に数えられる人物であり、魔法部隊を率いて二十年近くになる。

 魔法第一と、武勇第一であるロイドと、二人は仲が悪かった。ロイドはどちらかといえば細かいことを気にしない性格だったが、繊細なウィロウが武を重んじるロイドを敵視することで、二人は相容れぬ関係となり、武闘派と魔術派の対立の象徴となっていた。

 そんなウィロウのことを、幼いながらユリファも毛嫌いしたものだ。

「魔族と戦った男がこの家に入っていった、と報告をうけたのだが……」

 ウィロウはユリファやイリミアには目もくれず、そこにいたキョウに目を留めた。

「議事塔まで来て欲しい」


 ヴァイオラ国には国王がいる。でも、それは象徴であり、政治は貴族院と国務院により選抜された、中央政府が担っている。

 その議員の要人、数名の前にキョウは立っていた。

 別に嫌がるでもなく、そう命じられてキョウはついてきたけれど、そのときユリファは「一緒に行きます!」と申しでた。侍女であるモリナは身分が低いために一緒にはいられず、イリミアたちも遠慮した。

 ユリファはキョウをこの国に連れてきた張本人であり、自分が仲介になって、この国に仕えてもらおうと考えてのことだ。

 でも、話はユリファが考えていたものとは大きくちがう方向にすすむ。

 彼らが招かれた部屋には、気づくと床一面に魔法陣が描かれていた。そこに立たされた……ということは、何かあれば魔法が発動し、彼らを殺そうとするもので、罪人の扱いだ。

「名前を述べよ」

「キョウだよ」

「ではキョウ。貴様は魔族と戦ったが、何ゆえか?」

 ユリファたちの前には、十一人の覆面をした議員がいる。この国では重要な審理を行うのは議員であり、恨みを買わぬよう覆面をするが、それが無機質で冷たい印象を与える。

「そこに魔族がいるから、だよ」

 キョウはそんな雰囲気にも臆することなく、いつも通りに飄々と応じた。

「魔族と対立するのか?」

「そんなつもりはないよ。仲良くできるのなら、魔族とも仲良くする」


 その言葉は、いたく議員たちの心証を悪くした。基本、魔族と人族とは争う立場にある。魔族とも仲良くする、なんて人物を国においておいたら、魔族を招き寄せ、国を乗っ取ることも考えられた。

 ウィロウがキョウたちの後方に控えるが、それはいざとなったときに魔法陣を起動させるため。

 魔力の高い彼が国から信頼され、重要な地位を占められるのは、その忠誠をみとめられたから。逆にいうと、強力な魔力をもつ人族は最初から警戒される。それが、魔族を倒せるほど強力な魔法をつかえるのなら、尚更だ。

 でも、それ以上の警戒を感じる。恐らくそれは、キョウの得体の知れない雰囲気も相まっているはずだ。魔族と人族は、今でも子を生すことができるほど近縁だ。つまりその違いは微々たるもの。角でさえ、魔族は隠すことができる。すなわちキョウのことを魔族、と疑っているのだ。

 だけど、そのためにユリファがついてきたのだ。彼が戦力となってくれれば、魔族の脅威にも対抗できる。

 しかしキョウはどう思っているのだろう……?

 彼からはっきりとした答えを聞いたわけではない。国に仕え、働いてくれるのだろうか……?

「彼は優秀な魔法使いです。彼を採用することはこの国にとって大いなる利益となるでしょう」

 ユリファがたまらず、意見をした。しかし、すでにこの場はキョウを危険人物とみなす空気で支配されていた。合図があれば、ウィロウが魔法を発動するだろう。魔法陣の中心にいる彼女たちは、逃げることもできない。ユリファにとって、ここは土壇場となっていた。


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