#9
彼女の実家に行ったのは、それから一週間後の日曜日だった。
白のボートネックのブラウスに、揺れるネイビーの膝丈スカートがいかにもお嬢様感を演出するが、その格好をこの上無く上品に着こなせるのはきっと彼女ぐらいだと思う。
贈答用の菓子折りが載っていた僕の車の助手席に乗り込んだ彼女は、その菓子折りを膝の上に乗せてふふふっと幸せそうに微笑むと、「ついに、だね」と囁く。
緊張のバロメーターが既に再頂点まで達している僕は捻り出した声で「そうだね」と答えるので精一杯だった。
「緊張し過ぎ」
「そりゃぁするでしょ、フツー」
お行儀良くシートベルトを締めた彼女を横目に発車しようと足に力を込めると、彼女は輝く瞳を僕に向けて「ねぇ……」と小さく声を上げる。
「何?」
ただえさえ敏感になっている聴覚に届いた彼女の声に大きく反応した僕は、少しだけ不機嫌に彼女に振り向いた。
「これ、お守り……私が二十歳になった時に両親からもらったイヤリング。誕生日石の一雫イヤリングなんだ」
左耳に付けていたイヤリングを徐に差し出した彼女は、見せびらかすように僕の目の前で色石を揺らすと、「着けて」と強引に僕の左耳を引っ張る。
「ラブラドライト、だっけ?」
お転婆で優しい彼女の気遣いに感謝しつつ、僕は為されるがままちょっとだけ擽ったい彼女の指に体を任せる。
暫くして少し耳朶に圧迫感を感じた頃、「出来た」と彼女は僕の頬に口付けを落とした。
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