中央公官

3-1


 公員が務める地方の施設は、艇護ていごと呼ばれる。船を守るための施設が発展してそう呼ばれるようになったらしい。

 艇護に報告してようやく、一つの仕事が終わる。今回は任務を全うできなかったので、報酬の減額があるかもしれない。

 テクノア隊は多くの隊員を失い、俺は怪我をしてしばらく戦えない。まったくもってよくない任務だった。

 それでも、地方開拓のためいつかはあの城を完全攻略しようとするだろう。それが誰になるのかはわからない。

「よお」

「……え? あ、こんばんは」

 突然声をかけてきたのは、トゥルボ・カック、書記係任命官である。艇護の中でもかなり偉い立場の人で、俺が飯を食うところに偶然来ているような人ではない。

「良かった、君がいて。いつもここで食べてるんだろ? ただ、時間までは確信なくてね」

 確かに昼飯を食う時間はまちまちだ。気が付いたら夕方になっていて諦めるときもある。

「仕事はしばらく無理です。頑張るタイプじゃないんで」

 言いながら俺は右肩の包帯をなでた。

「いやもちろん、そんなつもりじゃない。3か月後の予約だ」

「3か月後? 季節限定で現れる魔物でも?」

「中央公官が来る」

 なんかやばいことを言い出した。帝都に仕える公民が中央公官であり、エリート中のエリートだ。テイラも目指していると言うが、まず無理だろう、

「何しに?」

「視察だ。この地域をどうしていくか、考えるためらしい」

「はあ。それで?」

「護衛を依頼された。どこかの隊に頼む。その時の書記係の護衛を頼みたい」

「それ、俺でなくてもいいのではないですか」

「そうもいかん。まあ、俺のおせっかいなんだが、記録係はテイラに任せたいんだ」

「テイラに? まだ新人なのに」

「中央公官に顔見せしたいんだよ」

 合点がいった。トゥルボは、テイラにチャンスを与えるつもりなのだ。

 多くの者にとっては、試験に受かるだけでも大変なことだ。しかしテイラは、その上を目指している。中央公官になるには、試験以外の道もあるらしい。まあ、コネだ。昔から艇護の優秀な人材は、中央に任官されることがあったらしい。試験制度が整えられた今でも、スカウトの伝統は生きているのだ。

 とはいえ、地方の者が中央に知られるということだけでも珍しい。中央公官は誇り高く、能力のある者しか誘わないらしい。

 トゥルボは、テイラのことを紹介するに値する人物だと思っているのだろう。

「三か月で動けるようになる保証はないね。それに、護衛係は俺以外もいるでしょう」

「テイラはお前がいいらしい」

「……雛は最初に護ってもらった護衛係を信頼するってことですか」

「お前がいい仕事をしたってことだろう」

「いやあ。誰とでもいい仕事できるアピールも必要じゃないですか?」

「冷静だな」

 今俺が護衛できないように、この仕事は誰かでなければできない、という状況ではいけない。常に代わりが必要だ。そりに三か月後には、もっとおいしい別の仕事があるかもしれない。

「まあ、リストには入れておいてくれよ」

「そうします」



「いいぞ、あとは走っておけ」

「はい!」

 青年は俺の言うとおりに、駆け出した。

「おっ、ちゃんとやってるな」

「当たり前だ」

 ゆっくりと歩きながらやってきたのはテクノアだ。普段は昼寝を欠かさないらしい。

「どうだ、新人は」

「返事はいいな」

「それだけ?」

「魔物への適性など見分けは付かん」

「それは残念」

 右肩をやられた俺は、護衛係どころか普段の鍛錬すらできない。そんな俺にテクノアは、「新人の教育係」を頼んだ。テクノア討伐隊も多くの戦闘員を失い、討伐に行けなくなっていた。

「だいたい、俺は討伐のプロじゃないし」

「そうか? かつてはやっていたのかと思ったが」

「討伐隊崩れってか? よく言われるよ。それが、所属したことないんだよな、これが」

「不思議だ。俺より強いのに」

「護る方が大変だから、強くなっちまった」

「かっこいいセリフだ」

 討伐隊に参加しようと思ったことはない。まあ今だって加担しているようなものだが、俺の中では「監視」のつもりだ。あの日、誰も助けなかった討伐隊という存在が、一体何なのか。

 まあ、今は育成しちゃってるんだけど。

「護衛係って仕事できなきゃ、俺は多分放浪の何かだよ。気持ち的にね、ぎりぎり許す仕事なんだ」

「なんかこじれてるなあ」

「そういうもんだろ、こういう仕事してる奴は」

 帝国が西部に進出する中で、労働力は貴重だ。新しく支配した土地では、農民が求められる。そんな時代において魔物と戦おうという人間は、魔物と戦いたいか、農業をしたくないかだ。たぶん。

「まあ、いつでも待ってるぜ」

「わかった」

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