第2話
ミーガン―――メガネ知性体は無性だけど私に合わせるってことで女性の名をのぞみMegan(e)とした。
自分のメガネより今の方がよく見えるのはレンズのせいではなく、眼球に手を加えたから。
と言われて外すと、あーら不思議……部屋の汚れが気になった。
主になったきっかけは、ミーガンがネットで地球の情報を収集していた時、残業をさけようと昼食時も接続してチマチマと数値処理していた私に接触し、精神汚染されたというのが彼女の見解だ。
本人の弁では神の如き力を持つらしい超知性体を汚染って、どこの大魔王だっちゅうの。
ミーガンに何ができるか質問をしていく。彼女はランプの精より強力と思えるが、ここで大きな力を使用すると探知されるという。微妙に電磁波や素粒子が漏れるらしい。
大体なんでもできるけれどリスクが有るってこと?
『そうだ。例えば主の望む奨学金と教育ローン返済だが、口座の操作は容易い。ただし税務署のAIも操作する必要があり痕跡は残ってしまう。現金とか貴金属なら手元に転送しても
いやいや、どちらも犯罪でしょ。
金やダイヤモンドを作るってのは?
『容易いが、エネルギー消費を考えれば恐ろしくコスパが悪い』
E=mc^2ってやつ?
『無からう創るわけではない。しかし、そんなところだ』
予知? 予測は正確なのかしら。
『それが楽だな。週末のレースで適当に負けも入れて稼いでおこう』
ごめん、年収の四倍は残っているけど。
『一度くらいなら問題ないだろう』
ギャンブルに勝つのは確実そう。
ミーガンの自信ありげな態度で判断したのではなく、話しているうちになんとなく感じたその大きさ、今まで接続した最大のAIよりはるかに巨大で果てがない。
AIをギャンブルに使用するのは禁止されている。それは高確率で当てるからだ。
もちろん、実行は不可能だ。AIの遵法精神はSFで言うロボット三原則のようなもの由来だ。
両親も兄弟もいない私の保護者である裕福な叔母は高等教育への支援を提案してくれたが、私は複数の奨学金、そして留学のときにはローンを組んで対応した。
叔母の事業を手伝う気は(後継者という餌があっても)なかったし、バイトで時間を浪費する気もなかったから。
もちろん、医学部を志望しない私のローンの利率は本来なら高い。その抜け穴が、AI
AIの利用は初等教育から研究レベルまで、マイクロ工学から宇宙開発まで、必須となっている。ただしCAIEレベルの操作になるとその成果へのAI関与率が高いと評価されており、研究者への道は狭くなる。ただし希少なため収入は抜群だ。
高収入なのは総数が少ないため。そして狭き門なのは知能や知識よりAIとの相性(シンクロ率という怪しげな数値)が判断基準になるせいだ。
幸い私は十分なシンクロ率をたたき出し資格を得た。
ミーガンと少し打ち合わせをして、配当は少し抑えて、無難な投資をしてから返済することにした。
CAIEは税務署、公安、内閣情報調査室から監視されている。シンクロ率、歴代最高値をたたき出した
私とまどろっこしい会話(?)をしつつ、ミーガンは地球の捜査を続けていた。
これは私には通常運転である。
他のCAIEは快感らしいけれど、AIに完全に浸るのは好きじゃない。
ある程度道すじを決めたら任せてしまうのが常だ。AIは速さが売りなのに自分の思考速度でしばるのは本末転倒である。
ミーガンのお陰で金の心配はなくなりそう。仕事は控えめにしてゲームでもしようかな。
『ゲーム? こういうものか?』
なぜかミーガンが反応し、今のメジャーなゲーム画面がいくつか視界に出現した。
最新のじゃなくて、こんなタイトル。
21世紀初期のもののオマージュ的な同人ゲームだ。
『Lvとかスキルは非現実的ではないか』
まあ、そうなんだけどね。あまりリアルな世界観じゃあ、つまらない。
アバター選択である程度能力は伸ばせるが、PS《プレイヤースキル》で決まるものが多い。おそらく、それ故、PvPをさけPvEを遊ぶもののほうが主流だ。
しかしそれなら、もっと古い20世紀のアレキサンダーの野望やナポレオン立志伝の方が面白いと思う。
廃人プレイでLvが上がっていく仕様は意外に妥協できた。
『それで、面白いのか』
そう言われると困る。作業ゲーの面白さはなんだろう。レベルアップかな。
ただこれから、自由時間が増えれば飽きてしまうような気がする。
解決策はないでもない。最新AIで敵やNPCに人工人格をもたせれば変化がつく。
PCとNPCの区別がなくなれば面白いかもしれない。
まあゲームに最新AIを使うのは問題外だ。採算が合わなくなる。
『主、可能だし、十分な採算性を確保できそうだ』
たしかにミーガンが手伝ってくれるなら可能だし、十分な収入があれば苦手なAIとの接触を大幅に減らせそうだ。
週末は新ゲームの話し合いを続けた。
メガネのセイ 二ケ @miike
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