第10章 運び屋ロブと銅級冒険者

──教会から女神像が公開された翌々日。


連日の配送から体調が戻ってきたところで、その公開された影響について聞くため、子爵との面会をリナ経由で依頼した。


しかし、子爵は既に王都へと旅立ってしまった後で不在だった。


子爵は以前に相談したソロ冒険者や女性冒険者への対策は急ぐべきと見て、年末年始の社交界行きを前倒ししてヨンキーファを発っていたようだ。


王都に着き次第で、伝手のある貴族家へ根回しして早急に議会に持ち込む目論見とのこと。


その代わりに、不在の子爵の代理として取り仕切っているリナの兄であるワルターと面会できるとのことで、話を伺うこととなった。


──ワルターと会って現在の更新アプデ関連の状況を確認すると、ヨンキーファ周辺の教会には領兵の配備が完了しており、今のところ問題の報告は入ってきていないとのこと。


なお、領兵の更新アプデについては約半数が終えたところだそうな。


ワルター自身は終えているのかを確認したところ、更新アプデはまだ済ませていないとの返事だったので、人払いを済ませた後で女神像を取り出し、この場で済ませてはどうかと提案した。


ワルター氏は申し出に感謝して、さっそく更新アプデを開始する。


更新アプデのために女神像を出した際、実はロブ自身も通信が発生したようで、神託メールの通知があった。考えてみれば、女神像の納品から確認していなかった。


同席していたリナも、スケさんが肉体を取り戻した同じ日に女神像に触れて以来になっており、更新アプデがあったようなのでワルターに並んで女神像へと触れた。


その間に神託メールを確認すると、女神像納品の依頼達成報酬が届いていた。


報酬は【成長ポイント:50】で、ポイントの用途は2つあるようだ。


1つは、任意の成長スキルに使いレベルを上げること。なお、上限まで成長させた後、本来のレベル上昇で付与され余ってしまうポイントは、【成長ポイント】に還元される。


もう1つは、基礎スキルや条件を満たしたスキルをポイントで入手すること。武術系や魔術系の基礎スキルの他、前に報酬候補となった【確率操作】や【加工】、それから【空間収納】の関連として【空間魔法】や【結界魔法】といったものが挙げられていた。


取得方法次第では、どんな方向にでも伸ばせそうなだけに期待を膨らませつつ、一旦ここは受け取りだけを済ませることにした。


そんなスキルビルドをどうするか想像してニヤついていたところを、リナに見られてしまっていた。


どうやら2回目の更新アプデでは普通に動けるらしく、意識喪失も無かったらしい。


──しばらく経って、ワルターの更新アプデが完了して意識を取り戻したので、ステータス画面の説明を行った。


ワルターからは、世話になってばかりで何か返せるものがあれば、との話が出たので、学園の卒業生でもある彼に『閉架書庫』と『成績優秀者』のことについて訊いてみることにした。


『閉架書庫』への入室は、知っていた通りに『成績優秀者』が1つの条件になっていたが、その他にも『生徒会』の関係者か『教員』であれば入れるらしい。


続いて『成績優秀者』の条件について訊ねてみたところ、成績上位20人とのことで、その評価は年4回の試験と、学園敷地内にあるダンジョンを使った探索実習、その他行事や論文といった辺りで決まるとのこと。


試験で上位となるのがどの程度難しいかを訊いてみると、やはり王立研究所志望で事前に家庭教師を呼んで学んでいた生徒もいるそうなので、それなりに難しいらしい。


ただし、そういった研究職志望者は探索実習の成績が伸びないため、総合順位ではそこまで占有するわけではないようだ。


──その後、ワルターの使っていた教科書とノートの写しを貰えることになった。業者に頼み、1週間ぐらいで拠点まで届けてくれるそうだ。


面会を終えて応接間から退出後、リナと今後の予定について軽く相談したところ、どうやら年末に行う予定だった『侯爵家令息との面会』に伴う王都行きが、子爵が前倒しした王都出発により延期となったため、しばらくは空いているらしい。


それならばと、学園に入学する前に済ませたい案件の1つ『ブロンズCランクへの道』として、フィファウデダンジョンへの遠征を提案したところ、了承を得ることができた。


リナからクララに連絡をしてもらったところ、彼女も問題ないとのことなので、ついでにフィファウデに行く途中にあるワムワサフロス聖白銀教会総本山での面会も盛り込みつつ、パーティでは初の遠征を行うことになった。


──拠点に戻り、スケさんとラビット氏にフィファウデ遠征について話をしたところ、スケさんは了承してくれたものの、ラビット氏は辞退するとの返事だった。


ラビット氏は元ゴールドAランクであり、現在はシルバーBランクとして復帰している。


そんなラビット氏がパーティに加わると、到達階層がシルバーBランクでの評価となってしまい、アイアンDランクが到達した評価と比べると下がってしまうらしい。


ブロンズCランクへの昇格審査はシビアなため、評価を下げるのは勿体無いとのことで、ラビット氏は留守番していてくれることになった。


ヴァル氏も、以前に見つけた『魔法を阻害する手錠』をヒントに思いついたものがあるとのことで、現在は研究所に篭っており不参加とのことをレーヴァンから聞いた。


結果、今回のフィファウデへの遠征はスケさん、リナ、クララ、そしてロブの4人で行くこととなった。


日程としては、ダンジョンを2週間かけて探索して30層まで進む予定で、30層からの帰還とヨンキーファへの往復を含めて3週間を予定している。


その期間はダンジョン内に泊まり込みとなるが、それらの準備は既に済んでいた。


以前にアジトダンジョンで、今後転移部屋ショートカットが無いダンジョンに行く時を想定して泊まったことがあり、その際に必要となったテントや敷物などの用意はそのまま【空間収納】に入っていたためだ。


食事も大量に入っているし、服や汗の汚れは【清潔クリーン】で解消できるので、替えの服も不要だ。


そんな身軽なパーティゆえに、早速明日にはヨンキーファを発って、初めてのフィファウデダンジョンでの探索へと向かうこととなった。


なお、聖白銀教会総本山への立ち寄りは、まだ更新アプデで忙しいだろうということで、フィファウデからの帰りに寄る話になった。


──翌日の早朝、ヨンキーファを出る前に冒険者ギルドへと立ち寄ると、前日にベルトたちへ送っておいた遠征の伝言に、返信が来ていた。


曰く、準備のために1日はまだ街にいる予定なので、間に合うようであれば宿まで来てほしいとのこと。


夕方までにフィファウデへと到着したところで、リナが予約していてくれた第3層にある宿で手続きを済ませてから、ベルトたちのいるという第2層の宿へと向かう。


宿の窓口でベルトたちの在室を訊ねようとしていたが、ちょうど併設の食堂にいて出迎えられることになった。


早速ダンジョン探索の話となり、ベルトたちとは20層辺りまで一緒に潜りつつ、色々と教えてもらうことになった。


こちらがパーティでの到達階層更新が目的であることを伝えると、ベルトから一般的な冒険者との認識のズレを指摘された。


どうやら、『オークを倒せたらアイアンDランクとして1人前』とされていて、ゴブリンやオークの上位種が出現する20層に到達できる時点で、戦力としては既にブロンズCランク相当らしい。


そのため、まだ領兵が調査で封鎖している20層に早めに到達してしまうと、アイアンDランクは追い返されてしまう可能性があるという。


到達階層の証明は、フィファウデであれば該当階層の魔物が落とす魔石の提出が基本となる。もし疑わしい場合は、同時期に該当階層を探索していた冒険者への聞き込みを行うこともあるそうな。


もっとも、目立つリナやお面のスケさんがいるパーティは目立つので、目撃証言には困らなそうだ。


そしてもう1つ、認識のズレとして『荷物が少なすぎる』ことを指摘された。武器などを魔法袋に入れているにしても、あまりに少なすぎて、高価な魔法袋を持っているとして狙われかねないという。


ラビット氏から、昔使っていたという巨大なリュックを譲ってもらっていたが、その用途をようやく理解できた。


今回の探索においては、大荷物を背負った本来の運び屋ポーターを演じて、大人しくしていた方がよさそうだ。


──翌朝、宿から出してもらった馬車でダンジョンの入口である冒険者ギルドに向かうが、ベルトたちより先に着いてしまったようだった。


隅にある席で彼らを待つ間、【地図】を眺めていることにした。スキルを得てからずっと地上で使用していたため、階層がある場所での表示がどうなるか気になったためだ。


どうやら【地図】には現在いる階層のみが表示され、地上や別の階層は出ない仕様のようだ。


1つ気になったのは、安全地帯セーフエリアでもあるこの冒険者ギルドの【地図】上の表示と、実際の形状が異なっていることだ。


現実世界の東側は、石のような素材で埋め立てられていて、上の階にある酒場の座席用の土地として使われているようだった。


【地図】上では、その埋め立てられた辺りには通路があったようで、ダンジョンへの入口である西とは反対となる位置に道が伸びていた。


そしてもう1つ気になった点が、【地図】上ではその埋め立てられている壁際から接続するように、小部屋が描かれていることだった。


入口の安全地帯セーフエリアにある小部屋……と聞いて、思い当たるものがあった。転移部屋ショートカットだ。


嫌な予感がする発見をした辺りで、ベルトたちが到着したので、一旦小部屋に格納門を置くだけ置いて出発することにした。


そして、ダンジョンの中の人目がつかない場所へと向かった後、その小部屋へと格納門をつないで、実際の中身確認することになった。


すると予想通り、部屋の中央には水晶が置かれていて、問題なく稼働するようだった。


フィファウデには転移部屋ショートカットが無いものとされてきたが、今まで見つかっていなかった、ということになる。


その背景には、どうやら大穴が出来た暴走スタンピードが関係しているようだ。


暴走スタンピードの崩落によって出来た大穴の東側──すなわち、転移部屋ショートカットがある辺りは、長らく大量の瓦礫が積まれていたらしい。


その後、ダンジョンが人気になって上の階にある酒場も繁盛してきたので、座席を増やすために【土魔法】により瓦礫ごと埋め立てられたんだとか。


小部屋にある台座に手を置いて出口を開くと、瓦礫の壁が出てきたので、【空間切削】で少し掘り進めてみる。


外側にも扉を開く台座を発見できたが、細かい砂利に埋もれていて見つけにくくなっていた。


ひとまず両側から問題なく扉が開閉できることを確認したところで、この小部屋の挙動については確認を終える。


あとは、他の転移部屋ショートカットを探して開通させて、帰り際にでもギルドに報告しよう、ということになった。


一般に、ダンジョンの転移部屋ショートカットは5層か10層単位で作られる傾向にあるとのことで、まずは5層へと向かう。


──5層に着いて、安全地帯セーフエリアを回って探してはみたものの、転移部屋ショートカットは見つからなかった。


となると、このダンジョンは10層ごとではないかということで、次は10層を目指すことにする。


ただ10層については、ベルトたちが既に目星をつけている場所があるらしい。


10層から次の階層へ向かうためには2つの経路がある。片方は遠回りながらザコしかいない安全な道で、もう1つがボス部屋を通る危険な道だ。


そのうちボス部屋がある方の経路にある安全地帯セーフエリアに、転移部屋ショートカットがあるのではないかとのこと。


ただ、そのボス部屋は難易度としてはさほどでもないものの、かなり不人気とのことで、普通の冒険者であればもう1つの遠回りになる経路の方に向かうのだという。


──不人気の理由は、ボス部屋に着いてすぐに判明した。ゾンビだ。


室内に充満した強烈な腐敗臭が襲いかかる。この元となるボスの体液が飛び散って装備に付着した日には、とてもではないが探索を続ける気にはならないだろう。


そういえばフィファウデでは他の階層でもアンデットが出現するんだったか、と頭に過ったことで、パーティ結成当初はクララが【聖属性】というアンデット特効で『成長レベリング』しようとしていたことを思い出す。


えずきながらもクララにそのことを伝えると、すぐにクロスボウを構えて【聖属性付与】したボルトをゾンビに向けて射出した。


その効果はまさに絶大で、散弾銃かのようにゾンビの腰から上が消失した。


戦闘終了を確認したところで、室内に向けてMP全力で【清潔クリーン】を発動させると、かなりのMPは食われてしまったものの一気に腐敗臭は解消された。


ボスを倒した位置には宝箱が出現していた。基本的に、ボス部屋では宝箱が戦利品として得られるらしい。


今回の宝箱から出てきたのは、なんと『蘇生薬』だった。ベルトによると、本来であれば30層以降に出現するはずのものだという。


スケさんが昔聞いたという話によると、ボス部屋が長らく放置されていると、報酬が良くなることがあるらしい。


一般に、ボス部屋は半日程度で復活するとのことで、扉が閉まるのを合図に再挑戦が可能だそうな。


【聖属性付与】による攻略や【清潔クリーン】による臭いの緩和、そしてこの先の安全地帯セーフエリアに置かれた転移部屋ショートカットが併せられることにより、今後は10層を狙う冒険者も増えるかもしれない。


──安全地帯セーフエリアに入り、予想した通りに転移部屋ショートカットを発見したので、水晶が稼働するかを確認する。


稼働に問題がないことについては確認できたが、何故これが今まで発見されてこなかったか、という謎が残った。


転移部屋ショートカットの前にある台座は結構目立つので、触れるぐらいのことは誰かしらがやっていてもおかしくはない。触れても開かない、ということはあるのだろうか。


そこで思い出したのが、ベルトたちが初めてアジトダンジョンに潜った時のことだ。


彼らが転移部屋ショートカットの扉を開こうとして台座に触れても、反応せず扉が開かない現象があったのだ。


仮に、入口の転移部屋ショートカットを開通させていることを条件に、台座が反応するようになるのだとしたら、発見されてこなかったことにも説明がつく。


20層にも同様のボス部屋はあり、そちらは認知度が高いそうなので、それでも発見されてこなかった理由としては『反応しなかった』説は信憑性がありそうだ。


その日はそのまま安全地帯セーフエリアで一泊し、翌日に20層のボス部屋を狙うことになった。


──翌日、20層へと問題なく到達したが、残念ながらボス部屋の扉は既に開かれており、誰かしらが討伐済みであることを示唆していた。


10層と同じ形状で安全地帯セーフエリア転移部屋ショートカットがあることを確認して、ボス部屋の先にある通路へ向かうと、安全地帯セーフエリアの前にキファイブン領兵が立っていることに気がつく。


ちょうどボス部屋の通路の先は21層につながる階段部屋であり、どうやら休憩場所として都合いい場所にある安全地帯セーフエリアとしてつかっているらしい。


転移部屋ショートカットへと入るところを見られてしまうと騒がれそうなため、何かしらで退去させる方法も考えた。


しかし、ロブ自身が必要としない以上は公開する方が有用である以上、結局は報告すれば知られることになるため、このまま身バレ上等で進むことにする。


ベルトが先行して領兵に確認し、中へと入ろうとしたところで、明らかにアイアンDランクと思しき年少者がいることを見咎めた。


20層に来るにしてはランクに不相応であるため、シルバーBランクが連れてきたというギルド評価の不正・・を疑われているようだ。


しかし、もめているところを見かけた領兵団長が話に入ってきて、ウェスヘイム子爵令嬢であるリナがいることに気が付き、勇者・・との噂もある彼女の実力が相応であることを認めて、部下が騒がせたことを謝罪した。


リナはただの冒険者であるということで、その場を収めたが、何か要望があればと訊かれたので、転移部屋ショートカット前を空けてもらいたいと伝える。


本日が封鎖解除の予定日であり、現在走らせているギルドへの伝令が戻り次第で撤退予定だったため、既に荷物をまとめているとこらだったようで、安全地帯セーフエリアの入口近くに荷物と待機していた領兵を移動してくれた。


領兵団長へ依頼し、また『この後のことは静観してほしい』と伝えたのがリナだったことから、客観的にはその動きが勇者様・・・主導・・と見られそうではあったが、当人は特に気にする様子もないので、そのまま先頭で台座へと触れてもらって転移部屋ショートカットへと皆で移動した。


入口側へと移動して、瓦礫と【土魔法】埋め立てられていた壁を外、の接続一歩手前まで【空間切削】で掘り進めた後、冒険者たちがギルドの管理外のまま転移部屋ショートカットを使わせないよう、扉を一度封鎖する。


そして、転移部屋ショートカットへ侵入方法の現実的なアリバイ作りのため、酒場の先につながるという坑道跡に向けて掘った形跡を作り、転移部屋ショートカット発見に関する言い訳・・・の準備を完了させた。


作業終わりに、ベルトから到達階層の申請に必要だという『パーティ名』は準備してあるのか訊かれた。


完全に頭から抜けていて、候補を考えている間に、クロエが言った勇者様へーデン御一行パーティという冗談と思われた名称が、冗談だと思っている間に採用となってしまう。


まさかの採用に唖然としているうち、ベルトが残されていた板1枚ほどの壁を【ヘヴィスラッシュ】で切り刻んで通路を解放させると共に、ウォルウォレンと勇者様へーデン御一行パーティの名乗りで、冒険者ギルドへと転移部屋ショートカットの発見を大音声で宣言した。


静まり返ったギルド内が次第にざわつきはじめる中、ベルトと顔見知りであるゴールドAランクの冒険者アルミンが転移部屋ショートカットの発見が事実かを訊ねてきたので、発見した方法自体は更新アプデと絡めてミスリードさせたまま、本当だと答える。


転移部屋ショートカットの確認に高ランク冒険者として同行してくれる旨の了承を取ったところで、フィファウデのギルドマスターであるマチルダが到着した。


ギルドの代表としてマチルダと、冒険者代表としてアルミン伴って転移部屋ショートカットへ入り、転移水晶と実際に動作しているところを確認してもらう。


マチルダギルマスから改めて要望があり再度転移部屋ショートカットの入口を塞いだ後、ギルド窓口の上にある会議室へと移動して経緯の詳しい話をすることになった。


──転移部屋ショートカットの発見から調査状況、挙動、探索開始から20層に至るまでの行動を伝えた。


入口の転移部屋ショートカットの発見自体は、突然ベルトたちが見つけたというのも無理があるため、流石にロブが行ったことにしてあったので、マチルダギルマスから何故発見できたのかを訊かれた。


以前からダンジョンに興味があったため、40層以上あるフィファウデに転移部屋ショートカットが無いことが不思議だったと答えておく。


実際、一般的に20層を超えるダンジョンでは発見されているため、疑問に思っていたことは事実だ。


続いて入室した手段についてマチルダギルマスから問われそうになったが、スキルの詮索は冒険者ギルドのルールに反するとベルトが言って躱してくれた。


直近に話題となった更新アプデに絡めて煙に巻いたところで、話は転移部屋ショートカットの運用方法へと移っていった。


現状、冒険者ギルドの西にある本来の入口と東の転移部屋ショートカットとで、2箇所に入口が分散してしまうことになり、水晶での入退場管理を考えると非常に都合が悪い状況下となっている。


そこで思いついたのが、入口を現在の冒険者ギルドがある穴の底から酒場のある上の層へと移設して、酒場を改装して窓口と入口を作る案だった。


これなら、階段上に入口を作ることで入口が分散する問題は解消できて、設備としてもあまり日を置かずに再開することができそうだ。


酒場については、穴の底にある窓口をカウンターとして使えば、こちらも低コストで再開できるだろう。座席は待合所の広場を使えばよい。


ダンジョンの規約上、店員がアイアンDランク以上である必要性はあるが、その辺りは雇用で調整するか入退場の資格についてルールを検討してもらえば解決するだろう。


そんな思いつきをまとめるべく【地図表示】を開いて地図を模写していたら、ベルトに見つかって何をしてるのか問われてしまったので、改装案を説明する。


予想以上にマチルダギルマスの食いつきがよく、アルミンたち高ランク冒険者からの突き上げが予測されることに頭を悩ませていた彼女は案の採用を即決する。その興奮状況は、ロブの両肩をつかんでギルド員へと勧誘しようとしてきたほどだった。


酒場へ入口を引越しする案の検討に移って、ギルド機能を一時的に停止させる都合で、入退一度冒険者をダンジョンから出す必要があると、マチルダギルマスから話が出た。


ちょうどダンジョンの調査のため20層で封鎖していたので、領兵団に戻る道すがらで主な安全地帯セーフエリアに寄って退出を促してもらうのはどうかと提案した。


つい先ほど伝令に返事をして、20層へと戻っていった……とのことだが、こちらには転移部屋ショートカットがあるので、先回りすることは容易にできる。


問題は、領兵団への依頼となるので領主であるキファイブン伯爵に話を通す必要がある点だったが、実はマチルダギルマスはその伯爵の妻だとのことで、領主代理として指揮権があるらしい。


その場でロブたちに指名依頼を行うことが決まり、ギルマスことマチルダ伯爵夫人は会議室を出ていった。


途端、リナやベルトが深い溜息をつき、次々にロブが軽はずみにギルドの改修案を出したことを糾弾し始めた。目立ちたくないだとか、一体どの口が言ったのか、と。


その話の中で、リナがロブに対抗・・するつもりだ、という話が出てきたが、彼女からは気にするなと流されてしまった。


対抗も何も勝ち目が無い現状に、むしろ【成長ポイント】でも使って剣術でも育てようか、なんて考えている間にマチルダギルマスが戻ってきたので、早速20層にいる領兵団の団長へと手紙を届けに向かうことになった。


ベルトたちは転移部屋ショートカットの通路で見張りを行い、その間にロブたちが届けに行くという分担だ。


──無事に手紙を届けた後、マチルダギルマスからブロンズCランクへの内定を貰うこととなった。


推薦という制度があるそうで、今回のような影響の大きい発見に対して評価を行う仕組みらしい。余程のことが無ければ、審査が落とされることはないとのこと。


出発前は3週間の計画だったが、わずかに4日ばかりでフィファウデへと遠征した目的である『ブロンズCランクへの道』は達成されてしまった。


なお、ダンジョンは手紙を届けた際に封鎖されて、新規入場不可となった。


翌日から酒場の改装と冒険者ギルドの引っ越し準備が始まり、転移部屋ショートカットもその次の日から解放される予定だそうだ。


一方その頃ロブたちは、時間が空いたのでクララの用事である総本山ワムワサフロスへの訪問を済ませるべく、フィファウデを発っていた。


総本山ワムワサフロスも整理券での運用が始まって順調な運用となり、前日に連絡したところ問題ないと返事をもらっている。


これでフィファウデへの遠征目的は達成となるので、残りの案件から大きめの『クロエからの依頼』であるルーデミリュ王都への同行へ向けて、準備を進めることにした。


ベルトたちはダンジョンが再開し次第で30層を目指し、ボス部屋の先に転移部屋ショートカットがあることを確認する予定とのことで、達成すればゴールドAランクが見えてくるとのこと。


予定では1週間ほどで戻るそうなので、その間に【地図】ですぐに移動できるように地図埋めしておこうと考えている。


一方、パーティとしては総本山ワムワサフロスの用事を済ませた後はフィファウデに戻らず、ヨンキーファに帰る予定だ。


というのも、アジトダンジョンに比べて見かける魔物が少なく、しかも他の冒険者もいるために取り合いになるため、エンカウント率が低く非常に物足りなかったのだ。


ヨンキーファに戻り次第でアジトダンジョンへの探索を再開し、30層を目指す計画でいる。


一方、ルーデミリュへの訪問に向けた準備も進める予定で、やはりクロエの家族へ面会する可能性が高いため、身バレ防止のためスケさんの般若面のように狐面でも作っておこうと計画する。


あとは、報酬として丁度いい落とし所を考えておきたい。爵位や土地などは色々と縛られそうで当然避けたいので、ダンジョンへの探索許可辺りが一番嬉しいだろうか。


クロエとの婚約という案も、正直なところ心惹かれる……などと妄想していたところ、総本山ワムワサフロスへの分岐点へと差し掛かっていて、気を抜いて道を間違えないようにと、リナに注意される。


この後は総本山ワムワサフロスに到着したところでクララと別れて、クララはそのまま面会に向かうことになる。


クララを待つ間は街を散策する予定で、面会を終えた頃には夕方となるためそのまま街で一泊、翌日にヨンキーファへと帰着する予定だ。

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