赤羽椿の場合ー走るは遅いが歩くは速いー終


『今日の昼休み、グダラン部に集合な!』

椿からの唐突なメッセージに、三人はお昼ごはんも途中で切り上げ、歴史資料室――通称グダラン部室へダッシュしていた。


そこに、焼きそばパンを両手に抱えて椿が飛び込んでくる。やたらと神妙な顔をしているのが気になる。


「え、なに!? どうしたの、こんなにいっぱい……!」

菘が思わず目を輝かせる。どうやら、以前からこっそり狙っていたらしい。


「へぇ、やるじゃん。私たちの分まで買ってくるなんて、イケメンかよ」

薊はメガネをくいっと持ち上げながら、まんざらでもなさそうに笑った。


「うーん、私は……クリームパンの方が好きなんですけど」

桜のマイペース発言に、全員がそろって「そこかい!」とツッコミを入れたくなったのは言うまでもない。


「昨日のお礼だよ。……なんか、いろいろありがとな」

椿は少し照れくさそうに頭を下げた。

顔を上げると、すでに三人はパンを物色中だった。


「わたし焼きそばパンがいい!」

「お、カレーパンもあるぞ~!」

「ねぇ、これチョココロネと交換してくれない?」


これが、グダグダしてて、どこか抜けてて、でもちゃんとまっすぐな「グダラン部」の日常。


「待て待て! カレーパンは私のだって! てかクリームパンなんて最初から入ってないからな! 焼きそば食えー!」

「でもさ、炭水化物と炭水化物って……」

「うるせぇ!文句は胃袋で言え!」


ガヤガヤと、どうでもいいようなことで盛り上がるこの時間が、たまらなく愛おしい。


たぶん、赤羽椿はちょっとだけ、前より自分のことを好きになれたんだと思う。


悩みって、ひとりで抱えてるうちは、どんどん重くなってく。

でも、誰かにちょっと話すだけで、不思議と軽くなることもある。

弱みを見せられる友達がいるって、実は人生における最高のアドバンテージなのかもしれない。


そうそう。人生って、がむしゃらに走ってると、けっこう大事なものを踏んづけてたりするんだよね。

だから、ときにはカメみたいにノロノロ歩いて、景色でも見ながら進むのも悪くない。

……まぁ、たまにカメのふりして寝てるだけのやつもいるけどさ。


あ、そうそう。

「パシリ男子」がその後どうなったかって?

……それは、また別のお話で。


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あぁ、グダランティーヌ姫! 五色やす菜 @you1160

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