次なる旅路へ

◆◇◆◇◆◇◆◇


「たっだいま〜っ!」


「……おお、おかえり」


 先程のアルの外出から、はや1時間後。

 うまく腹ごしらえを終えてきたアルは、どこか上機嫌で家に入ってきた。


「で、依頼は受けてきたんだろうな?」


「もちろん! 見てほしいね、なんと今度はキミに対する直々の依頼も出てて———」


「……何だと?」


 それを聞いた瞬間、ルプスの目の色が変わった。

 それもそのはずだ。まだ活動を始めたばかり、ロクな戦績を残してもいないような傭兵に対する直々の、名指しの依頼。


 ———とあらば、やはりその依頼主は、ルプスや魔女、そしてアイドレなどについて、知っている人物や団体……の可能性が高いのだ。


「おい魔女」

「アル、って呼んでよ」


「うるさい、魔女。

 ……お前、これがどれだけ重大なことか分かってるのか?」


 ……が、アイドレから見下ろしたその顔は困惑に満ちていた。

 一丁前に首をかしげている。やはりアルにとっては、何なのか分かっていないようであった。


「一言で言うぞ。……俺たち、目を付けられたかもしれない」


「……はぁ」


「帰っている時に違和感はなかったか? どこかつけられているような気配は?」


「なかったよ?」


「本当か?」

「ホントだよ」


 ———ルプスにとっては信用ならなかった。

 いや、いつもの不信振りと言うわけではない。単純に、アルがポンコツだと言う事実を鑑みての不信だった。


 まあ、ポンコツ度で言うならば、ルプスも大概ではあるのだが。


「とりあえず、見せてみろ、その依頼。

 依頼主が誰かも含めて———」



「依頼主は———。ディーサイド隊?……の、レーヴァテインから。



 内容はこう。

『魔術世界の基地にいる刺客を、殺せ』と」


「はぁ」


 ……『誰かを殺せ』。こんな依頼は、ルプスにとっては何度も何度も受けてきたものだった。


 ルプスの対人戦の上手さはやはり、その受けてきた対人依頼の多さに起因しているのだ。



 が、しかし。


「やめておく」

「なんでぇ?! もう受注しちゃったよ! 行かないと多分ペナルティとか降りちゃうよ?!」


「……信用ならない。

 俺たちを名指しだと? そんなふざけた———」


 ルプスがその言葉を発している途中、アルの持っていた依頼の紙より、何か小さな手紙のようなものが抜け落ちた。


「それは———」

「ああ、これね…………これ……あの、レーヴァテイン……さん? の……『予言』とか言う胡散臭い……」


 ———だがしかし、この事実がルプスを変えた。

 その『予言』が、ディーサイドの一隊長すら動かす、と言う事実を、ルプスは既に思い知っていたからであった。


 そう、言うまでもなく、彼の中にはディーサイド隊長の『ハレルヤ・ソラン』に関することが、違和感として残り続けていたのだ。


 だがしかし、その違和感だけでも———彼がその『予言』と『依頼』を信じるに足る理由ではあった。



「……内容は?」

「『その刺客を殺さねば、詰む』。って」


「……なら行くぞ、魔女」

「え?」



「行くさ。次の依頼は———次の狙いは、ソイツだ。



 信じてみる気になったのさ、それだけだ。

 ……さ、イド! アイドレを起こしてくれ!」


『起きています。いつでも、アイドレは発進できる状態です』


「よし、行くぞ……っ、



 スタートアップ、アイドレッ!」






 そう、まだこれはただの始まりにしか過ぎない。


 過去の因縁も、かつての友人も、そして新たな出会いも。その全てが、まだ始まったばかりに過ぎない。


 そう、彼らの———機巧傭兵と魔女の旅だって、まだまだ始まったばかりに過ぎないのだ。




 それでも。

 彼らはこれからも、共にある———。

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機巧傭兵は魔女と共に 月影 弧夜見 @bananasm3444

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