飛翔せし! フテラ・アイドレ!
薄い雲を突き抜け、空中にてアイドレは静止する。
上半身はアイドレの、下半身はラヴエルのもの、そして背面部にはフテラモジュールと、何かとチグハグなその姿からは、魔力が青い蒸気の形を取って噴出している。
「……ったく、そんなに俺に会いたかったのか、お前は」
「はっ……っはぁ?!……そっ、そんなわけないじゃないか! ただそうさ、これが一番安全な方法だったわけであって〜」
「……そうか。……まあ、それはどうでもいい。
火器管制、お前に任せるぞ、魔女」
「え?」
ユニットコンテナに響くは、魔女の間抜けな声であった。
「だから、任せると言ったんだ。
———お前を、信頼する。……そう、言ったんだ。
……任せたぞ。お前に、頼らせてもらう」
「はぁ……!!」
———あそこまで、信頼はしないとまで、言い切ったはずなのに。
なのにそのルプスは今、全てを任せることを……決めていたのだ。
「ま、まぁ? この僕の手にかかれば、あんなヤツなんてちょちょいのちょいさ!」
「そうか?……なら見せてもらおうか、お前の腕」
「…………っ、もちろん!
見てろよ、僕が魔法だけじゃないって、あのおたんこなすとキミに思い知らせてやるんだからな!」
「ああ、そうすればいいさ。……お前を信じてるからな、まじ———」
ルプスがそう言おうとした時、魔女は既にルプスの正面にまで飛び移っていた。
そして、人差し指でルプスの唇にそっと触れて。
「もう、魔女じゃなくたっていい。
アル。……アル・レイアース。僕の名前だよ、ルプス」
「……アル。……アル、アルだな。……そら、覚えたぞ、さっさと後ろに移れ。……ヤツが来るからな」
「ああ!……僕の……晴れ舞台ってわけだ!」
ハレルヤの駆るサイドツーは、既にヴェリタスからは離れ、スルーズの部隊の相手をしている。
そんな中、やはりヴェリタスは野放し。……とあれば、どう足掻いてもアイドレとは対決する宿命なのだ。
『随分とまあ、豪華な装備を身に付けてきたじゃないか。……楽しいかい? 盗んだもので戦うのは』
「盗んだもの、か……
そうだったな、お前は盗んだまま———そのまま、終わらせたもんな」
『何の話だい? 僕が君から何を盗んだと?』
ヴェリタスのパイロットと、ルプスの問答が続く。
が、ルプスはどうもやはり、何かを隠しているようで———、
「覚えていない、とは言わせないぞ。
あの日。俺たちが、工場の襲撃依頼を受けた日。
———お前は、その場で俺を裏切った。……そうだろう、レオンッ!」
「えぇ、ルプスってまさかこの人に裏切られたわけぇ?!
……ああ、だから……
そうか、だからキミは……誰も信用できなくって……」
———アルの言う通り、だった。
ルプスの問題の原因、根幹はここにあった。
だからこそルプスにとっては、レオンは宿敵であり、また問題の対象でもあった。
『さあ? 何の話だい? 僕には分からない』
「とぼけてんじゃねえぞ、テメェッ!……死にかけたんだよ、こっちは!」
『そうかい…………ま、今はそんな話はどうでもいい。
———改めて、姫君とその機体を……譲り受けさせてもらうよ』
「死んでもっ、「イヤだねぇっ!」」
ルプスとアル。
もはやその言葉が被るほどに息があった2人は、その2人だからしかできない戦い方にて戦闘に移る。
「アルッ! 有効打を与えられるのは、フテラのレールガンのみだ! だからこそ、お前に任せるぞ!
露払いはこっちでやる! 決めてやれ、アル!」
「ああもちろん! 言われなくとも承知済みだよ、ルプス!」
ヴェリタスより一瞬にて分離したプレート。
それらの複雑な軌道を、ルプスはイドと共に見分ける。
「イド、ヤツの魔力砲台を防げればそれでいい。
お前にも……っ、お前には、ヤツのプレートの位置計算、そして魔力砲の射角計算を頼みたい」
『了解。魔力砲の射程範囲に当機が位置しているなら、即座に警報を鳴らします。
———3基、来ますっ!』
アイドレに向いていたプレートは3枚。
それらから偏差的に魔力砲が放たれるが、
「やってやらぁっ! 目ぇ回すなよ、アルッ!」
だが、フテラの機動力は段違いだった。
いくらフテラ自体が2丁のレールガンを懸架したものとはいえど、しかしそれでも、もはやルプスは今までに操作した事がないスピードで、アイドレが移動していることに気付いていた。
「何だよコイツはぁ……凄まじいじゃねえかっ!」
「ルプス、すごいよコレっ!
こんな……っ、こんな自由に、軽快に、空が飛べるなんて!」
照準合わせを続けながらも、流れゆく伸びた雲と、その隙間から現る青空に、アルはただ目を輝かせているばかりだった。
『これも避ける、あれも避ける……すごいねえ、そのついてきたオマケのユニットは。
———だが、僕は敗れない。なぜなら、』
瞬間、アイドレの周囲を、例のプレートが完全に包囲した。……四方を塞がれたのだ。
『なぜなら君は、ソレに相応しくないからだよ』
「っ……! アル! 魔法を———っあああああああああああああっ!!!!」
「ルプスッ!」
『マジニックジェネレーター、停止しました』
プレートから発せられた新たな魔力領域。それらがアイドレを包み込んだ瞬間、アイドレの魔力の流れは完全に停止してしまった。
「っ、ならば僕のレールガンでっ———」
『ここまで至近距離だと、当たっちゃうよねえ?
それもきっと、衝撃波が自機にさあ! アハハハハハハハハ!!』
「…………っっ……!」
高らかに響く、ヴェリタスのパイロットの笑い声。
苦痛に悶えながらも、それをただ聞き続けたルプスは、
「いいや」
『えぇ?』
「お前の、負けだ」
汗だくになりつつも、ルプスがその手を前に下ろした瞬間———アイドレのユニットコンテナは、たった一瞬にて解放される。
「———跳べっ、アル!」
「やることは……分かってるさぁ!」
そのユニットコンテナより飛び降りたのは……アルだった。
「ひょおおおおっ!! 怖いなぁ、やっぱり!!」
強風に揺られ続ける彼女の体。しかしルプスはこの時、勝利を確信していた。
「お前の負けだ、レオン。
何で、お前が負けたか———それはな、」
『何?
……まさか、まさかぁっ!』
「……にっ」
魔女の自信に満ちた笑みが見えたのち———辺りは、ただの白に包まれた。
「それはな、この俺がたった一人だと———、侮ったことだよっ!!!!」
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