魔女


『……どうして、魔女様を連れて来られなかったのですか』



 ヴェリタス、アイドレ、共に動きは無くなり。

 戦場に似つかわしくない静かさが流れた後の、イドの質問だった。



「アイツに頼らなくったって、俺は……ヤツに勝つ……っ!」



『いいえ。このままでは、ほぼ確実に敗北します。

 どう計算しようと、強化された敵機の魔力波状攻撃を破ることはできません。



 ほぼ、確実に、です』



「嘘はいい」



『当機は、嘘を付けません。そのような命令でも———』



「嘘はいいつってるだろ、イド」


『確実に、です。

 あなたは、負けます』




「嘘は———っ、あああああああっ!!!!」




 ———ヴェリタスの攻撃が命中したわけじゃない。



 単にそう、が来た、それだけなのだ。




「あっ! ああっ!! ぁぁいあぁああああっ!!



 っふっ、クソ……ッッ!!」



 今の今までは、アイドレと、そしてスルーズからもたらされた魔力供給により、ルプスは半ば無理矢理その命を繋いでいた。


 がしかし、それはあくまで一時的なもの。



 ルプスとしては早急に魔洞地核を入手しなければいけなかったのだ。……なのに、ヴェリタス———レオンとの対決を優先した。


 それ故の死因。それが故の敗因。



 ルプスはこの時、もはや互いの誇りをかけずして、敗北を喫しようとしていたのだ。



「……っ、それでも、だなぁ……



 俺は———お前にだけは、負けられねえ……俺のプライドが許さねえ……絶対にっ!


 魔女も! イドも、アイドレも! スルーズも、ランバルスも、魔術世界も関係ねえ!


 俺は何がなんでも……1人で、お前を———ぶっ殺す……っ!」


『バイタル、不安定———ルプス様……』


「時間制限なんて関係あるか!……例え死んでもお前だけはっ! 俺の手でっ!」


 だがしかしこの時、少なからずもルプスは、魔女のことを気にしていた。


 魔女がいなければ勝てない。……そんな、ルプスにとっては到底認め難い現実と共に。






『なぜ、そうも魔女様を遠ざけるのですか』


「………………信用、ならない、んだよ……」



『なぜ、そうも———』



「もう、誰も……信用、ならないんだ。

 唯一信用できるのは、そうさ、お前みたいな———機械だけだ。










 サイドツー、だって、そうだ。


 俺の命令通りに動く。俺の言うことだけを聞いて動く。




 決して、俺を、



『……』


「だからだ。人も、魔族も、生きていて、誰かを騙し抜こうとする限り———」






『では……私から進言させていただきます』


 ルプスの言葉。普段最後まで聞くそれを途中で乱し、イドは自らの考えを話し始める。




『魔女様が、貴方を———ルプス様を、裏切るとでも、お思いですか』


「どうせいつか、その思いには裏切られる。

 だから、裏切られる前に、俺が裏切る。俺が殺す。この俺が、殺される前に———」



『私の導き出した論理的な結論によれば……




 彼女が裏切る可能性は、ゼロです』


「……」



『裏切る理由がありません。

 裏切る背景がありません。

 裏切る感情がありません。

 裏切る状況がありません。

 裏切る事実が、ありません』




「そんなの……それでも、俺は……そんな、そんなに———」






『では、貴方の信用し、そして絶対に裏切らない、機械の私から、もう一度進言しましょう。






 彼女は、貴方に、





 ———ゾッコンです』



「は……はあ??」



『その証拠に。その証拠として。

 貴方は今、未だにその命を繋いでいるではないですか』


「どういう———」


 イドの言葉。イドの発言。その意味をルプスは理解することのないまま、








『ルプスーーーーーーッッ!』


「は…………!」



 通信から聞こえてきた声は、魔女のものだった。

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