魔女の誘い:父さんの魔法
~ カナン ~
「痛いの痛いの飛んでいけ」
「うぅ、ぐす」
父さんは魔法使いだった。
「カナン大丈夫っ、ほら湿布を持って来たわよ」
「ありがとう母さん。助かったよ」
「ったく、そんな迷信より薬箱取にきなさいよ」
右足の打ち身に母さんが湿布を貼ってくれた。
「そうだ、さっき村長があなたを呼んでたわよ。たぶん私の甥御の件だと思うわ」
「わかった。ごめんけどカナンを頼んだよ」
「ええ」
杖を持ち、父さんが立ち上がる。
昔、ある秘術に失敗して父さんは体を壊し、歩くのに杖が必要になったそうだ。
「じゃあちょっと行って来るよ」
「父さん、行ってらっしゃい」
「うん」
杖を突いた父さんの背中が遠く、小さくなっていく。
父さんの魔法は何でも切ることができた。
治療魔法とかは苦手だったけど、父さんの魔法に掛かれば、暴れるグレイト・ボアも、ラージ・サラマンダーも、ワイバーンもいちころだった。
そして一つだけ、誰にも真似できない父さんの魔法があった。
―― あらゆる呪いを浄化する大魔法。
本当にどんな呪いも浄化してしまい、この地方を治めるナトアーク伯爵様も、死霊竜に呪われた息子を助けて欲しいとお願いしてきたことがあった。
彼に掛けられた呪いは凄かった。
彼に触れた水や木は一瞬で腐り、土は腐臭を放ち、石の階段はボロボロと崩れていった。
だから彼は聖銀で作られた靴を履き、聖銀の糸で編まれた服を着て、聖銀の水差しを使って水を飲んでいた。
浄化の儀式は丘の上の祭壇で行われた。
雲一つない星空と白い月。
杖を持つ父さんが彼の前に立った。
呪文は聞こえず、父さんの呼吸だけが聞こえた。
そして彼の足元から雷鳴が鳴り響き、空の彼方へと走って行った。
彼の呪いは消えていた。
駆け寄って抱き付いたボクの頭を、父さんはいつものように撫でてくれた。
「父さんの魔法は何ていうの?」
「これはね、【
「ちぃよめ、いかじゅち?」
「はっはっは、『きよめ いかづち』だね」
「きよめ、いかずち!」
……。
……。
ある日ボクの生まれた村は一匹の魔獣によって滅ぼされた。
赤焼けの雲に届く程のその魔獣を封じるために、父さんは自分自身を封印へと変えた。
父さんに封じられた魔獣は、今も氷の中で眠っている。
あの氷の封印を解くことは不可能ですと、ナトアーク伯爵の魔法使いと神官は言った。
あの魔獣を倒すことは不可能ですと、ナトアーク伯爵の騎士団は言った。
皆、誰もが口を揃えて不可能だとボクに言ってきた。
ならばボクが。
偉大な魔法使いである父さんの娘であるボクが、【
その誓いを胸に、ボクは故郷であるナトアーク伯爵領を旅立った。
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