第16話 スキル展開

 開けていく視界。

 俺の腕の中に傷だらけのカナンが見える。


『ヒール・レーザー』


 赤い洸がカナンを包み癒していく。


「イフリート、ってあれ?」

『カナンありがとう。俺はお前のお陰で忘れていたものを一つ取り戻す事が出来た』


 開かれたカナンの瞳。何よりも眩い緑色の目は、この世界で初めて美しいと思った輝きだった。


「あれ、イフリートが笑ってる」


 緑色の瞳の中で、騎士兜の面頬のような俺の顔が首を傾げる。


『おいおいカナン、俺はいつも笑顔を忘れない男だっただろ?』

「ぷっ、あははっ。うん、そうだったね」


 苦笑したカナンがしなやかな、猫のような動きで立ち上がる。


「へぇ、凄い隠し玉ねカナンちゃん。お姉さんびっくりしちゃった」 


 俺達の前に立ち塞がるのは、大剣を持つ冒険者ギルド受付嬢のククルと、クソムカつく髭面の魔法使いのジョン。


「あいつら強いよ」

『だが俺達程じゃないだろ』


「うん。そうだね」


 カナンが槍を拾う。

 軽々と回る穂先が奏でる、ヒュンヒュンと鳴る風切り音が頼もしい。


『あいつらをぶっ殺す! さっさとこの町を出る! 国境を越えて次の町に着いたら肉を食べて酒を飲む!』

「ボクは甘味スイーツを沢山食べる!!」


 両手を握り拳を構える。

 実体化した体の奥深くから、力強い血の脈動を感じる。


 俺の全身を覆う、重さを感じない金属のような質感の装甲から、赤熱した鉄色の魔力が噴き上がる。


「あっはっは。私達にぼろ負けしたカナンちゃんに、ジョンにいじめられて「助けてくだちゃい!」って泣いてた使い魔君が言っちゃうわね~」

「はぁ、さっさと戻って店手伝わねえとシェリーが切れるんだよな。だからお前ら死ね」


 瞬時に展開したジョンの氷の矢が、全て違う軌跡を描きながら襲って来た。


 やる気のない老け顔の癖に、こいつが使って来る魔法は一流だ。

 『鑑定』によると、あの氷の矢は全て毒で出来ている。

 なお掠っただけで人間の大人が昏倒するレベルとの事。

 斬り砕いた瞬間に飛び散る微細な欠片を吸い込んでもアウト。無論、対抗して炎で消せば気化した毒を吸い込んで詰む。

 

 しかしそもそも、氷の矢の威力自体が相当なものだ。

 ジョンの目が勝ちを確信しているのも、俺では防げないと判断しているのも、妥当な評価だろう。

 

 だがな、それは覚醒前さっきまでのお話だ!


『ダーク・シェル展開』


 俺の体から噴き出した黒い霧が、俺とカナンを包み込む。

 そして霧に触れた氷の矢は、瞬時に消滅していった。

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