第三話 嵐の前の静けさ
誰だ!? 俺のシャツを引っ張るやつは。
見ると、小柄な女の子が、俺のシャツを怒ったような表情で見上げながら握り締めていた。
ショートの前髪を二本の動物系ヘアピンで留め、おでこを出しているので女子中学生に見えなくもない。
俺の窓際席の右隣りの子だ。
「えぇと……確か……小森だっけ?」
俺は女子と喋るのが苦手なので、きっとぶっきらぼうに聞こえるだろうが、決して不機嫌なわけではない。
「っ! こもりん……」
「ん? なんて?」
「こ、こもりんでいいっ」
「こもりん?」
俺が
そして彼女は胸前で両拳をグッと握り締めていた。
俺が戸惑っていると、
「……痛くなかった?」
「へ?」
何のことだ?
「タコに殴られたとこ……制裁する?」
こわっ! 制裁て何!?
小森は、俺が
うそだろ?
いやしかし、小森の俺を見る目は真剣そのものだ。
ここは、彼女の誤解を解いて、穏便に済ますのが正解だろう。
「よく聞くんだこもりん」
「ん」
小森は真剣な表情でコクリと頷く。
「実は、俺の身体は鉄よりも硬いんだ。だから、あの程度の攻撃は全く効かん。つまりノーダメージだ」
「っあ……」
彼女は俺のアホな嘘に、さもありなんと納得したようにコクコクと素直に頷く。
まさか本当に信じてくれるとは思わなかったが……。
ま、まあ、素直ないい子じゃないか。
俺は、ホッとして、自然に小森の頭をポンポンしていた。
「心配ありがとな……こも……」
そう、平和な時間はここまでであった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます