14 早とちりは誰にでもあるよね……でも巡り合わせががが

「――こ、この辺りを治めている領主と揉めた……?!」


 堅砂かたすなくんと私・八重垣やえがき紫苑しおんは、大体の事情を守尋もりひろくんと少女から離れた所で聞く事になった。

 話をしてくれるのは、守尋くんと行動を共にしていた彼の幼馴染である伊馬いまさんだ。


 本来は本人達に事情を訊くのが一番良いんだろうけど、二人はこれからどうするかの会話の中心にいて離れ辛い状況だったからね。

 それゆえに、一番事情を把握していそうな伊馬さんに堅砂くんの思考通話テレパシートークで呼んで、頼んだのです。


「正確に言えば領主の息子さんなんだけど……」


 さておき。

 伊馬さんが話してくれた内容、つい一時間ほど前に起こった事は、次のとおりである。





 守尋くんたちは順調に魔物を倒しながら、街の周辺を歩き回っていた。


 ちなみに魔物を倒した証明は、魔物の部位を持って帰る、武器等の状態を確認する、冒険者協会の『計測係』に同行を願う、信頼ある第三者の証言などのいずれかで行われる。

 今回皆が選んだのは信頼ある第三者、すなわち神官さん達による証言での証明だった。 


 そうして神官さん達に見守ってもらいながら街道近辺を進んでいると、どこからともなく現れた一人の女の子が守尋くん達のところへ駆け込んできた。

 女の子は素足で傷だらけで、お世辞にも問題ない状態とは言い難かったという。


 直後、その女の子がやって来た方向から、魔物が――小さなゴブリンが数匹やってきた。

 守尋くん達は迷うことなくゴブリンを倒したのだが、さらにその向こうから豪華な装丁の馬車がやって来た事で状況は変わった。


『あーあ、つまらないことしてくれたな』


 馬車から降り立った、馬車と同じく豪華な装いの青年、領主の息子と名乗る彼は薄く笑いながらそんな事を口走った。


 彼によると、なんでも『たまたま拾った女の子に魔物を引き寄せる薬を飲ませて、街まで魔物から逃げきれるか』の遊戯ゲームをやっていたのだという。


 聞いただけで、とんでもなく苛立ちが募ってきたので、実際に目の当たりにした守尋くん達ならどうなのかは想像に難くない。

 まして、良い人な守尋くんなら尚更だよね。


 その時点でもそうなのに、その男性は、さらにこんな事を言ってきたらしい。


『まぁ仕方ない。またやり直そうか。――あ? これはその子との賭け事なんだよ。

 その子が無事成し遂げたら、望むものをくれてやる、そういうね。

 君達異世界人だよね。うちの領土ではよくある事だから知ってるよ。

 君達も似たような立場だろ?

 黙って自分達の仕事に精を出しなよ。

 ――ああ、見物したいってんなら特別に許してあげよう。

 前に来た異世界人たちは、同じような事をしたら喜んで協力もしてくれたからね、なんなら君達もどうだい?』


 高圧的な物言い自体も腹に据えかねたそうなんだけど……

 それよりなにより、女の子が弱っているのかひどくフラフラしていた事に、守尋くん達は怒りの感情を積み重ねていた。


『ほら、成功出来たら、望むものをくれてやるから。――やるだろ?』

『う、ぅぅぅっ』


 今度こそ、の言葉を聞いた瞬間、女の子が項垂れて崩れ落ちたのが、守尋くんの我慢の限界だった。


『……てめぇ! この野郎、そこになおれぇ――!!』




「で、領主の息子をぶん殴った……まではいいんだけど」

「いや、良くないが。殴る前にもっと穏当な手段を探せ」


 至極真っ当な堅砂くんの突っ込みに、私は大いに頷いた。頷きまくりましたとも。

 守尋くんの気持ちはすごくよく分かるよ、うん。

 女の子を守ろうとした気持ちそのものは滅茶苦茶に同意で拍手喝采ですよ、ええ。


 ただ、なんというか……相手にすぐに手を出すのは、ちょっとお勧めできないかな。


 まず状況確認――ちゃんと話の流れを把握してないと、非が誰にあるのかとか案外分からないものなので。

 それから、領主の息子さん的な虎の威を借るなんとやらな人って、接し方を間違えると粘着してきたり、変な手段に訴えたりするからなぁ。

 こっちの身を守る為にも可能な限り穏当な手段を探すのがいいのです、はい。


 という経験談めいた事を口にしたくなったけど、話の腰を折りそうなので止めておきます。


 ともあれ、堅砂くんのツッコミを受けた伊馬さんは、少し顔を引きつらせていた。


「こ、言葉の綾よ」

「使い方が違うと思うが」

「細かいわね……えと、その、とにかく殴っちゃったんだけどね。

 実はその……不幸な行き違いがあったというか、なんというか」


 

 なんでも、領主の息子さんは女の子を甚振って愉しんでいた――というほどではなかったらしい。


 そういうゲームをしていたのは事実だけど、女の子に怪我を負わせるつもりはなくていざという時は部下の人に助けさせるつもりだったそうな。

 で、女の子も食べ物やらに困っていたから、何かくれるなら、って結構乗り気だったんだって。

 ……というか、もしかして、とは思うけど、そのゲームとやらも女の子にご飯を上げるための口実だったのかな――うーむ。


 ちなみに女の子がフラフラしてたのはお腹が空いてたからだそうです。

 で、崩れ落ちたのは空腹が限界だったそうで……領主の息子さんは特に何もしてなかったらしい。


 そういう事を守尋くん達が知ったのは、女の子が眼を覚ましてからの事。


 倒れた女の子を反射的に守って、庇って、それを奪おうとした護衛の人を殴り倒してしまった上、領主の息子を脅すような事をした後だったそうです。

 結果、領主の息子さんは少し焦りながらも帰っていった……こういう時お決まりの「父親に知らせてやる」的な言葉と共に。



 いや、まぁなんと言いますか……こう、なんというか、星の巡り合わせが良くなかったかなぁ。

 誰もが悪い……とまでは言えないけど、それぞれもうちょっと言葉とか説明が足らなかったのかもですね、ええ。

 現場にいなかったから、あんまり決めつけは出来ないけど。 

  



「なるほど、状況は分かった。

 気持ちは分かるし、守尋が悪いとは言わない――ただ、軽率な事をしたな」

「は? 堅砂くんはあの子を見捨てればよかったっていうの?」

「言っただろう。気持ちは理解できると。

 だが同じ否定の意思を示すにしても、もっと方法があったんじゃないかっていう話だ。 

 あの子を助けるにしても下手したでに出て誤魔化す方法もあったはずだ。

 だから軽率だと言った――間違っているか?」

「うぐぐ、それはそうだけど……」

 

 周囲でも二人と同じような口論が為されている。

 守尋くんを止めるべきだったんじゃないか、じゃあ知らんふりしていればよかったのか、と。


 皆が沈んだ表情になっている理由はよく分かった。


 守尋くんの行動も、堅砂くんの意見も、どちらもきっと間違っていない。

 だからこそ、今後どうするべきかを考えて、今後どうなるかが心配なのは当然だと思う。


 ただ、今大事なのは――……んじゃないかな、うん。


 こんな時、どうするべきなのかを、私はたくさんの物語ヒーロー達に学んでいる。


 陰キャの私らしからぬ事で、もしかしたら周囲から孤立するかもしれない。

 だけど――私は、この世界でがんばると決めたからね。

 というか、私ってばそもそもずっと孤立してますしね☆

 ……ううぅ、自分で考えておいて自分にダメージがいくような思考はやめよう、うん。


 えと、まぁ、ともかく!


 守尋くんには敵わないけれど、それでも彼のように。

 そして、私が憧れてきた人達ヒーローのように、私は勇気を振り絞って見る事にした。

 その決意を示すように、迷いを振り払うように、手首をスナップさせてから、私は歩き出したのでした――女の子へと向かって。  

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