彼女は土に還らない
「考えるのに疲れちゃった」
最後に会ったとき、彼女は言っていた。疲れたのなら休めばいい。私は当たり障りのない言葉しか返せなかった。だって生きているかぎり、考え続けなければいけないのだから。
彼女と連絡が取れなくなってから三ヶ月が過ぎた。休めばいいといった手前、こちらから連絡を取ることは控えたほうがいい気がしていた。けれどここまで連絡が取れないことは珍しく、私の足は自然と彼女の家へと向かっていた。
チャイムを鳴らそうとして、玄関のドアがわずかに開いていることに気が付いた。ドアを開けると部屋中を埋め尽くすアイビーグリーンに目を疑った。床も壁も天井も、すべてがツタで覆われ、夏が始まったというのに、ここだけは温度が低かった。
部屋の中央が少し盛り上っていて、手でツタを裂いているとそこに彼女の姿があった。耳の後ろにある起動ボタンを何度押しても目を覚まさない。機械の体では死という行為を禁止された。けれど彼女は故障という名目で死んでいったのだと理解した。
あなたの隣にいれば死ねるかなと思って、けれどあなたとの思い出を消さない私は、これからもこの体で生き続けるしかないなと思った。
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