第22話 チャレンジカップ③ ライバル

 チャレンジカップ第一戦はスタジアムを超満員にして行われた。この試合、友近が代表で初のスタメンに抜擢された。一方、岡屋や中羽はいつもどおりベンチスタートだ。

 試合前、友近は加瀬にポジショニングやドリブルするエリアなど、細かい指示を与えられた。それを見ながら、岡屋は頭のうしろに手を組んでのけぞった。

「なんでトモだよ。俺のほうが足はえーぞ」

「でも、それだけだろ。お前、自分でそう言ったんだからな」

 錠は冷めた目つきで岡屋をあしらった。

 選手たちはおのおのモチベーションをもってこの日に臨んだが、出番がないことが分かっている錠だけはお気楽だった。試合中もベンチの隅で、ピッチ上のプレーをシニカルに眺めた。

「へっ、何やってんだ。だめだそれじゃ」

 日本はこの日も左サイドを中心に中盤は支配するものの、前線で決定力を欠いた。フォワードの右サイドを任された友近は、あまりボールがまわってこないなか、それでも積極的に動き回った。

 二十五分、左サイドの連携から枡田がゴール前に切り込む。相手は二人でそのマークについた。

右サイドでフリーになった南澤がボールを要求するが、枡田は単独で突破を図り、相手の守備網にかかってボールを奪われた。そこから相手のカウンターにあうも、ここは日本の守備陣が辛くも防いだ。

 その後、試合は両者無得点で経過し、迎えた後半十五分、加瀬が動いた。

「中羽、準備はええか、行くで」

 中羽は前回と同様に途中出場だが、より早い時間帯に投入された。期待値が高くなっている証ともいえる。

 中羽は枡田に代わってピッチに入ったが、より下がりめの位置からゲームを組み立てた。

 三十分。中羽はセンターライン付近から自分でボールを運んだあと、相手を引きつけてから友近にパス。ペナルティエリア手前、フリーでそれを受けた友近は、軽快にエリア内に進み、シュートを放った。これはわずかにポストをかすめ、ゴールならず。だが、この日最も惜しい場面だった。

 その後も中羽はパスを友近に集め、チャンスを創り出した。普段からシェフ市川で組む二人の連携は絶妙だった。

 錠は浮かぬ顔でピッチの動きを目で追った。岡屋も、無表情ながらしばしば頭をかきむしる。

 しかし結局、チャンスは幾度かあったが、前半から積極的に動き、疲れのみえる友近からゴールは生まれず。中羽の投入で流れを引きよせたものの、試合は〇対〇に終わった。

 引きあげる選手たちにサポーターから厳しい言葉が飛ぶ。

「なにやってんだ枡田、もっと激しく当たれ。鍛え方が足りないぞ」

「高村、すぐ倒されてんじゃねえ、気合入れろ」

 加瀬ジャパンの戦術のキーマンは高村だ。確かに、接触で転倒するその姿はよく見られる。が、高村はあの一文字以上に大きく強じんな体だ。相手も相当強く当たり、反則すれすれで倒している。枡田にせよ、よくフィジカルの問題を指摘されるが、あのテクニックは身軽だからこそともいえる。逆に高村のような体では、枡田のような身のこなしは難しいだろう。

「ああ、これだから素人は困るんだ。何もわかっちゃいないくせに、文句だけはいっちょまえだな」

 錠はサポーターの声をあざけり笑った。

 そのときだ。ほとんどの選手に野次が飛ぶなか、一人の青年がスタンドの最前列から身を乗り出して叫んだ。

「中羽! 信じてるぞ」

 その青年はレプリカのユニフォームを着たり、バンダナをしたりという出で立ちではなかった。

中羽はちらと見たが、クールな顔にかすかに笑みを浮かべただけでその場を去った。

 近くにいた錠には、それが鼻で笑ったように見えた。

 つられて、錠も冷ややかな笑みをこぼした。

 へっ、自分のことがんばれよ。人を応援する暇あんなら――。

 ここで錠にも声が飛んだ。

「次はレインボー期待してるぞ」

 錠は声のほうをあえて見なかった。これみよがしに鼻を鳴らして、ピッチをあとにした。

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