一難去って

 津山城の一室、窓もふすまもない薄暗く、仏像が小さく鎮座しているだけの土壁の部屋で安崎は五郎と向き合っていた。




「どうなる?」


 「直接戦に及んだわけではない西部領にはいくばくかの銭を払って終了です。」


「銭か。」


「神聖教としての抗争ですので法外な値にはならないはずです。ふっかけすぎると神聖教の面子を潰すことになりかねませんから。」


「ああ、教義にあったな。」


「ええ、過度な欲得は教義に反します。占領地は返還となります。加えて美咲家には

 領主を討ち取った当家が見舞金を払うことになります。」


「欲をかきすぎたな。美咲領を落とした段階で講和すべきだったか。」


「まさか、真庭が内輪の抗争に参戦してくるとは・・・」


「いや、良い。予想できたことだ。」


「しかし・・」


 言いつのる五郎を制して安崎は続ける。


「たしか西部では三朝家の次男が真庭領領主家に婿入りしたと聞くが?」


「はい。当家や南郷家と異なり三朝家は現地の領主家の力で統治を行おうとしたようです。」


 ふう、と五郎が悩ましげにため息をつく。


「三朝家次男秀郷殿と真庭領主家の姫は蜜月の仲だそうです。おかげで統治も滞りないとか。」



「はい。 たのでしょう。



 






 殿、


 これほどの大戦ははじめてだ。



 それは・・・彼らはこの土地の領民ですから


 そうだ。ろくに面識も無い俺に



 いいや?ただ俺は領主になったんだなと思ってな。



 荒れた土地ガレ場漁夫の利をねらうものだろ。

 ・・・そうですね


 そうだな・・・


 完全に俺の失策だ。なあ


 なにをいうのですか。


 お前の能力ならどこでもやっていけるだろ


 ・・・はあ。殿、私のような氏素性怪しき者を取り立てる酔狂な方はそういません。


 ん?


 ここを出て行くことなど致しませんよ


「そうか。ならば、氏素性の怪しい者同士これからもよろしくな。」


 安崎はにやりと笑ってそういった。



 「」


「まあ、そういうな…」


 の言葉をかけようとした安崎は動きを止める。


 深く息を吐き、上を向く。


「五郎。『基本方針』覚えているか?」


五郎は、気づかわしげに安崎の顔を伺った。


「なにをやっているんだろうな、俺は。」


 五郎が口を開きかけたとき、どたどたと足音がした。



「ご注進!ご注進!但馬山名が因幡に進軍を開始したとのこと!」


 戦国の世は反省する時間すら与えてくれないらしい。

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