第9話 裏切り者

「久しぶりだな、ユーゲン」

「……誰かと思ったらヨークか」

「お待ちしておりましたよ、チャッピー」

「お久しぶりです、カイサー」


 えーっと、誰? いきなり会話しないでもらえるかな。


 情報を整理しよう。

 椅子に座っている男が『ヨーク』で、ヨークが声を掛けた『ユーゲン』ってのがキャプテンの……て言うかそんな名前だったのか。

 それにチャッピーと『カイサー』ってやつがお互いに挨拶をしていたので、向こうの立っている男がカイサー。


「皆さん、知り合いのようですね」


 で、今俺に声を掛けてきた大男がカッサム星人のジェル。そしてマイネームイズ『ヒイロ・ミヤケ』。

 登場人物は全部で6人。向こうは2人でこっちは4人。

 当然ながら、皆さんの中に俺は含まれていない。


「待てチャッピー、どこへ行くんだ」


 すると突然、チャッピーが歩み出し二人の男の方へ向かった。

 キャプテンの声を無視し、彼女は歩みを進める。


 彼女は彼らの下に到着すると、ヨークに従えるかのように、カイサーの対極に立ち、顔をこちらに向けた。


「どういうつもりだ、チャッピー!」

「キャプテン、私は確認しました。、と」

「……っち、そういうことか」


 舌打ちをしたキャプテンは足を力強く踏み締めながら、チャッピーの元へ向かった。


「ちょっとキャプテン、そういうことかって、どういうことだよ」


 と俺の声を無視し、彼女は向こうに行ってしまった。


「つまり、こういうことだ」


 キャプテンはそのままチャッピーを超えて後ろに周り、ヨークの背後に立った。

 彼女はドヤ顔で腕組みをして、こちらをにらんでいる。


「「どういうことだよ」」


 俺と初対面のヨークの声がハモった。

 どうやら彼もよく分からず困惑しているらしい。


「チャッピーが裏切るなら、僕も裏切ることにするよ。これで4対2。形勢逆転だ!」

「いや、ダメだろ」


 ヨークは呆れた声で後ろを向いて、彼女に突っ込んだ。

 そしてキャプテンは両脇にいるカイサーとチャッピーに取り押さえられた。


「な、なぜだヨーク! 僕は君の味方だぞ」

「味方かどうかは俺が決める。少なくともオメェはケジメをつけてからだ」


 なんだかよく分からないが、少なくともヨークは真っ当なことを言っている気がする。

 キャプテンはジタバタするが、カイサーとチャッピーの拘束からは逃れられない。

 しばらくして彼女は観念したのか、はたまた力尽きただけなのか大人しくなり、そして眠ってしまった。


「ははは、よく眠る女だ。オメェも苦労したんだろ、ヒイロ」


 初対面のヨークが突然俺の名前を呼んだ。

 慌ててジェルの顔を確認するが、彼は手を横に振るので、彼が教えたわけじゃなさそうだ。

 俺はヨークの方に目線を戻した。


「まぁそう警戒すんなよ。オメェのことは断片的だがチャッピーこいつから聞いている。珍しい星の出身なんだって?」


 ヨークはチャッピーと繋がっていた。

 だから彼女はこの場面のこの展開を知っていたのだ。


「……ええ、まぁ」


 今は生返事で答えるしかない。荒っぽい口調といい、彼は警戒せざるを得ない。


「ヨーク様、私から説明しましょう」


 緊迫した状況に痺れを切らしたのか、チャッピーが自ら口を開く。

 そしていつものように、どこからとなくモニターが現れ、映像が映し出された。



 ――2年前。


 全ての元凶はここから始まる。


 宇宙大手財団のエリア長を務めるヨークの下に一人の女が現れた。

 彼女の名はユーゲン。


 ユーゲンは故郷を追われた難民で、彼女はヨークを頼った。

 当時人手は足りていたが、境遇に同情し、ヨークはユーゲンを住み込みで働かせることにした。


 数ヶ月が経ち、彼女も仕事に慣れてきたことろで事件が起こった。


 ユーゲンは乗組員としてCHAPー01チャッピーを搭乗させ、宇宙船を盗んだのだ。


 当然ヨークは追いかけようとしたが、気づいた頃にはもぬけの殻。ユーゲンは自らをキャプテンと名乗り、広大な宇宙へ旅立ってしまった。


 そして数ヶ月後、地球でヒイロと出会い、宇宙船が自爆。復旧までに地球で1年過ごすこととなったのだ。


 ヨークは宇宙船を諦めていたが、2年経ったある日に信号をキャッチする。

 今まで逃亡の為にオフラインにしていたチャッピーの信号がオンになったのだ。

 これが彼女の言った伏線であった。


 あとはチャッピーから行き先を聞いたヨークがカッサムに先回りし、ジェルに頼んでユーゲンとチャッピーを自分の元へ誘導するように指示したのだ。逃走不可能な地下の底へ――




「「そうだったのか」」


 またヨークと台詞が被った。俺は今までの経緯を全く知らなかったが、彼は断片的なことしか知らなかったらしい。


 そして思い出したかのようにヨークが俺を睨んだ。


「ってオメェ、俺の船自爆させたのか?」


 ……やべぇ。詰んだ。



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ビリオン・デッド 〜10億回死んだ男〜 モモノキ @momonokiki

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