第14話:暗闇の中

明かりもない深い森の奥、ポツンと建つ穴だらけの小屋の中、隅っこで膝を抱えるノドカがいた。

ノドカは絶望していた。

せっかく見つけた自分の居場所が無くなってしまった。

異世界に来た私を、助けてくれた人がいなくなってしまった。

初めて私を助けてくれた人がいなくなってしまった。

これからは前世と同じように、たった1人で生きていかなければいけないのだろうか。

家に戻ったら誰かと一緒にご飯を食べる、誰かに今日あったことを話す、誰かと同じ思い出を作る。

この異世界でも、それすらできないのだろうか。


ノドカは絶望した。

また前世のように、誰にも頼ることなく夜の街を彷徨い、誰に襲われるか分からない暗闇に身を置くことになるのか。

家と呼ばれる場所が、また誰もいない暗闇に戻るのか。

友達のソフィアもそんな思いをすることになるのか。

そんな時、ぼんやりとカーラの声が響いてくる。

「お前たちが今何もしないと、本当に全てが無駄になるんだぞ!!」


ノドカは考えていた。

全てが無駄になるって言ったって、もう全てが無駄になった後だ。

カイルさんは毒にやられ、追手がこの家に来るのは時間の問題だ。

どこにも逃げ場所が無い私は、捕まって奴隷になるか処刑されるかのどっちかだ。

もう全てが終わった後なんだよ。

それならいっそ、このまま朽ちていった方が楽かもしれない。

少しでも思い出があって暗闇じゃない場所で、朽ちるのもいいかもしれない。


ノドカは考えた。

でも、もし逃げる場所があるならそこに行きたい。

大好きな皆と一緒にそこへ行きたい。

いっつも私のことを庇ってくれるカイルさんも、私より戦えるのにいつも頑張っているソフィアも、ちょっと恐いけど仲間になってくれそうなカーラとケイトも、みんなでそこに行きたい。

そういえば、カーラとケイトに助けてくれてありがとうって言い忘れてたな。

カーラは重たい私を担いで逃げてくれてたもんね。

ケイトもソフィアを担いでたし、よくわかんない薬みたいなもんが大量に入った鞄も持っていたし……?

薬を持っていた?


ノドカは希望を抱いた。

そういえば、ケイトはすぐにカイルさんに何か飲ませてたな。

カイルさんがよくわかんないけど倒れた時、カイルさんに向かっていったのは見ている。

あれって何してたのかな?

水も飲ませてたけど、あれって何か薬をのませてたみたいだ

それなら……カイルさんは助かって……る?


ノドカは目を覚ました。

周囲は真っ暗で何も見えない。

このままではいけないと何かに躓き、こけながらも拠点の扉を開けて外へ出る。

そこには火の消えた篝火を囲って座っているカーラとケイトがいた。

「ケイトさん!!」

私はそう叫んでケイトに迫る。

「な、なに?」

ビックリしたケイトが答える。

「ケイトさん!カイルさんは助かっていると思いますか?」

私は聞いた。

「……。毒にも依る。けど、すぐに薬を飲ませたから、助かっている可能性は高いと思う」

そう聞いた私はさっきよりも強い力が湧いてくる。

そうか助かっているかもしれないんだ!

まだ取り戻せるかもしれないんだ!

このまま終わらせちゃいけない!

そう思った私の口からは、自然と次の言葉が出ていた。

「分かりました。それじゃあ、カイルさんを助けに行きましょう!!」

それを聞いたカーラとケイトが、顔を見合わせ笑う。

「どうやって?」

普段は絶対に笑わないケイトが、そう微笑みながら質問する。

「どうにかします!!」

私は自信満々に答えた。

「答えになってないじゃん!……けどまぁ、頼まれたからには、やってやりますかねぇ」

と言って、カーラは篝火に薪を入れて立ち上がった。

「為せば成る為さねば成らぬ何事もです!」

昔教科書で見て、好きだった言葉だ。

「何言ってんのさ、全く。さぁ助けにいくなら、さっさと計画を考えるよ!」

そう言って笑いながらカーラが私の肩を掴んで、拠点に入っていく。

篝火の火は、再び激しく燃え上がっていた。


拠点に入った私は、今日初めてランプに火を入れる。

床には憔悴しきったソフィアがいた。

私はソフィアの手を掴み、引き上げて言った

「カイルさんを助けに行こう!」

「ノドカ……カイル様はもう……」

「そんなことない!!」

ソフィアの言葉を遮って言う。

「ソフィアはもういいの?カイルさんとお別れは済んだの?」

「っ!そんなわけないじゃないですか!!まだ、まだ恩返しをしていません!!」

「それじゃあこっちに来て!カイルさんを助けに行くよ!!」

有無を言わさず、ソフィアをテーブルに引き摺っていった。


「それで……マジな話、どうするのさ?気合だけあっても無理なもんは無理だぞ?」

「とにかく情報も人手も無い」

そういうカーラとケイトの話を聞きながら、私は今までの人生で経験したあらゆることを思い出す。

どういう時に人が怒るのか、どうすれば悲しむのか、どうすれば思い通り動かせるのか。

自分が望む未来を掴むため、ありとあらゆるものを捨てる覚悟を決める。

そして導き出した作戦を説明すると、3人は大きく目を見開きながら固まるのでした。


数時間後。

朝焼けと共に私たちの拠点は火に包まれ、大きな黒い煙を上げていた。

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