第7話 AI採点と実際の上手さの相違について

 「ごめーん!ちょっと遅れちゃった〜」

 片手を上げ、能天気な顔をしながらもう片方の手で自転車にブレーキをかけそう言ったのは誘ってきた張本人である綾。

 「おせぇな、誘ってきた側なんだからもうちょっと配慮しろよ」

 「えー?ごめんごめん。けど今日の主催者は私じゃなくて、ゴッチだよー」

 そういえばゴッチはカラオケ好きだったな。

 「まあそれはどうでもいいけど、カラオケってどこでするんだよ?俺道知らんぞ」

 「あーそれはゴッチが連れてってくれるから大丈夫だよ。ねー」

 ゴッチはアタック気味の筧と喋っており、こちらのことは気にも留めていない。

 「とりあえずさ、早く行こうよ!6人もいたら時間ちょっとじゃ足んないよ〜」

 「氷丘の言う通りだな、できるだけ早く行こう」

そう言ったのは片桐と仲のいい丙だ。丙は何かと話の分かるやつで、この中なら常識がある方になるのだろう。ちょくちょく話すが、気が悪くなることがなくて話しやすい。


 カラオケがあったのは俺たちの中学校の最寄り駅になるともしび駅の近くで、都会でもなく田舎でもないような感じの場所だ。

 「いや〜久しぶりに来たよ〜、上手く歌えるかなー」

と言うのは片桐。

 「誉絶対うまいよ!しらんけど」

と綾。綾と片桐は同じバレー部であり、仲がそこそこ良かったりする。なんせ綾は人懐っこい性格なので、すぐに人と仲良くなれる。その点俺は人見知りな性格なもんで、小学校からの綾とゴッチ、同じ野球部の筧と同じクラスの丙はいいがこの片桐だけは全く知らない。少し気まずい…


 俺たちは適当に機種を選び(JUYSOUNDになった)、ドリンクバーを入れ部屋に入る。6人なので少しばかり大き目な部屋を用意してもらったような気がする。

 「じゃあじゃんけんで順番決めるよ!最初はグー…じゃんけんポン!」

綾がこう言って半強制的にじゃんけんをした。俺がグーで、綾がパー、丙もパーで、筧はグー、ゴッチと片桐はパー…

「やった勝った!」

 綾は元気に言う。たかがじゃんけんで…

 俺は結局ゲベで、6番になった。まあ1番よりはいいか…最初は綾が歌うようだ。

 綾は基本なんでも無難にこなせるタイプで、歌も中々に上手かった。綾の好きなクイーンヌーは男の人がボーカルのようだが、声域が高いため女性が歌っても問題はなかった。点数は…


 88.796 AI加点1.349 合計90.145


 「よっしゃ、一発目から90!」

 ふん、1曲目で90とは容赦ない。まあ無理もないか、綾はクイーンヌー聴きまくってるしな。

 筧は顔だけは整っている綾やゴッチとカラオケに来れていることがとても嬉しいらしく、テンションが高かった。90点を取った綾には、

「歌声も完璧でめっちゃいい」

 と訳の分からぬことを言っていた。

 2人目は丙で、最近好きなバンドの曲を歌い、87を出した。まぁ無難だな。ここで面白かったのが、点数の中のリズムに関する点が満点で、安定感バツグンとの評価を貰っていたことだった。丙はたしか家族でライブに行くほど音楽が好きな家庭であり、丙自身も買ってもらった電子ドラムを叩くことが趣味らしかった。

 3人目はゴッチだ。ゴッチは大のカラオケ好きで、毎週必ず1回はカラオケに行く。暇な時はフリータイムを2日続けて歌ったりもする。まぁ一言で言えばカラオケマニアである。カラオケマニア曰く、

「JUYSOUNDは点取りやすいからら100も狙うぜ〜」

と。まぁ100はさすがに厳しいだろうが、本当に取ってしまいそうな雰囲気があるのがすごい。

 予想していた通りゴッチの歌声はとても綺麗で、少し前一世を風靡したAboのような変幻自在な歌声である。筧は綾の時とはまた違った表情でゴッチを見ていた。

 綺麗な歌声が終わり、採点に移る。100本当に取っちまうのかな…


 98.109 AI加点1.866 合計99.975


 とても惜しい。こんな点数をリアルで見たことがない。ゴッチは本当に歌に関してはめちゃくちゃすごいと思う。綾ははしゃいで写真を撮り、

「ねえ!これイソスタあげていいかな!これめちゃくちゃすごいよ!」

「恥ずかしいから無理ー」

 と、無理なお願いをしていた。

 4人目は片桐。あまり知らないが、丙曰く、歌はまあまあいいらしい。少し期待。

 片桐はあいきょんが好きらしく、あいきょんの曲を歌っていた。マッチした歌声で、全然聴けるものだった。


 90.340 AI加点0.723 合計91.063


 音程もかなり取れていたし、綺麗な歌声だったが、きっと抑揚のなさが響いているのか、AI加点があまりなく、91止まり。それでも十分すごい。

 丙とハイタッチし、席に座って、筧が話しかけてくるのを適当に流していた。もう筧はスルーされてるのか…なんだか可哀想だ。

 5人目はその筧。筧とは仲がいいとはいえ、中学からの仲であり、歌はどうなのか不明。

 あまり上手くない…まあ音程は半分ぐらいは取れている気がする。歌っている曲が少し難しいのもあるのかもしれない。


 85.423 AI加点1.430 合計86.853


 んー、AIの情けで1.5ぐらい上げてもらってるが、正直褒められたものではない。俺がすかさずフォローに入る。

 「ごっつへたやなー」

 「お前、そんな直球に言うな!」

 綾とゴッチの能天気組は笑う。丙と片桐はフフっとしている。フォローは上手くいったようだな。

 さて、最後は俺である。俺はもちろんずとあけ(ずっと明け方でいいのに)の曲を歌う。俺はこの曲のベースが好きだから、皆にもぜひ聴いてほしい。

 綾がニヤニヤしながらこっちを見ているが気にせず歌い、終わってマイクを置く。点数は…


 88.981 AI加点1.018 合計89.999


 なんてこった。ギリギリ90に届かないのが1番悔しい。筧と綾は笑う。少し怒りを覚えながらも、がっかりした。まぁAI採点は実際の上手さとは関係ないし。別に気にする事はない。


 そんなこんなで3時間ほど歌って、俺たちは店を出た。

筧「綾ちゃんめっちゃうまかったな〜」

綾「いやー、ゴッチの方がうまいよ」

丙「あれはもうプロの域よね」

片桐「レベルが高いよねー、あんなに綺麗に歌えたら楽しいやろな〜」

ゴッチ「いや、誉も全然上手かったやんか。普通に94とかいってたしな」

片桐「えー、そう?ありがとうー」

綾「渉は、結局90も1回ぐらいしか出んかったしなー」

俺「うるせぇ、上手さは採点だけじゃねえんだよ」


 相変わらず綾はうるさいが、何やかんやで楽しかったと言えるだろう。色んな子と話せる機会になったし。まあちょっとゴッチの上手さはレベルが違うが…

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八尺渉少年の日常譚 問屋持丸 @ztmy

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